マーザンダラーン州に住む民族の文化
今回は、イラン北部マーザンダラーン州に住む民族についてお話しすることにいたしましょう。
マーザンダラーン州はイラン北部のカスピ海南岸に位置しています。この州はイランで18番目に大きな州で、北部をカスピ海、南部をテヘラン、セムナーン、アルボルズ、ガズヴィーンの各州に接しています。西部にはギーラーン州、東部にはゴレスターン州があります。
イランの最高峰ダマーヴァンド山はマーザンダラーン州のアーモル行政区にあります。マーザンダラーンは観光地としてイランでトップの魅力を誇り、森林、平原、山、海から大きな利益を受けています。この州は人口密度が高い州で、様々な地下資源を有しています。一部の研究によれば、マーザンダラーンは世界で最古の人間の定住地となっています。
マーザンダラーン州がカスピ海の南岸に位置していること、カスピ海を挟んでトルクメニスタン、カザフスタン、ロシア、アゼルバイジャンの4カ国と国境を接していること、その一方で首都テヘランンの北に位置していることは、この州に戦略的な地位を与えています。
マーザンダラーンの人々はペルシャ語の派生語であるタバリー語、あるいはマーザンダラーン語を話します。タバリー語は古代ペルシャ語の遺産で、他の言語よりもアラビア語やモンゴル語、タタール語などの外国語の影響をほとんど受けずに残りました。
11世紀、タバーレスターンの王や首長たちはパフラヴィー文字を書き、貨幣を作っていました。この地方で見つかったパフラヴィー文字で書かれた2つの碑文は、こうしたことを裏付けるものです。
マーザンダラーンの方言は州の各地で異なっています。また西部のギーラーン語と他の都市からこの州に移住してきた人々の言葉も話されています。アーザリー語は州の各地で、クルド語は東部の一部地域で話されています。この州に住む人々は主にイスラム教シーア派を信仰しています。
マーザンダラーン州にはもともと住んでいる人に加えて、バルーチ、トルコ、クルド、ロル、アフガン、グルジア、アルメニア人も暮らしています。これらの民族は今も完全に地元に同化しておらず、独自の民族性や文化を維持しています。過去数百年、トルクメン人の襲撃から逃れるためにこの地域に移り住んだトルコ系の一部民族も現在、この州で暮らしています。
イランやマーザンダラーンにアーリア人が入ってくる前、この地域にもともと住んでいた人々は狩猟や放牧をして生計を立てていました。べへシャフルの洞窟における考古学的な調査では、紀元前およそ9500年にマーザンダラーンに人が存在していたことを示しています。
タバレスターンは特別な気候条件により、古代から為政者の部族の拠点となってきました。タバレスターンはパルティア帝国の近くにあったことから、事実上、この政府の支配下に置かれていました。サーサーン朝時代にも、この地域は一人の王によって治められていました。
地理的にタバレスターンの大部分を示すマーザンダラーンという地名は、13世紀、タバレスターンという名前に取って代わりました。
マーザンダラーンは、アーリア人の古い慣習、文化、文明を有しています。こうした古代の文明を有していることから、またその当時、ゾロアスター教が信仰されていたことから、この地域では盛大な古代の宗教儀式が行われていました。人々がイスラムに改宗した後、一部のゾロアスター教の儀式は、イスラムの慣習と融合し、その実施の方法も、村ごとに異なっています。
ノウルーズハーニー
通常イラン人の新年ノウルーズが訪れる15日前に、詩の歌い手が村にやってきて、新年の訪れを人々に伝えます。詩の歌い手は複数人おり、一人が詩を読み、一人が楽器を演奏し、その他が人々の家の扉をたたいて、特別な歌を歌います。家の住人もお金やお菓子、クルミ、卵、豆や干しブドウを渡して彼らを歓迎します。
チャハールシャンベスーリー
イラン、マーザンダラーンの土地に残っている儀式の一つに、チャハールシャンベスーリーがあり、これは毎年、ノウルーズ前の最後の水曜に行われます。水曜の朝、7種類の酸味のあるエキスでスープを作り、それを近所に配ります。日が沈むと、自分と家族の幸せを願って火の上を飛びます。
ノウルーズ
ノウルーズはイラン人の新年であり、春分の日に当たります。年が変わる瞬間に、ハフトスィーンと呼ばれる正月飾りを家族で囲み、一家の長が新年の祈祷を行います。かつてラジオやテレビなどがなかったとき、祝砲やアザーンを読み上げる声によって、新年の訪れが知らされていました。
新年を迎えた後、選ばれた人がコーラン、鏡、水、青草、若芽の枝といったものをもって家の中に入り、部屋の四隅に水をまき、コーランをハフトスィーンのお正月飾りのそばに置きます。若芽の枝は、家族にとって喜ばしい緑多き年になるよう願って部屋の前にかけたり、棚の上に置いたりします。この日、一家の母はお祝いの料理を作ります。また新年最初の日没後、夜の間中、家の明かりをつけておくという慣習により、家の前には蝋燭などの明かりが灯されます。
タバリー暦エイドマー月26日の祝祭
この祝祭は毎年、イラン暦ティール月28日にマーザンダラーン州の多くの村で行われ、中でもイマームザーデハサン・サヴァードクー村のものが有名です。この儀式は死者の祝祭としても知られています。
この儀式は、シャーナーメの物語に由来するもので、周囲の村の人たちがイマームザーデハサンにやってきて墓の上に蝋燭を灯し、死者を弔うことに加えて、伝統的な格闘技を見物します。
シャベ・ヤルダー
冬至の前夜、伝統に従って、家族が集まり、スイカ、ヨーグルト、果物、ナッツなどを食べて、冬の寒さを遠ざける儀式です。この夜にヨーグルトやスイカを食べることで、冬をあたたかく過ごすことができると考えられています。
ダンダーネ・サリー
子供に最初の歯が生えてきたときに行われる儀式です。この儀式では子の母親が、シールベレンジュ(米をミルクで煮たもの・ライスプディング)やいろいろな豆が入ったスープを作り、家族や友人の家に配ります。通常、空になった器の中に靴下やスカーフ、お金を入れて返します。
結婚式
マーザンダラーンの結婚式は各町や村で共通性があります。ここでは一例をあげることにしましょう。
結婚式は花嫁の父の家で行われます。結婚式が行われた後、花嫁は馬に乗って花婿の家に向かいます。花婿も馬に乗って花嫁を迎えに行き、周囲の人にコインやお菓子を撒きます。昔はその代わりにだいだいの実を投げていました。