ファールス州;歴史、自然、文化
これまで数回に渡り、イラン南部のファールス州を訪れ、この州の歴史、自然、文化についてご紹介しました。今回のシリーズでは、まず、ファールス州のこの他の特徴についてお話しすることにいたしましょう。
ファールス州は、実り多い大地、豊かな水、温暖な気候、良質の土壌といった自然の特徴を持ち、常に人々の注目を集めてきました。多くの歴史家や地理学者が、この地を賞賛しています。その中に、982年に編纂された、最古のペルシャ語の地理書があります。この本には、ファールス地方についてこのように記されています。
「ファールスは、多くの恩恵を持つ繁栄した土地、商業の地であり、そこには数々の山や河川がある。この地方の人々は賢く雄弁である」
歴史や地理について書かれた最も信頼できる書物のひとつ、イブンバルヒーの記した「ファールスナーメ」という本には、ファールス州について、「非常に素晴らしい土地であり、そこには山、湖、大地が存在し、熱帯や寒帯地方で取れる、あらゆる農作物が見られる。ファールスの住民は高潔な人々である」と紹介されています。
前回のシリーズでも触れたように、ファールス州の適した気候により、現在も、この地方はイランの農業の中心地となっています。イランで、小麦の年間生産量が最も高いのが、ファールス州にあるファサー行政区です。近年、果樹園が拡大され、ナツメヤシ、イチジク、かんきつ類、ナッツ・ドライフルーツ、小麦、大麦、とうもろこし、米、その他一部の薬草、様々な植物から取れる薬用の蒸留水などが、ファールス州の主な輸出品となっています。
このところ、ファールス州の農業は、工業と密接に関係するようになっており、工場で作られる加工品の材料の90%が、この地域の農業部門からまかなわれています。この州の大きな潜在能力に注目し、ここ数年、ファールス州の工業は注目を浴びるようになり、この州の工業の下部構造は、この4年間で200%成長しました。
ファールス州の工業部門の輸出額は、2005年には600万ドルだったのが、現在は6000万ドル以上に増加しています。石油化学、砂糖、セメント、タイヤ、化学物質や鉱物、木材、紙、金属は、ファールス州で、質と量の点で好ましい成長を遂げている生産部門です。さらに、電子・電気産業も目覚しい成長を遂げており、シーラーズは、イランの電子産業の中心地として知られています。
ここからは、ファールス州の自然の見所のひとつ、マールグーンの滝をご紹介しましょう。マールグーンの滝を訪れるには、ファールス州の行政区のひとつ、セピーダーンに入ります。
セピーダーン行政区は、山岳地帯にあり、イランの西から南にかけて連なるザグロス山脈の一部、ファールス州北部の森林に覆われています。セピーダーンがファールス州の他の行政区と異なる点は、滝、泉、緑豊かな森林など、自然の景観にあり、年間を通して、イラン各地から多くの観光客を受け入れています。豊かな鉱水の存在により、この地域には多くのミネラルウォーター生産工場が作られており、その一部は国外にも輸出されています。
セピーダーン地域の自然の魅力は、春や夏の爽やかな気候、湧き出る泉、神秘的な景観だけに限られません。この地域の美しい冬は、スキーやロープウェーといった娯楽と共に、セピーダーンの観光の魅力を倍増させています。冬の休暇の間、この地域には、ウィンタースポーツや自然を愛する多くの人々がやってきます。
それでは、セピーダーンの最も美しい見所、マールグーンの滝をご紹介しましょう。この滝は、イランの自然遺産とされています。マールグーンの滝は、イランにある最も壮麗な滝の一つで、ファールス州の州都シーラーズから125キロ、セピーダーンの傍らにあるマールグーンという名の村の近くにあり、コフキールーイェ・ブーイェルアフマドとファールスの2つの州の境に位置しています。
マールグーンの滝は、高さ70メートル、幅100メートルで、非常に美しい景観を作り出しています。滝の水は、山の上から河川となって流れてきており、幅100メートルに渡って流れ落ちる水は、美しい絵画のようです。木に覆われた傾斜のある山すそ、背の高い山、コケむした岩、周辺にある泉の豊かな水、これらは皆、マールグーンの美しい滝の魅力となっています。
冬になり、気温が下がると、この滝には氷のつららができ、驚くほど美しい光景を生じさせます。また、リンゴの果樹園やカシ、テレペンチン、クルミ、ヤナギ、モミの木、その他、野生のヘビノボラズの木も、この地域の自然の魅力を増しています。
ファールス州は、数多くの歴史遺産や美しい自然を有していますが、この他、伝統工芸もさかんに行われており、それぞれが特別な名声を得ています。こうした伝統工芸には、寄木細工、象眼細工、タイル細工、彫金、またじゅうたんやギャッベ、ゲリームなどの遊牧民の手織物があります。ファールス州の遊牧民の手織物については、前回のシリーズでお話しました。今夜は、この他の伝統工芸についてご紹介しましょう。
寄木細工は、イランの人々や芸術家の情熱をあらわす、美しい手工芸のひとつで、ファールス州の伝統工芸に特別な魅力を与えています。寄木細工は、小さな三角形の木材や象牙をモザイクのように並べて作る芸術です。これらの三角形がより細かく、それによって作られる模様が整っていればいるほど、優れたものとされています。もちろん、寄木に使われる材料が良質であれば、その作品の価値も高まります。この芸術は、世界で最も繊細なものとされており、1センチ四方の寄木の中に、150個から180個の三角形の小片が使われています。
この他、ファールス州を代表する伝統工芸に、木象眼を含む象眼細工があります。特にアーバーデという町は、昔から優れた作品がうまれることで知られてきました。アーバーデでは、象眼細工の施された家具やチェスボード、箱が作られています。ファールス州、特にシーラーズは、昔から、銀製品、銀の上に施された彫金で有名で、コップやグラスの取っ手、お盆や器などに、ペルセポリスの美しいレリーフが施されています。この他、彫金が施される素材には銅や真鍮もありますが、銀よりも価値は低くなります。
ファールス州では、伝統的な刺繍、陶器、タイル、その他、鏡細工や造花、装飾品の制作が盛んに行われてきました。ファールス州やシーラーズへの旅行者は、こうした伝統工芸品をおみやげにし、後にそれらを見て、この地域への旅を思い出すことができるでしょう。
ファールス州やシーラーズのお土産としては、この他、オレンジのつぼみ、ミント、チコリー、野バラなどの天然のエキスや蒸留水がお勧めです。また、メイマンド産のバラ水も、ファールス州を代表するお土産の一つで、世界的な名声を得ています。