9月 03, 2017 21:29 Asia/Tokyo

1963年8月28日は、ワシントンのリンカーン記念館でキング牧師が歴史的な演説を行った日です。

職と自由を求めるワシントン大行進の参加者20万人は、その魅力的な演説を耳にしました。

キング牧師

 

「絶望の谷間に落ち込んではならない。今日、私は皆さんにこのように語る。私の友よ、たとえ、今日や明日が困難の連続であっても、私には夢がある。その夢とはアメリカンドリームに深く根ざしている」

キング牧師は、続けて、次のように語りました。

「私の夢は、かつての奴隷の子孫と奴隷所有者の子孫がジョージア州の赤土の丘の上で、兄弟として同じ席につくことだ。私の夢は、4人の幼い息子がいつの日か、肌の色ではなく、人格によって判断される国で生活することだ。私には夢がある。私の夢は、いつの日か、深い谷が隆起し、丘や山が低くなり、平坦でない道が平坦になり、まっすぐでない道がまっすぐになる。そして神の栄光が明らかになり、人類すべてが、それを見ることだ。

これは私たちの希望だ。これが、南部に行く際の信念だ。我々はこの信念により、絶望の山から希望の石を切り出すことができる。この信念により、我々の国の不快な騒音を、美しい兄弟愛のハーモニーに変えることができる。また、これにより、ともに働き、祈り、戦い、牢獄に入り、自由を守ることができる。間違いなく、最後に自由の日は到来する。」

確かに、キング牧師は、アメリカにおけるもっとも明白な人種差別の象徴が取り除かれるのを目の当たりにするまで生きることはできませんでした。例えば、一部のアメリカのレストランでは、黒人と犬は入場禁止であり、また、白人の子供が黒人の子供と共に授業を受けたり、プールで泳いだりすることは許可されていませんでした。しかし、人種差別に反対する公民権運動の高まりの中で、キング牧師の演説は、アメリカの歴史に残るものとなりました。

このキング牧師の演説は、ジョージ・ワシントンの大統領辞任演説と、リンカーンのゲティスバーグの演説についで重要で影響力のある演説とみなされています。このため、毎年、8月28日、アメリカでは、平等を求めるグループや人種差別に反対するグループの間で祝祭が行われています。この日は、また、アメリカでの人種差別の根源を探り、それに対抗し、社会的、経済的不平等の存在しない社会の展望を提示する機会となりました。

この演説から54年が経過し、アメリカでは黒人が大統領に就任し、有色人種に対する差別や不平等の多くが撤廃されてきましたが、いまだに、アメリカには伝統的な差別が存在します。近年においては、警官による黒人の若者に対する発砲事件と、警官に対する起訴取り消し処分など人種差別の異なった側面がアメリカで見られます。

アメリカの人種差別

 

統計によれば、2020年代に入ろうとしている中で、アメリカの黒人が理由なく警官に発砲される件数は、白人のそれにくらべて9倍となっています。言い換えれば、アメリカで黒人であるということは、街頭で殺されるのに十分な理由だということです。

有色人種のエリートの生活が改善する中、貧しく、低収入の黒人数百万人の生活は変わっていません。いまだに黒人は、白人と比べて、同じ仕事でも比較的低い賃金を得ており、家や個人用の車を所有するといった生活における可能性は、白人に比べて小さいままです。一方で、アメリカの収監者の多くは黒人であり、死刑囚や長期にわたる禁固刑を科されている受刑者の数は、麻薬中毒者などの社会の不適合者とおなじように、社会的平均より高くなっています。

この数週間、アメリカにおける人種的な不平等以上に懸念される事柄に、白人至上主義の動きの復活や、明確な形での人種主義的な活動があります。シャーロッツビルで発生した事件は、アメリカ社会がキング牧師の夢と大きく隔たりがあるだけでなく、アメリカが再び公民権運動時代の騒乱に直面していることを示しています。

1950年代と60年代、アメリカの都市の多くでは、人種主義者と有色人種の権利を擁護する集団が衝突していました。この時代には、人種の平等を支持する人々を乗せたバスがアメリカの南部の州で人種差別者の襲撃を受けたり、双方の衝突で数名が死傷したりという事件が発生しています。最終的に、ノーベル平和賞を受賞した、キング牧師も、このようなグループにより暗殺されています。

アメリカの人種差別

 

現在、公民権運動時代の人種をめぐる騒動から半世紀が経とうとしていますが、人種主義は復活しています。白人至上主義、白人ナショナリズム、ネオナチは、クー・クラックス・クランや一部の民兵などの組織と共に、南北戦争の象徴を守るという口実で、アメリカの民族の分裂を促進しようとしています。この動きは、2015年、サウスカロライナ州のチャールストンで、人種主義者の若者が、黒人が通う教会で銃を乱射し、9人を殺害した時に始まりました。

このチャールストンのテロは、有色人種の権利擁護団体に対して、手遅れになる前に過激な人種主義者が新たに出現するのを防ぐよう求める警鐘を鳴らしました。このため、平等を求める人々は、南部連合の旗など、黒人が奴隷だった南北戦争の時代のシンボルを除去するために大規模な運動を開始しました。この行動は、過激な右翼主義者の強い反発を呼び、これによってシャーロッツビルの流血の事件が発生したのです。

南北戦争時代の指揮官、リー将軍の銅像を守ることは、アメリカの右翼主義者の同盟が、この数十年間の平等を求めるグループの努力を攻撃対象にする口実となっています。アメリカの過激な右翼主義者の見解では、白人やヨーロッパ系でなければ、アメリカ人とはみなされず、アメリカにいるべきではないとされています。こうした中で、現代のアメリカ社会は、公民権運動時代よりも人種や文化が多様化しています。

キング牧師の夢を何よりも脅かすものとは、ホワイトハウスの白人至上主義者に同調する人物の存在です。

トランプ大統領は、このような人種至上主義者の支援を得て、大統領に就任しており、現在も、過激な右翼思想に対する世論の圧力の緩和のためにいかなる措置も惜しんでいません。例えば、トランプ大統領は、シャーロッツビルの流血事件に対する最初の反応で、人種至上主義者とその反対者双方を非難しました。その数日後、シャーロッツビルで暴動を起こした右派の正当性を認め、初代大統領のジョージ・ワシントンも、3代目大統領のトマス・ジェファーソンも奴隷を所有していたとしました。

確かにこのコメントは歴史的な事実に一致していますが、一方で、この立場は人種主義者を支持するものであり、こういった右派グループの指導者の賞賛と感謝を受けています。アメリカで人種をめぐる緊張の継続を強いるこのような立場を続けることは、「私の夢はかつての奴隷の子孫と奴隷所有者の子孫がジョージア州の赤い丘の上で、兄弟として同じ席につくことだ」という、キング牧師の夢を消し去ることになります。