ことわざ: 「アフファシュのヤギ」
昔々のこと。スィーブーエという名前の名高い思想家がいました。
イラン出身のこの思想家はアラビア文学の第一人者でした。スィーブーエは多くの弟子を持ち、たくさんの本を記しました。弟子たちは、講義が終わると二人一組になって座り、理解を深めるために、その日教わったことについて話し合うのが常でした。スィーブーエの講義は数時間で終わりましたが、弟子たちはその後何時間もその内容について議論しました。
その中に、アフファシュという名の男がいました。彼は非常に優秀でスィーブーエに眼をかけられていましたが、彼と一緒に何時間も日々の講義について語り合おうとする者はいませんでした。なぜならアフファシュはとても変わり者だったからです。彼はまず、外見が醜く、その上何よりも休むことなく自分と議論してくれる相手を望んでいました。
弟子たちは学問の修得に熱心な者ばかりでしたが、さすがにそのために食事や睡眠まで削ろうとする者はいませんでした。アフファシュは、師匠であるスィーブーエよりも年上でした。ですから、何かを成し遂げるには人一倍の努力が必要であることを知っていました。弟子たちは皆、彼よりも若く、アフファシュのように考える者はいなかったのです。アフファシュが誰かと親しくなっても、それが長続きすることはありませんでした。彼らは2、3日アフファシュの勉強に付き合っただけで疲労困憊し、他の学友の許へと去っていくのです。
こうして、いつも独りぼっちだったアフファシュは、ある時面白いことを思いつきました。彼は子ヤギを飼って世話をすることにしたのです。子ヤギは、アフファシュが話しかけるたびに、頭を上下に振りました。子ヤギは成長し、よくしつけられました。アフファシュは、朝から晩まで、子ヤギの前に座り、その日の講義について話しかけていました。ヤギが頭を上げると、アフファシュは言いました。
「分からなかったのかい? ではもう一回説明しよう」
よくしつけられた子ヤギは、常に首を縦に振って、まるでアフファシュの言葉にうなずいているかのようでした。弟子たちは、アフファシュとヤギのことを笑っていましたが、アフファシュは自分の話を文句も言わず、じっと聞いてくれる生き物を見つけたことを心から満足していました。アフファシュは、学問への意欲と、勉強仲間であるヤギのおかげで、スィーブーエの学問所でもっとも優秀な成績を修めました。他の弟子たちは、さほどの功績を上げることもありませんでしたが、アフファシュは多くの著書を残し、後に自分自身も多数の弟子を持つことになったのです。
それ以来、人の言葉をよく聴かずにただうなずく人に対して「アフファシュのヤギ」と言うようになりました。