イスファハーン州
今回からは、イラン中部にあるイスファハーン州を訪れてまいりましょう。この州は、長い歴史の中で、様々な出来事を経験し、多くの王朝や文明を生み出してきました。
イスファハーン州にある数多くの歴史的な建造物は、芸術家たちの日々の努力、彼らが手がける多くの作品と共に、過去の考古学者や歴史家の記憶を呼び起こすものとなっています。
イラン中部に位置するイスファハーン州は、面積およそ10万6000平方キロメートル、周囲を9つの州に囲まれ、イランでも最も人口の多い州のひとつとなっています。イスファハーンの歴史は、紀元前3000年紀に遡り、様々な時代の貴重な史跡を有しています。
イスファハーン州には、6000もの歴史遺産が存在すると言われ、それぞれが、その時代の壮大さを思い起こさせるものとなっています。中でも、ナクシェジャハーンと呼ばれるイマーム広場とその周囲にある建物は、イラン・ユネスコ協会の遺産リストに登録されています。モスクや宮殿、古代の拝火教寺院、壮麗な庭園、隊商宿、独特の建築による古い建物や邸宅、数多くのバザールといった貴重な歴史的建造物は、どれもイスファハーン州の見所であり、州の各地に点在し、常に、旅行家や、文化に興味を持つ人々の注目を集めてきました。数多くの自然や歴史の見所が、イスファハーン州の他の州とは異なる特徴です。この中で、州都であるイスファハーンの町は、歴史の中で、最も輝ける存在となってきました。
イランの北と南を結ぶ地点、要衝にあることから、イスファハーン州はイランにおいて、特別な地位にあり、自然条件やその戦略的な状況が合わさって、産業面での高い可能性を有しています。イスファハーン州は、多様な産業を有することから、イランを代表する工業都市となっており、産業の点で、イランで第二位となっています。イラン最大の製鉄工場、モバーラケ製鉄コンビナート、イラン・ポリアクリル工場の他、織物、皮革、食品、衛生薬品を生産する工場に加え、多くの鉱工業に関する工場が、この州に存在しています。
イスファハーン州は、こうした工業活動の傍らで、農業においても高い可能性を有しています。この州にある庭園や農耕地は、非常に開発されています。この州を流れるザーヤンデルード川は、チャハールマハールバフティヤーリー州のザルドクーフという山を源泉としていますが、イスファハーン州の農業の質と量を決定する、最大の要素となっています。イスファハーン州を代表する農産物には、穀物、米、タバコ、サフラン、ブドウ、ハルボゼ、スイカ、ザクロ、リンゴ、マルメロ、モモなどがあります。イスファハーンは、果物の産地としても知られ、その代表的なものに、西洋ナシ、リンゴ、チェリーがありますが、これらは主に海外に輸出されています。
イスファハーン州は、気候の点で、地中海気候、砂漠性気候、半砂漠性気候の3つの地域に分けることができます。年間の平均降雨量は、150ミリから350ミリです。この州は、イラン中部の山あい、イランの北西部から南東部に連なるザグロル山脈の東側の麓に位置し、平原と山岳地帯からなっています。デナー、キャルキャス、コラー・ガーズィー、ソッフェは、イランを代表する山々です。またこの州には、イラン高原の中央にある重要な河川、ザーヤンデルードが流れています。この河川は、イスファハーンの町を、北と南に二分しています。ザーヤンデルードは、水源から河口に至るまで、数多くの泉が湧き出ていることから、ペルシャ語で「川を生み出す」という意味の「ザーヤンデルード」と名づけられています。
ザーヤンデルード川は、ザグロス山脈の北東を源泉としています。この河川の全長は420キロメートル、その幅は、谷あいの部分では10メートルから20メートルですが、イスファハーン市内になると800メートルにも及ぶところもあります。ザーヤンデルードの両岸は緑が豊かで、河川の周囲の空気を爽やかにすると共に、美しい景観を作り出しています。ザーヤンデルード川の特徴は、河床やその周囲の環境にあり、そのためこの河川は、イスファハーン州、特にイスファハーンの町では、格好の散策の場所、見所となっています。
イスファハーン州には様々な民族が暮らしています。ほとんどの人は、イラン中部のほかの部族と同じように、ペルシャ語を話しますが、この州に住むバフティヤーリー族やガシュガイ族は、ロル語やトルコ系の言葉を話します。この州には、グルジア系の少数民族も暮らしており、彼らはグルジア語を話します。また、ユダヤ教徒、アルメニア教徒、ゾロアスター教徒など、宗教の少数派もいます。イスファハーン州は、適した気候と緑豊かな草原の存在により、一年のうち、4ヶ月から5ヶ月は、遊牧民を受け入れています。バフティヤーリー族やガシュガイ族は、毎年、春の初めになると、イスファハーン州の緑豊かな草原にテントを張り、家畜を放牧しています。
イスファハーン州は、高山、平原、草原など、多様な地理を有し、それぞれが状況に合わせて、野生動物の保護や人々の生活に必要な可能性を提供しており、自然の魅力という点でも、イランで最も美しい州のひとつとなっています。ナタンズにあるキャルキャス、ファリーダンにあるダーラーンクー、フェレイドゥーンシャフル、セミーロム、南東部のコラーガーズィーといった山地、また、北西部から西部にかけてのガミシュルーとムーテ平原、東部にあるガーヴフーニー沼、これらは皆、イスファハーン州の重要な自然保護区であり、動物の重要な生息地として保護されています。
ムーテ野生動物保護区は、およそ22万ヘクタールの面積を有し、寒い冬を有する半温暖湿潤地帯にあります。この地区は、広大な平地でできており、ところどころにある高い山によって、互いに切り離されています。この保護区は、様々な種類の潅木や雑草で覆われています。ムーテ野生動物保護区は、カモシカの主な生息地であるため、特別な重要性を有しています。もちろん、希少価値の高い猛禽類や動物も見られます。
ゴメシュルー野生動物保護区は、およそ5万ヘクタールの面積を有し、比較的寒い冬を有する半温暖湿潤地帯にあります。この地区は、主に丘や山になっており、雑草や低木で覆われています。ゴメシュルー野生動物保護区は、イスファハーン独特のものとして知られるヒツジの生息地であり、特別な重要性を有しています。この他、ハヤブサやハゲタカも見られます。
コラーガーズィー野生動物保護区は、およそ5万ヘクタールの面積を有し、比較的寒い冬を有する乾燥熱帯地域に位置しています。この地区は、コラーガーズィーとマーネシャーンという2つの岩山、比較的平坦な幾つかの平原で構成されています。また、薬草を含む、様々な植物が生えています。コラーガーズィー野生動物保護区は、野生のヤギやヒョウの生息地であり、他にも様々な種類の動物や鳥類が見られます。