人間は心と体という２つの要素の結合体です。しかし、この２つの要素は対等なものではなく、肉体は精神にとっての手段とされています。そのため、魂の健康を含めた精神の健康が優先されます。今回は、この点についてお話することにいたしましょう。

前回お話したように、人間は、肉体と精神が結合した存在物とされています。肉体は、目に見える具体的なものですが、物質的でない精神の存在を語る上で、精神は自我そのものであると言えます。

すべての人間は、生まれてから死ぬまで、自我を認識しています。自分という人間は、唯一無二の存在です。イランの偉大な医学者イブン・スィーナーは、これについて次のように述べています。

「私たちが一瞬にして、五体満足で、理性と知性を備えて生まれてきたものの、何らかの理由で感覚がないと仮定しよう。この状態をよりよく理解するために、光のまったくない空間にいるところを想像してみよう。気温はちょうどよく、暑さや寒さに苦しめられる事もない。音はまったく聞こえず、体の各部位は互いにまったく連携していない。このような状態では、自分の体が存在していることを感じることはできない。しかし、自分という存在がいることは認識できる」

このことから、自我として意識されるものは、肉体以外のものであることが分かります。なぜなら、自分の体を感覚として理解していないからです。ですから、自我として解釈される精神は、物質的な肉体以外のものということになります。実際、この自我は、体の細胞内での変化や、肉体的、精神的な特徴の一部の変化、または体の一部を失ったりしても、変化しません。人間の健康や喜びは、まさにこの自我、即ちその人の魂の健康や喜びにかかっていると言えます。

人間という存在の基本的な部分は、その人の魂を源としており、肉体は、あくまでも手段に過ぎません。感覚や意思、思考や知性といったものも、まさにその人の魂を源としています。人間が持つ人間性は、その人の本当の自我や魂によって決められます。

イスラムの聖典コーランによれば、預言者アーダムは、魂を吹き込まれたとき、天使たちからひれ伏されるのに値する存在となりました。コーラン第３８章、サード章「サード」、第７２節には次のようにあります。

“それで、私が人間を形作り、これに魂を吹き込んだ時、あなた方は彼にひれ伏すがよい”

このことから、人間の本来の目的は、本当の自分である魂を成長させることだと言えます。肉体は、あくまでも精神や魂を進化させるための手段でしかありません。このため、魂あるいは精神の健康は、決して肉体の健康と同等ではなく、また体の健康の維持するための単なる導入部などででもありません。反対に、体の健康が人間の精神の健康のための導入部となるのです。

また、心と体が相互に影響を及ぼしあっていることも忘れてはなりません。例えば、脳の前頭葉の部分を刺激する事で、その人は無意識に手を上げます。一方で、脳の奥深い部分が刺激されると、喜びや緊張、さらには怒りといった様々な感情が表れます。

ほかにも、人間の精神状態に影響を及ぼす要因として、内分泌ホルモンの量やその種類が挙げられます。たとえば、セロトニンはうつ状態を引き起こす作用を持っており、成人の場合、甲状腺ホルモンの分泌が減少すると、肉体的な影響に加えて、記憶力の低下やうつ状態を招きます。一方で、うつ状態を抗うつ剤で解消することもできますが、これは精神に対する身体の影響ということになります。

さらに、人間の精神状態や精神的なプレッシャーは、肉体にも大きな影響を与えます。よく言われるように、プラスの感情は体の健康に効果を発揮し、逆にマイナスの興奮は神経衰弱や消化器官の不調といった問題を誘発します。

また、多くの場合において恐怖感や悲しみも、消化・吸収機能に支障をきたします。怒りの感情は、血流を早め、呼吸や心拍数を増加させます。精神的な圧力により、免疫システムの機能が弱まり、その結果、肉体に弊害が及びます。このため、物の考え方や捉え方により、数々の肉体的な病気を治療できたり、あるいは病気になったと思い込むことで、実際に病気になったりするのです。

このほかにも、精神的なトラブルの一部は、ヒステリーといった病気を深刻なレベルにまで高めてしまいます。このため、今や精神医学や心理学の研究の多くが、精神分析に当てられています。

個人や社会の健康を増進する計画や、現在の健康状態を完全に測定し、その強みと弱点をはっきりさせるためには、健康のさまざまな側面を切り離す必要がありますが、これらの側面は、相互に驚くべき影響を及ぼしあい、ある側面での健康や不健康が、そのほかの側面における健康にも影響します。このことから、本当の意味で健康な人とは、特に精神面をはじめとするすべての側面において健康な人ということになるのです。

次回もどうぞ、お楽しみに。