マヌルネコ
今回は、イランに生息するもう1つの野生の猫の一種、マヌルネコについてご紹介することにいたしましょう。
マヌルネコは、イランに生息する8種類のネコ科の野生動物、そしてイランや世界で最も珍しく、また謎に包まれている部分の多い野生の猫の1つです。この動物は、植物が密集している地域に生息し、単独で行動することから、世界のネコの中でも、その繁殖や習性について最も未知の部分が多いとされています。
マヌルネコは、一般の飼い猫より少々大きく、口の部分はそれほど突出しておらず、顔が平たく、耳が丸く非常に短いのが特徴です。しかし、胴体は比較的太く、体重があり、足は短めです。瞳は大きく、ふくろうのように頭部の前面に横に並んでいます。
マヌルネコは、体長がおよそ60センチ、尾の長さがおよそ25センチ、体重は平均して3.6キログラムほどとなっています。体毛は、橙色を帯びた明るい灰色で、腰の部分に茶色の横じまが走っていますが、場合によっては厚い体毛に覆われて判別できないこともあります。
しかし、マヌルネコの最も大きな特徴は、額の上に黒い点があり、耳が小さいことだといえます。また、他の種類のネコよりも体毛が長く、本数も多くなっています。腹部の体毛も非常に長く、背中や体の側面に生えている毛のおよそ2倍の長さがあります。この体毛は、雪に覆われたり、凍結した地面から身を守るための防寒服のような役割を果たしています。
マヌルネコは、標高の高い地域に生息しています。足が小さいため、それほど早いスピードで逃げることはできませんが、体の色を保護色として利用し、外見を周囲の色や模様に似せて外敵から隠れることができます。こうした特長のほか、行動の経路が予測できないことから、各国に生息するマヌルネコの生態調査には自動撮影カメラは使用できず、各国においてこの種のカメラにより撮影された画像は、極めて少ないものとなっています。
その例として、自動撮影カメラによりマヌルネコが撮影された最近の例は2015年の秋だったことが指摘できます。これは、イラン北東部にあるサリーゴル国立公園で、アジアチーター協会が設置したカメラの1つが捕えたものです。マヌルネコは、好奇心にかられて自動撮影カメラを覗き込み、数分後にその場を立ち去っています。
マヌルネコは1年に1回出産し、警戒心が強く人前に葉ほとんど姿を見せません。しかも、縄張り意識が強く、その範囲は3平方キロメートルから4.5平方キロメートルとなっています。マヌルネコは、原則的には夜行性ですが、時には日没直後や日中にも活動することがあります。また、主に小型の哺乳動物や野鳥をえさとし、洞穴や木のうろ、さらには他の動物が残していった巣穴を住処としています。
研究者による調査から、マヌルネコが1歳で成熟し、冬に交尾し、妊娠期間は66日間であることが報告されています。マヌルネコは、毎年4月から5月のはじめに生殖し、1回の出産につき3匹から4匹の子どもを生みます。
マヌルネコは、平原や荒地、高原や岩山の斜面といった様々な場所に生息し、その生息地域は南コーカサスから中央アジア、カスピ海東海岸地域、トルクニスタン、ウズベキスタン、チベット、モンゴル、イラン、アフガニスタン、そしてカシミール地方北部にまで及びます。
イランは、世界でマヌルネコが分布する最も西の地域とされ、中でもイラン北東部の北ホラーサーン州は、人前にほとんど出てこないとされるこの動物の最大の生息地として知られています。北ホラーサーン州のサリーゴル地区とその周辺地域は、マヌルネコにとって最も安全な生息場所となっています。
過去においては、マヌルネコは遠くから見てヒョウの子どもと混同され、ヒョウの母親が姿を現すとの恐れから、誰もマヌルネコには近づこうとしませんでした。地元の人々は、この動物を黄色いネコと呼んでいました。もっとも、近年ではイラン中部と北西部、そしてテヘラン東部のセムナーン州でも、マヌルネコが目撃されています。
イランでは、ヒツジを守る番犬に殺されることも、マヌルネコの存続にとって大きな脅威であると思われます。しかし、特に小型の野生の猫にとっての主要な脅威の1つは、これらの動物の生息地が破壊され、消滅してしまうことです。
また、マヌルネコは干ばつや自然界での獲物の不足により、栄養の問題に直面しています。さらに、この希少動物の命を脅かすもう1つの要因は、ハンターによる乱獲です。1年のうちの一部のシーズンになると、ハンターがマヌルネコを生きたまま捕獲し、愛玩動物としてブラックマーケットで売りさばこうとします。彼らは、こうした行動により、また特にメスを捕獲することで、マヌルネコの子どもまでをも深刻な危険にさらしています。それは、野生動物は一度捕獲された後に再度放たれた場合には、もはや元の自分の巣穴には近づこうとせず、巣穴に残された子どもが死ぬ危険性も極めて高いからです。
もちろん、ハンターという脅威に対し、イランでは自然環境保護の責任者などが敢然と対処し、地元民に対しても環境保護の主要な番人として、野生動物を乱獲する不審な人物を見かけた場合には、速やかに環境保護センターに通報するよう求めており、これによってこの希少な野生動物の保護に努めています。