薬用植物(シャゼンムラサキ、コオニユリ、ハナウド)
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シャゼンムラサキ
イランは、多様な気候を有するため、薬用植物をはじめとする天然資源に恵まれています。この時間は、シャゼンムラサキ、コオニユリ、ハナウドについてお話しましょう。
昔、イランの伝統的なバザールでは、アッタールと呼ばれる薬草を扱う職業が、大きな重要性を有していました。アッタールとは、花の香りや抽出液に詳しく、多くの花や植物の医学的効用を知っていた人々でした。彼らは、医者が患者に処方した薬を彼らに与えたり、中には、師や父から教えてもらった知識や経験により、自分で薬用植物により、患者の治療に取り組む人もいました。

薬用植物は、長い間、イラン人の医者が患者を治療する際の手段として用いられていました。通常、山や平原で仕事をしていた人々が、医学的な効果のある植物を摘んで、それらを医者やアッタールのもとに持ってきていました。
現在、化学的な医薬品が多く使用されているにもかかわらず、薬用植物の消費は増加しており、世界の貿易の一部を、薬用植物の生産、取引、利用が占めています。WHO世界保健機関の統計によれば、世界の人々の80%、特に開発途上国や後進国の人々が、治療のために薬用植物を使用しているということです。薬用植物が、世界の多くの人々の生活の中で活用されていることから、有識者の間では、21世紀は、薬用植物が見直される時代になると考えられています。

薬用植物を使った治療は、伝統医学で用いられる方法のひとつで、代替医療として考えられています。WHOによれば、伝統医学とは、中国、インド、ギリシャ、アラブの医学など、昔から用いられてきた伝統的なシステムを含むものとなっています。
WHOは、伝統医学とは、様々な文化の独自の経験、信条、理論に基づいた知識や技術、行動の集大成であり、健康の維持や、肉体的、精神的な病気の予防、診断、改善に用いられる方法だとしています。そのため、伝統医学による治療では、薬用植物の他、動物や鉱物が利用されたり、針、マッサージ、精神的な治療法などが用いられたりします。医療システムが現代的な医学に基づいており、独自の治療の文化を持たない国々では、伝統医学という言葉の代わりに、代替医療という言葉が用いられています。
現在、代替医療の利用は、世界の人々の間で、大幅に増加しています。代替医療には、薬用植物、マッサージ、針治療、カイロプラクティック、ヨガなどがありますが、それらは多くが、さまざまな民族の歴史や文化から生まれたものです。
中国、エジプト、ギリシャ、イランといった古代文明の世界においては、さまざまな治療方法や医学が生まれました。1000年の歴史を持つイランの伝統医学、ザキャリヤー・ラーズィー、アブーレイハーン・ビール―二―、イブン・スィーナーといった医学者らの存在は、この国の医学の歴史を非常に豊かなものにしています。マッサージ、カッピング、ドライカッピングやリーチセラピーなどのしゃ血療法などが、イランの伝統医学で用いられてきた治療方法です。

イランには数千種類の薬用植物が存在し、そのうち数種類は、イランでしか見られないものとなっています。そうした植物の一つが、シャゼンムラサキです。シャゼンムラサキには多くの医学的案効果がありますが、アルボルズ山脈のすその以外では、手に入れることができません。長い間、ヨーロッパの医学者らは、イランのシャゼンムラサキとヨーロッパのそれを同じ種類のものだと考えていました。しかし、この2つは見た目は同じですが、医学的な効果の点で大きく異なっています。
イランのシャゼンムラサキは、アルボルズ山脈のすそのに自生しています。この植物のほぼすべての部分は医学的に利用することができます。花、葉、茎、根は、薬用のジェルなどを取るために利用されます。
シャゼンムラサキには、神経の緩和、神経や肝臓の強化、血液の浄化、せきや風邪の予防、炎症やのどの痛みの緩和などの効果があります。このような特徴から、この植物はイランの国内外に大きな需要を有しています。毎年、およそ50トンのシャゼンムラサキが、ヨーロッパ、アメリカ、ペルシャ湾岸諸国に輸出されています。

ユリは、球根植物です。ユリ科には数十種類があり、その花には、白、オレンジ、黄色、赤、ピンク、紫など、さまざまな色があります。この植物は世界各地に生育していますが、南アフリカやアメリカの赤道地域が特に多くなっています。
ユリのにおいをかぐと、頭痛が和らぎます。また、この植物は、そばかすやシミを落とすのにも効果があります。
ユリ科の中でも希少価値が高いのが、コオニユリです。コオニユリは、イラン北部のギーラ―ン州の他、アルデビール州とマーザンダラーン州の一部で見られます。コオニユリは、イランの国家遺産に登録された最初の植物です。イラン以外では、アゼルバイジャン共和国の一部の地域のみで見られます。
コオニユリは、絶滅の危機に瀕しているため、輸出が禁止されています。
この他、イランで見られる薬用植物に、ハナウドがあります。ハナウドは、イランでのみ、生育し、春の植物となっています。
ハナウドは、傘の形をしていて、8月の末から10月ごろが収穫の時期です。種は平らでにおいが強く、抗酸化効果があります。また、胃を強化する働きがあります。種からとれる抽出液には殺菌効果があり、胃をきれいにしてくれます。この香辛料は、食べ物を保存するのに利用されます。また、収穫量に限りがあるため、国外には輸出されていません。