6月 23, 2018 18:52 Asia/Tokyo
  • 映画「フルートベール駅で」のポスター
    映画「フルートベール駅で」のポスター

ライアン・クーグラー監督による2013年の映画「フルートベール駅で」は、85分の映画です。

この映画の最初の1分は、2009年12月31日にアメリカ・カリフォルニア州のフルートベール駅で起きた事件の実際の映像を映しています。当時22歳だった黒人青年オスカー・グラントは、この日の夜、フルートベール駅で殺害されました。

この映画は、オスカー・グラントの最期の1日を映しています。彼は合法的な仕事を得ようとして、やむなく麻薬の売人に戻ることになりました。麻薬の売買は犯罪行為であり、オスカーはこのために刑務所に入れられ、釈放されていました。

オスカーは妻のソフィア、そして4歳になる娘のタチアナと過ごしていました。2009年の12月31日は、オスカーの母の誕生日だったことから、彼と家族は母親のパーティーに参加していました。その後、オスカーはタチアナを知り合いの家に連れて行き、自分と妻のソフィア、そしてその友人はサンフランシスコに行って、新年の花火を見ようとしました。

オスカーは母親の進めにより、車ではなく、地下鉄を使いました。彼はフルートベール駅で偶然、意に反して白人の知り合いともみ合いになりました。警察はこれに気づくと、容疑者としてオスカーを車両からおろし、取調べを行いました。オスカーは他の黒人の有人数人とともに、容疑者とされました。オスカーと友人たちによる衝突の中で、警官一人がオスカーに発砲し、オスカーを殺害しました。

 

オスカー・グラント

 

 

黒人青年のオスカー・グラントが殺害された一連の出来事は、カリフォルニア州オークランドのフルートベール駅で撮影され、その動画はインターネット上で公開されました。この警官の暴力は、国際的な怒りを引き起こし、アメリカの人種差別に反対する抗議運動が立ち上げられました。この結果、この犯罪行為に関与した警官と管理者は、懲戒免職となりました。

オスカーに発砲した警官は、殺人容疑で逮捕されました。この警官がテーザー銃と本物の銃を間違えたと主張したことで、陪審員は過失殺人で懲役2年を言い渡しました。しかし、この警官は11ヶ月で釈放されたことから、アメリカの世論はこの事件を今でも疑問視しています。

映画「フルートベール駅で」は、映画製作の原則を考慮しながら、事実に即した形で事件を描いています。この映画は、黒人に対する警官の暴力を、悲痛な雰囲気の中で示しています。一部の評論家は、監督は一部のシークエンスで、主人公に同情させるため、オスカーの暴力的な個性を穏やかにしていると語りました。しかし、オスカーに対する警官の暴力は、実際に起きた事柄なのです。

この映画は、2013年のサンダンス映画祭とハリウッド国際映画祭の受賞作となりましたが、ドキュメンタリー的で、社会を俯瞰していることから、この作品の検討は重要となります。このため、これからこの作品を分析することにしましょう。

 

オスカーの母と子供

 

 

まずは、オスカーの家のシーンを見てみることにしましょう。オスカーは、妻のソフィアと共に、母親の誕生日パーティのため、母の家を訪れます。その中で、オスカーは、ソフィアに職を失ったことを告げます。ソフィアはその理由を聞くと、オスカーは、「遅刻したんだ、金が必要だったとき、数日遅刻した」といいました。そしてオスカーがソフィアに嘘をついたことで、ソフィアをいらだたせました。オスカーは「情けない話だが、復職できると思う」といい、ソフィアはそれに対して「生活することを軽く見ていない?解雇されたら、復職できると思う?私にも、娘にもうそをつくのね。そうやってうそをついて、外でマリファナでも売るの?今日は何してたの?マリファナを売ってたんじゃないでしょうね」と問い詰めると、オスカーは「一から新しい仕事を始めるけど、そういう仕事じゃない」と語りました。ソフィアは「マリファナも捨てて、仕事もなくて、何したいの?」と聞くと、オスカーは、「まっとうな仕事をする。1ヶ月は悪いことはしないと誓う。その間に慣れるよ」と答えます。ソフィアは「傍らにいて助けるけど、勝手な行動はしないでよね」とオスカーに言いました。そして、オスカーは支度をととのえ、母親の誕生日パーティーに行きました。

この映画で、ハンディカムを使い、観客を映画の中に引き込み、オスカー・グラントの生涯の物語に巻き込むことで、この映画のドキュメンタリー的な性質をより大きなものにしています。この映画の場面では、オスカーは妻に対して誠実になり、違法な仕事を求めないことを決意しています。

映画は、黒人の生活環境が健全なものであり、簡単に合法的な仕事を手にすれば、決して違法な仕事に走らず、家庭生活を改善できるということを伝えようとしています。オスカーは、前職である販売員に戻ったり、合法的な仕事を見つけることが期待されていました。

この映画を観れば、オスカーが白人警官によって殺害されたことを思い浮かべるでしょう。これは、アメリカ社会の根深い黒人に対する差別や暴力を理由とするものです。

映画「フルートベール駅で」は、現代のアメリカにおける黒人社会の問題を取り上げています。この映画のテーマは、奴隷制の時代からさかのぼり、いまだに存在し続けているアメリカの白人による人種差別について考えることです。

アメリカ社会は、生活改善のために、黒人に多くの支援を提供していません。黒人にとっての大きな問題のひとつは、満足な仕事を見つけることですが、彼らの仕事は限られており、黒人は仕方なく違法な仕事に手を染めています。白人からすれば、黒人は犯罪が証明されていなくても、犯罪者です。民間団体や企業の黒人に対する差別的な見方により、彼らはふさわしい職を得ることができていません。

映画「フルートベール駅で」は、現実に即した形でアメリカの黒人の生活を描いています。この映画における黒人の違法行為について、ソフトに描かれています。この違法行為は彼が黒人であることから行っており、また、経済環境によるものでもあります。オスカーは合法的な仕事を得ようとしますが、そのような仕事は、黒人にとって、得るのが難しい仕事なのです。

映像では、彼が法に従い、家族を愛する人物だということが強調されています。それにもかかわらず、社会は彼を一級市民として認めていません。オスカーは自身と家族の生活状況を改善しようとしていましたが、社会はそれを支援することはなかったのです。この問題は、白人が黒人に対して抱く先入観が理由となっています。アメリカでは黒人に対しては、成長する上での仕事の機会が制限されているのです。

 

オスカーに対して警察の暴力