ハトの夫婦
昔々、2羽のハトの夫婦が、畑の傍らで仲良く暮らしていました。
昔々、2羽のハトの夫婦が、畑の傍らで仲良く暮らしていました。
春、雨がたくさん降ったとき、メスのハトが夫に言いました。
「この巣も随分湿ってしまって、住みにくくなってしまったわ」
夫は答えました。
「もうすぐ夏が来る。空気も乾いて暑くなるだろう。それに、ここにはエサをためておいた貯蔵庫もある。このような巣をまた作るのは大仕事だよ」
ハトの夫婦は、そのままそこに留まることに決めました。こうして夏がやって来ました。彼らの巣は湿り気も取れ、畑での幸せな生活が過ぎていきました。彼らは米も小麦も、好きなだけ食べることができた上に、冬のための蓄えに回す分もありました。程なくして、貯蔵庫は小麦や米でいっぱいになりました。夫婦は喜んで言いました。
「食料でいっぱいの蔵もあることだし、この冬も無事に越せることだろう」
そうして夫婦は貯蔵庫の扉を閉じて、そのまま夏が終わり、畑の作物が乏しくなるまで、一切、そこの食糧には手をつけませんでした。遠くまで飛ぶことの出来なかったメスのハトは、いつも家で休んでいて、オスのハトが食べ物を手に入れるのが常でした。秋がやってきました。雨が降り始めると、ハトたちは、食料を探しに畑に行くことができなくなりました。いよいよ、食べ物の蓄えてある貯蔵庫の出番です。ところが、貯蔵庫に置かれていた食糧は、夏の間にすっかりしおれ、かさも随分と減っていました。それを見たオスのハトは怒りだしました。そして妻をこう言って責めたのです。
「なんて愚かな食いしん坊なんだ! 私たちは冬に備えて食料をためておいたというのに、お前ときたら、私のいない間に半分もの食料を食べてしまったのか? まさか、冬の凍てつくような寒さを忘れたわけではあるまい?」
夫の一方的な言葉に、メスのハトは腹を立てて言い返しました。
「私が食べたのではありません。誓って言うけど、ここに食料を隠したときから、私は一目だって見てもいません。どうしてこんなに食料が減ってしまったのか、私だって不思議なのです。ここはこらえて、残っている食料を食べたらいいじゃありませんか。もしかしたら、床が抜けたのかもしれないし、ネズミに見つかって、食べられたのかもしれない。それとも、別の誰か私たちの食料を盗んだのかもしれない。いずれにしても、性急に判断を下すべきではないわ。落ち着いて構えていれば、そのうち真実が明らかになるでしょう」
オスのハトは怒って言いました。
「もうたくさんだ!君の忠告など無用だ。君以外、いったい誰がここにやって来るというんだ。もし、誰か来たとしたら、君が一番よくわかっているはずだ。君が食べたのではないと言うのなら、本当のことを言ってくれ。とにかく、何か知っているのだったら、後にしないで、今すぐ、話してしまったほうがいい」
なぜ食料が減ってしまったのか、本当に理由が分からなかったメスのハトは、泣き出してしまいました。
「私は食料には手をつけていません。何が起こったのかもわかりません。理由が分かるまで、もう少し様子を見てみましょう」
しかし、オスのハトは聞く耳を持たず、さらに激しく怒り出し、とうとう妻に巣から出て行くよう宣言してしまいました。
メスのハトは言いました。
「そんなに簡単に決め付けて、私にありもしない罪をなすりつけるなんて。やがて自分のしたことに気が付くでしょう。でも、そのときに後悔してももう遅いのですよ」。
メスのハトは荒野に向かって飛び立ち、その後まもなく、猟師のわなにかかってしまいました。
オスのハトは、巣の中で一人きりの生活を始めました。彼が妻に騙されなかったことを心から喜んだのも束の間、再びじめじめとした雨の日がやって来て、貯めてあった食料は、湿り気から再びかさをまし、貯蔵庫の中は一杯になりました。彼はそこではじめて、妻に対する判断が誤っていたことに気づいたのです。しかし、もはや後悔するには遅すぎました。彼はその後ずっと、後悔の念を抱いて生きていかなければなりませんでした。