詩人と盗賊の頭(かしら)
今夜は、13世紀のペルシャ詩人サアディの代表作「ゴレスターン・薔薇園」から、「詩人と盗賊の頭」のお話です。
昔々のこと。あるところに、町から町を渡り歩き、偉人たちを褒め称え賞賛する詩を作っては、いくらかの報酬をもらって暮らしを立てている詩人がいました。
地面も凍り付きそうな冬のある日、詩人は羽振りの良さそうな村を通りかかりました。そこは盗賊の一団が暮らす村だったのです。
それを知った詩人は考えました。
「私はついている。いい村にやって来たものだ。盗賊たちは、たいていが金持ちだ。そして、金持ちはたいてい泥棒だと言っていい。よし、盗賊の頭を賞賛する詩を作ることにしよう。きっと、豪華なほうびをもらえるだろう。なにしろ彼らの財産は、苦労して手に入れたものではないのだから、きっと大盤振る舞いしてくれるに違いない。」
それから詩人ははたと考えました。
「だが待てよ、盗みを働く人間を、いったいどのように褒め称えたらよいのだろう? 詩の中で、泥棒はよいことをする、とでも言ったらよいのだろうか? 仕方がない。心から賞賛するわけではない。いくつかの対句を並べて、ほうびをいただくまでだ。相手が泥棒であろうが、正しいことをする人間であろうが構うものか。詩の中では泥棒を泥棒と言い、修行者を修行者と呼ぶまでだ」
詩人は道端に座って、大急ぎで一編の詩を作ると、盗賊の頭の家へと向かいました。見知らぬ詩人の訪問に、盗賊の頭はいぶかしげに家の中から「何の用か」と尋ねました。
詩人は言いました。「私は詩人です。あなた様を賞賛する詩を作りました。もし中に入れてくだされば、私の詩を聞かせてさしあげましょう」
盗賊の頭は首を横に振って言いました。
「いや、それには及ばない。今、この場で詩を読んでくれ」
詩人は必死に言い張りました。
「でもここでは身体が冷えてしまいます。ほら、地面が凍っているでしょう。どうかあなた様の家の中で詩を詠ませてください。火のそばの方が、より上手に詩を詠むことができます」
盗賊の頭は言いました。
「なんて図々しい奴だ。今ここで詠みたくないと言うのなら、とっとと消えうせろ」
詩人は仕方なく、戸口のそばで寒さに震えながら、詩を詠み上げました。そして詩を詠み終えると盗賊の頭がほうびをくれるのを待ちました。
盗賊の頭は、詩人が詠み上げる言葉にじっくりと耳を傾けていました。そして詩を詠み終えた詩人の顔をじっと見つめたのです。
詩人は心の中で快哉を叫びました。
「どうやら私の詩を気に入ってくれたようだ。これなら金(きん)がいっぱい入った袋を投げて寄こしてくれるにちがいない。そうしたら、こんな寒さもふっとんでしまう。金の袋で懐も体も温まるってわけだ」
ところが、盗賊の頭のとった行動は、詩人の思惑とは全く異なるものでした。頭は、仲間たちに詩人の身包みをはいで村から追い出すように命じたのです。こうして詩人は、哀れにも凍りつくような寒さの中に丸裸で放り出されました。
まるで悪夢のような出来事です。詩人が一刻も早くここから立ち去ろうと思っていると、そこに何匹もの野良犬が近づいてくるではありませんか。詩人は石を拾って、犬たちに投げつけようとしました。ところが、石は凍った地面に張り付いて、詩人がどんなに力を入れても地面から離れません。諦めた詩人は、野良犬に向かって足を蹴り上げ、悪態をつきました。
「この村の連中のひどいことと云ったら!犬は野放しにして、石を地面にしばりつけている」
家の中から、詩人の様子を見ていた盗賊の頭は思わず大声で笑いました。この詩人の言葉がすっかり気に入った頭は、褒美をあげることにしたのです。頭は、詩人を連れ戻すよう指示しました。そして、戻ってきた詩人に盗賊の頭は謝罪して言いました。
「お前の言葉がすっかり気に入った。何がほしいか言ってみろ。何でもほしいものをやろう」
先ほどの出来事でこりごりしていた詩人は、寒さに震えながら言いました。
「とにかく、私が着ていた服を返してください。人は他者に善を望むものですが、私はあなたには善を望みません。ただ悪をもたらさられないように願うだけです」
盗賊の頭は、詩人の言葉に心が痛みました。詩人の服を返すよう命じると、暖かい服と金も添えて彼に与えてやりました。
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