9月 19, 2016 14:55 Asia/Tokyo
  • 象嵌細工
    象嵌細工

イランの伝統工芸をご紹介する中で、今回は、象嵌細工についてお話しすることにいたしましょう。

象嵌細工

 

前回の番組では、昔から木材は世界各地で伝統工芸の制作において貴重な原料の一つであったことをお話しました。イランでは職人たちが豊富な自然から得られるこの原料に注目し、それを日常生活や芸術に多く用いています。

 

ドイツの旅行家アダム・オレアリウスがはその旅行記の中で、イランにおける木材とその使用について、詳しく記しています。様々な木材の美しさや特徴、建物や装飾におけるその使用方法がその旅行記の中に書かれています。彼はこの中で、職人によって作られた窓について触れています。その窓は非常に美しい木の格子で飾られ、天井もまた木の柱の上に掲げられています。

美しい木の格子で飾られた窓

 

象嵌細工は特別な道具を使って、木材の上に凹凸の模様を作り出していく芸術です。ペルシャ語で象嵌細工はモナッバトカーリーと言い、その言葉の由来はアラビア語で、モナバットは植物、発育するものを意味します。中には草花のレリーフがあたかも植物が木材の上で発育しているかのように見えることから、それをモナバットと呼ぶようになったと考える人もいます。

 

歴史資料によれば、象眼細工の施された木工品の有史初期のものはほとんど残されていません。なぜなら木材は時間がたつにつれ、熱や湿気、その他の衝撃で腐ってしまうからです。象嵌細工の最古の作品は、紀元前2500年の木の像で、エジプトで出土しました。さらにアーリア人の円筒形の印章は美しい模様がその上に施され、この民族が木工品に周知していたことを表すものです。古代イランの王たちは、芸術的に彫られた円筒形の印章により、必要な命令を出し、この印章の上にシンボルを刻んでいました。

 

アメリカのイラン学者、アーサー・ポープは、このように記しています。

 

「基本的に高価な石や木の彫刻はアケメネス朝時代より数千年前にさかのぼるというべきだろう。イラン人はアケメネス朝政府が誕生する数百年前に、象嵌細工を発明し、それを使用していた。少し前までは一部でこの芸術は間違ってギリシャのものだと言われていたが、実際ギリシャ人は象嵌細工や印章作りにおいてアケメネス朝の模倣をしていた」

 

イラン南西部のシューシュや南部のペルセポリスで発見された石の作品の中で、木材の上に施された作品もいくつか見つかっていますが、イランではイスラム期に象嵌細工の成長と繁栄が見られました。イスラムの誕生後、イスラムの宗教施設やモスクの建設が広まったことから、イランの芸術家たちは自らの才能をモスクの装飾に注ぎ、建築芸術の出現と共に、象嵌細工の職人もモスクにあるコーランの書架や説教壇、扉、窓の中に作品を生み出していました。

コーランの書架

 

イラン人は、絵画、彫刻などの芸術において長い歴史を有し、木工芸術やとくに象嵌細工に次第に親しんでいきました。サファヴィー朝時代、象嵌細工は扉、説教壇、コーランの書架、部屋の木の柱、短剣の持ち手、スプーン、皿などに施されていました。とはいえ、次の時代になるとそれらの一部は次第に衰退し、書架や鏡の枠といった小さなものに見られるようになりました。しかしながら象嵌細工はイラン各地で作り続けられ、支持者の多い芸術として広まりました。象嵌細工は現在、杖やろうそくたて、伝統楽器、名士の像、鹿や水牛の角などに見られます。

 

象嵌細工の最古の作品は、9世紀初頭のものです。シーラーズのアティーグ・ジャーメモスクの扉の一枚で、サッファール朝時代にタブリーズの木材で作られ、その表面は非常に美しい模様やクルミの木の細い棒で装飾されています。その後のものとしては松の木でできた象嵌細工の扉を挙げることができ、10世紀のもので、それらにはクーフィック書体の文字が刻まれています。サファヴィー朝時代、イランの宗教的な建物や王の宮殿の建設が急速に増加したことから、芸術家たちの多くはイスファハーンに集まり、これにより、驚くべき作品が生み出されることになりました。

 

サファヴィー朝後、政治的な闘争などにより、職人の活動が長い間制限され、象嵌細工の職人は分散し、専門性のいらない職業につきました。ガージャール朝以降、いすやテーブルなどの調度品の製造が広まり、象嵌細工はその中で使用され、価値ある作品を生み出しました。

いすの製造

 

現在、象嵌細工は、支持者の多い、権威ある伝統工芸として単に装飾だけに使用されており、その大部分は他の国に輸出されています。現在、ファールス州のアーバーデ、イスファハーン州のゴルパーイェガーン、ホルモズガーン州のブーシェフルがイランの象嵌細工の重要な中心地となっており、この他にも象嵌細工が行われている地域が散在しています。

象嵌細工

 

象嵌細工に関心のある人が初めてその技術や原則に触れようとする際には、まず初めにデザインを学び、その後、各種の木材や道具、技術に親しむことになるでしょう。最終段階で、美しさを増すために色を付けたり、表面をたたいたり、象嵌細工につやを与えたりし、木材を湿気や熱などから守ります。

 

象嵌細工は木材の上に、ときに象牙や骨の上に、細かいものと大きなものの二種類が施されます。象嵌細工に使用される木には、とねりこ、かえで、ぶな、アカシア、なつめ、ざくろ、サクランボ、クルミ、ナシなどの木があります。専門家は、象嵌細工に適した木材の特徴は、美しい色であること、強固でありながら柔らかい組織を持っていること、節がないこと、摩擦や彫刻に強いことだとしています。象嵌細工や木彫りに使う道具は、昔から現在までほとんど変わっていません。ノミや小刀、やすり、のこぎり、かんな、などです。

 

象嵌細工や木彫りは二つの形で行われます一つは木材の上に浮彫の形でデザインが表れているもので、もう一つは木の表面を削って通常幾何学模様が施されたものです。浮彫の象嵌細工ではいくつかの方法が広まっており、一部は表面から浮き出ていないもの、一部は表面から浮き出ています。彫刻は、表面から下にデザインが施され、三角形や線で表現されています。大きなデザインであればあるほど表面から浮き出ているほうがよいとされています。

 

象嵌細工に使用されるデザインの多くは、肖像、鳥、唐草模様、花、葉、つぼみ、ハープ、貝、文字、動物などとなっています。