6月 06, 2017 16:00 Asia/Tokyo
  • 預言者ユーソフの物語
    預言者ユーソフの物語

神の預言者ユーソフは、実に波乱に満ちた生涯を送りました。聖典コーランでは、預言者ユーソフの人生が最も美しい物語として登場します。

ユーソフは子供の頃、兄弟たちから嫉妬され、彼らの悪だくみにあい、井戸に投げ落とされてしまいます。しかし神の恩寵によって助け出されたユーソフはその後、紆余曲折を経て奴隷としてエジプトの王の宮廷で働くようになりました。

 

しかし、ユーソフが美しい青年に成長したとき、エジプトの王妃の一方的な寵愛によって、彼は大いに苦しめられます。王妃はユーソフに対して、多くの誘惑や罠を仕掛け、彼が罪を犯すのに十分なきっかけが作られました。それでもユーソフは、信仰の力によって、それらを退けました。

 

王妃の寵愛を拒み、清らかさを守ったがゆえに彼は投獄されてしまいます。神は、ユーソフが己を律したことから、その牢獄を、彼が成長するための場へと変えました。このような数々の試練を経て、ユーソフはエジプトの支配者となるのです。それでは、コーランの物語第4話を始めることにいたしましょう。

 

エジプトの王妃、ゾライハーは、1人座って思いを巡らせていました。「どうしたら自分の愛を叶えることができるだろう」 ゾライハーが考えていたのは、ユーソフのことでした。ユーソフは信仰に篤い清らかな青年で、信頼できる誠実な召使いでした。ゾライハーには良くわかっていました。神を信じる男性を誘惑し、欲望の罠に陥れるのが、いかに難しいことであるかを。それでもゾライハーは、毎日のように策略を巡らせては、ユーソフに近づくにはどうしたらよいかを考えていました。

 

その日、エジプトの王は宮殿を留守にしていました。ゾライハーは、口実を使ってユーソフを自分の許に呼び出しました。そしてユーソフが部屋に入ってくると見るや、すぐに扉を固く閉じてしまったのです。若いユーソフは驚いて言いました。

「私は神に助けを求めます。神は私を育ててくれた御方。私に好ましい立場を与えて下さった御方です。圧政者たちは救済されることがないのをご存知ですか?」 

それからユーソフは、扉の方へと駆け寄りました。ゾライハーは理性を失っていました。彼女は急いでユーソフを追い、彼の襟首を強くつかみました。すると、そのせいでユーソフの服が破れてしまいました。エジプトの王が部屋に入って来たのは、まさにその出来事のさなかでした。

 

ゾライハーは事の次第に驚いて真っ青になりました。しかし、すぐに気を取り直すと、狡猾にもこのように言ってのけたのです。

「ユーソフが今、あなたの妻の聖域を侵しました。あなたの妻に対してよこしまなたくらみを抱いた人間は、牢獄に入れてしまうか、あるいは痛ましい責め苦を与えるべきでしょう」 

 

ユーソフは驚いて言いました。

「それは事実ではございません。王妃様が私を引き寄せようとなさったのです。この私のシャツが、私の言葉が正しいことを証明しております」 

                           

エジプトの王は、信じられない様子で二人を交互に見つめていました。王様はユーソフがどんな人物であるかを知り尽くしていましたし、だからこそ妻の言い分をあっさりと認めることもできませんでした。王様の顔は怒りで真っ赤になりました。そのとき、王様と一緒にいた側近の1人が、こう言いました。

「冷静に考えれば、真実が明らかになるのではありませんか。もしユーソフのシャツが前から破れていたら、ユーソフが罪を犯したことになります。しかし、もし彼のシャツが後ろから破れていたら、恐れながら、王妃様が嘘をついていることになりましょう」

 

こうしてエジプトの王は、妻の不貞を知ることになりました。しかし、王様は王妃のことを愛していたので、彼女に罪を悔い改めるよう求めました。またユーソフに対しても、この出来事を決して誰にも言わないように言い含めました。しかし、ゾライハーのユーソフへの想いは、少しずつエジプトの貴族の女性たちの間に知られるところとなりました。皆がゾライハーを非難し、彼女は明らかな迷いの中にいると噂するようになったのです。

 

王妃ゾライハーは、自分がユーソフに想いを告げたというのに、それを受け入れてもらえず、逆に辱められた、との思いが募る一方でした。そしてとうとう、ユーソフを牢獄に入れて苦しめてしまおうと計画を練るに至ります。こうしてユーソフは牢獄につながれる身となりました。

 

牢獄の中でユーソフは、一心に神に祈りを捧げて言いました。

「神よ、私にとって牢獄は、私が汚名を着せられるよりも好ましい居場所です。このような女性たちの策略から私を遠ざけてください。神よ、どうか、私を愚かな人間の一人となさいませんように。」

 

ユーソフの真摯な祈りは、魂の深いところから沸き上がったものでした。そのためその祈りは、神に聞き届けられました。ユーソフは長い年月を牢獄の中で過ごしました。しかしとうとう、ユーソフの無実と身の潔白が全ての人に証明される日がやって来ます。彼は再び、エジプトの王の許で高い地位と名誉を得ることとなったのです。

 

この物語は、コーラン第12章ユーソフ章ヨセフで語られています。この物語の中でも美しい箇所は、ユーソフの言葉です。神のみを頼りとしたユーソフは、神の助けによって、人間は心の欲望から解放されるとし、次のように語っています。

 

「私は決して、自分を罪びとでないとは考えない。なぜなら、私の中にも、そして全ての人間の中にも存在する欲望は、常に私たちを悪へといざなうからだ。誰でも欲望の罠に陥る可能性がある。ただし、神の恩恵にあずかり、罪を犯さない人間は別である。私は、神が自らの僕に対して、どれほど寛容で慈悲深い方であるかをよく知っている」

                            

 

タグ