ラマザーンへのいざない(8) -逸話
今回は物語をご紹介することにいたしましう。
昔、優れた手腕を持つ金属加工の職人がおり、その優れた技術により、非常に精巧な鍵やインクつぼを製造していました。ある日、彼はそうした製造品を時の国王に献上しようと思い立ちました。この職人は、自分が造った製造品が非常に優れたものであることを知っていたため、時の王が自分の製造品を気に入り、自分に目をかけ保護してくれることを期待していました。
この職人は時の王の下へと参上し、自ら製造した鍵とインクつぼを王に謙譲しました。彼の予想通り、国王はこれらの品々がとても気に入り、この職人を賞賛しました。職人は喜びに浸り、自らの腕前を誇りに思いましたが、彼が喜んだのもつかの間のことでした。それは、ある学者が王様への謁見を求めているという知らせが届いたからです。王様は、学者を歓迎し、手厚く接待するとともに、この学者との対話にふけり、金属職人の手腕の素晴らしさを忘れてしまいました。この職人が、王様と学者を傍観していると、あれほどの威容と威厳を誇っているはずの王様が、学者を前に神妙になり、恭しく彼の話に耳を固めているではありませんか。もはや、職人が抱いていた希望は粉みじんに吹き飛んでしまいました。彼は、自分の手腕では、期待していたほどに王様から目をかけてはもらえないことを悟りました。しかし、強い意志を持つこの職人はこのまま引き下がることはできず、何とか学問や知識を身につけて、一度は失った望みを再び見出そうと考えました。
この金属加工職人にとって、学問を学ぶ事は決して容易いことではありませんでした。当時、彼はすでに40歳に達し、若い時期は当の昔に過ぎており、学問の道を進んだほかの人々とは状況が大きく異なっていました。子供と机を並べ、彼らとともに学ぶことは容易ではありませんでしたが、それしか方法がありません。そこで彼は、いつ学んでも遅くない、とつぶやいたのでした。
この職人は、学問の習得を開始しましたが、自分の学習能力が低いことに気づき、おそらくは長年職人の道一筋に生きてきたがために、学ぶ能力が衰えてしまったのだろうと考えました。しかし、こうした長年のブランクや能力不足にもめげず、それまで以上に本腰を入れて学問の習得に励みました。
ある日、この職人に教師がイスラム法学を教えていました。そのとき、教師はこの職人に対し、「指導者の指示通りに犬の毛皮をなめし皮にする」という内容を教えていました。職人は、この文を何度も繰り返しつぶやき、試験の際にこれをうまく答えられるよう努めました。しかし、いざ教師を前にこの文を暗誦しようとしたとき、まったく逆に答えてしまったのです。彼が答えたのは、「犬が考えていることは、師匠の皮をなめし皮にすることだ」という内容でした。同席していた他の人々の間から大きな笑い声が起こりました。彼らはみんな、この職人はいくら勉強してもしかるべき成果はあげられないだろう、と思い込みました。
この職人は、あまりの恥ずかしさに教室から飛び出しました。彼はもはや、学校や自分の住む町にとどまることはできなくなり、砂漠に向かいました。彼は、あてどなく山のふもとに向かいました。
すると、谷間から岩の表面に水が滴り落ち、長年にわたり水が滴り落ちた影響で、岩の表面に穴が開いている事に気づいたのです。彼は、ふとある事を思いつき、次のようにつぶやきました。
「私の頭がこの岩より硬いということはない。私も、努力の積み重ねにより、なりたい自分になることができるのだ」
こうして、この職人は町の学校に復帰し、それまで以上に学問の習得に励みました。その結果、秘められていた才能が開花し、この職人はアラブ世界でも類まれな学者になった、ということです。
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