May 26, 2018 21:14 Asia/Tokyo
  • 映画「それでも夜は明ける」のポスター
    映画「それでも夜は明ける」のポスター

この時間は、2013年のスティーブマックイーン監督の映画、「それでも夜は明ける」についてお話しましょう。

映画「それでも夜は明ける」は、奴隷として売られた黒人のソロモン・ノーサップによる12年間の奴隷生活、実体験を描いた作品です。この映画は134分で、興行収入は1億8700万ドルでした。

 

この映画は、1841年に誘拐され、奴隷として売られた自由黒人のソロモン・ノーサップの奴隷体験記です。ソロモン・ノーサップは、1841年、妻と子供と共にニューヨークのサラトガに暮らしていました。彼は自由黒人のバイオリニストでしたが、ある夜、2人の白人から、周遊公演に参加しないかと誘われ、彼らと共にワシントンに向かいます。そこで、2人組の男たちに罠にはめられ、意識を失ったまま、奴隷商に売られてしまいます。

 

意識が戻ったとき、ノーサップは鎖でつながれていました。ノーサップは自由になって家族のもとに帰りたいと願いますが、白人たちから自由を奪われ、奴隷にされてしまいます。

 

ノーサップは、アメリカ南部のニューオーリンズ州の綿花農園の奴隷となります。そこでまず、材木商のウィリアム・フォードに購入され、その後、別の農園の支配人であるエドウィン・エップスに売られます。

 

ノーサップは、12年間、南部の奴隷として苦しい生活を強いられます。彼は1853年にカナダ人の大工で、奴隷制に反対するサミュエル・バスに出会い、そこから人生が変わります。そして、奴隷から解放されてサラトガに帰郷します。

 

「それでも夜は明ける」のシーン

 

映画、「それでも夜は明ける」は、ソロモン・ノーサップという自由黒人が、ある日突然拉致されて奴隷となってしまうものの、12年のときを経て身分を回復し、帰郷した実話を元にした物語です。この映画は、さまざまな出来事を通して、奴隷時代の黒人の苦しみを伝えています。この映画では、黒人と白人の状況を描くことで、数十年前の奴隷を軸にした映画のような偏った見方は見られません。

 

この映画の長所は、黒人と白人を描く際に公平を守っている点です。それは特に、ノーサップと奴隷主の対立の際に見られます。「それでも夜は明ける」では、人種差別や奴隷制が描かれると共に、この制度に対する公平で批評的な見方も提示されています。

 

この映画でも、黒人は奴隷制の犠牲者であり、白人は、黒人に対する暴力によって、彼らから生きる機会を奪う人々として描かれています。しかし、この映画は、すべての白人を悪者にしているわけではなく、暴力的で過激な行動を取る白人もいれば、温和で肯定的な白人も登場します。

 

映画では、農園の支配人のエドウィン・エップスのような悪い白人に対し、ウィリアム・フォードやサミュエル・バスのような心の優しい白人も存在します。また、黒人についても、綿花農園の労働者のような、型どおりの黒人もいれば、ソロモン・ノーサップのような、読み書きができる教養の高い黒人も出てきます。

 

先ほども触れたように、この映画では、奴隷制時代の黒人に関する多くの映画とは異なり、黒人のマイナスのイメージはほとんど描かれていません。また、白人の理不尽な要求に屈してしまう黒人だけでなく、白人に挑む黒人もいます。また、そのどちらでもなく、独立した生活を送り、白人とは関わらずに生きることを望む、ノーサップのような黒人もいます。

 

興味深いことに、この物語は、1840年から50年代の物語ですが、ハリウッドでこの映画が制作されたのは、黒人がアメリカ大統領を務める2012年でした。この映画の物語は、奴隷制という、アメリカの不名誉な歴史の一部を反映しています。映画「それでも夜は明ける」は、2014年のアカデミー賞で作品賞、助演女優賞、脚色賞を受賞しました。

 

綿花農園での労働に備える黒人たち

 

ソロモン・ノーサップは、2人の白人の罠にはめられ、奴隷商に売られてしまいます。白人の主人たちは、彼を他の奴隷と共に船に乗せ、夜、南部に移送します。19分から始まるシーンでは、ノーサップと一人の奴隷が、船の倉庫にいます。

 

カメラが彼らに近づき、一方に焦点が当てられ、もう一方がぼかして映し出されます。奴隷はノーサップに、「生きて帰りたければ、何も言わずにあまり働かないことだ。また自分の正体を明かさない方がいい。読み書きができることも誰にも言ってはならない」と教えます。すると突然、扉が開き、白人の男が降りてきて、2人の近くに座っている奴隷のくつわの鍵をあけます。奴隷の口の中は血だらけになっています。白人の男は、この奴隷に向かって何も言うなよと言います。そして大股にそこを去っていきます。カメラはノーサップと2人の奴隷をクローズアップします。口から血を流した男は、戦おうと言います。しかしノーサップは、自分たちの数は少なく、彼らはきっと武器を持っていると言います。ノーサップのとなりに座っていた奴隷は、3人では「とても太刀打ちできないし、ここには奴隷しかいない。彼らは奴隷に生まれて、奴隷として育ったんだから、戦う力などない」と言います。もう一人の奴隷は、今分かっているのは、自分たちが闘争の中で死んでいたらよかったのに、と願うような場所だということだ、と言います。ノーサップのとなりの奴隷は、「絶対的な死は救われる道ではない。救われるためには自分がすべきことをするだけだ」と言います。ノーサップは、悲しそうに言います。「数日前には家族と一緒に家にいたんだ。それをすべて失ったと言うのかい? 生き残るためには誰にも自分の正体を明かしてはならないと。でも私は生き残りたいのではない。生きたいんだ」

 

 

 

ノーサップが船で移送される場面では、夜の闇と、登場人物の様子が、黒人奴隷の運命のあいまいさを訴えかけています。知識や能力のある黒人は、生き残るために、自分のありのままの姿を否定しなければなりません。このことは、黒人が動物のように扱われる、奴隷制度の残酷さを物語っています。

 

このシーンでは、船で移送される3人の黒人が出てきますが、3人とも、奴隷制時代の異なる階層の黒人を代表しています。口から血を流していた黒人のような人々は、白人の支配と戦おうとします。そして、ノーサップのとなりに座っていた黒人のような人々は、白人の圧制に屈します。また、ノーサップのように、独立し、自分の人生を歩もうとする黒人たちです。

 

しかし、アメリカの奴隷制度は、ノーサップのような人物も奴隷として扱い、彼らが奴隷ではないことは全く考慮しません。この後、アメリカの奴隷制度は、自由のために戦おうとする黒人を殺害し、ノーサップの能力を無視して、彼を動物のように扱おうとすることが示されています。

 

ソロモン・ノーサップが吊るされる姿

 

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