ルートの民の物語
今回は、ルートの民の物語をお届けしましょう。
私たちが暮らすこの世界には、社会の健全性を脅かすような逸脱が存在します。同性愛は、この100年の逸脱や迷いを示す明らかな例であり、少なくとも、いわゆる文明化を謳う一部の国が抱えている問題です。同性愛は実際、新しい形の無知の象徴と言えるでしょう。同性愛が初めて見られたのは、ルートの民の間でのことでした。神は、ルートの民に罰を加え、種の存続を妨げ、人類社会を衰亡させるこの行いが、いかに醜いものであるかを示しました。
ヨルダンにあるソドムの町は、その日もいつものように混沌としていました。女性たちは皆、希望を失って覇気がなく、家庭の基盤も揺らいでいました。男性たちも、男気を失い、町は逸脱に陥っていました。
威厳のある一人の男が、キャラバンが通る道の途中で、井戸のそばに立ち、水を汲んでいました。そこへ、身持ちの悪いふしだらな人々が通りかかり、その男を指差して言いました。
「ルートはなぜ、あんなに悲しそうなのだろう? 彼はまだ、私たちを導こうとしているのだろうか」
仲間たちは大きな声で笑いながら言いました。
「彼は私たちが放蕩にふけるのを禁じ、神はあなたたちのために女性を創造した、それなのになぜ、男性を求めるのか、と言っている」
別の一人が言いました。
「しかし、ルートの妻も私たちのうちの一人である。彼女は私たちを理解している」
ルートはまだ、井戸から水を汲んでいました。そして、町の人々を襲っていた不道徳という疫病について考えていました。彼は預言者として、心から、人々の逸脱に心を痛めていました。ルートは人々に近づいていき、言いました。
「あなた方は醜い行いをしている最初の民です。あなた方以前に、世界中で誰も、そのような行いをしたことはありませんでした。女性の代わりに、男性を愛するとは。あなた方は、私に従いなさい。私はあなた方に報奨を求めているわけではありません。私の報奨は神から与えられます」
人々は互いに顔を見合わせてから言いました。
「彼を町から追い出さなければならない。彼と彼の子供たちは、私たちの行いに嫌悪しているようだ」
ルートは希望を失い、彼らのそばを離れました。ルートは神に言いました。
「私の神よ、このような堕落した人々に対して、私をお助けください」
その日、ルートが忙しく作業をしていると、美しい2人の若者が近づいてきました。
「こんにちは。私たちは遠い場所からやって来ました。今夜、あなたの家に泊めてほしいのです」
突然、ルートの顔は青ざめました。なぜなら、町の堕落した人々が、この美しい2人の若者を見たら、きっと放ってはおかないことを知っていたからです。しかし、自分の不安を必死に隠そうとしながら、特別な敬意を込めて言いました。
「どうぞ、ゆっくりしていってください」
日が沈もうとしていました。まだ辺りが赤く染まっている頃、ルートの心は恐怖と不安に苛まれました。しかし、ルートは客人たちの前で、自分の不安を悟られまいと努め、彼らに向かって言いました。
「暗くなる前に家に帰って、少し話をした方がいいでしょう」
ルートはその人里離れた寂しい場所から、客人たちを自分の家に連れて行きました。ふしだらな人々に、この客人たちの姿を見られてはいけないと考えたからです。その夜は、表面的には何事もなく穏やかに過ぎていきました。しかし、ルートの努力にも拘わらず、彼の家に、非常に美しい2人の若者がやって来ていることを、ルートの妻が町の人々に知らせてしまいました。それからまもなく、人々がうきうきした様子でルートの家にやって来て、その若者たちに会わせてほしいと頼みました。ルートは家の扉を開けず、その傍らに立ったままで言いました。
「神を畏れなさい。客人たちの前で、私に恥をかかせないでください。もしあなた方のうちの誰かが望むのなら、私の娘と結婚できます。あなたたちの間には、あなたたちをそのような醜い行いから遠ざけてくれるような賢い人物はいないのですか?」
人々は言いました。
「あなた自身がよく知っているはずです。私たちはあなたの娘など必要ありません。あなたは私たちが何を望んでいるのかを知っているはずです」
ルートは言いました。
「あなたたちに対して私に力があったらよかったのに。あるいは確かな避難場所に逃げることができたらよかったのに」
そのとき、2人の若者のうちの一人が、ルートの肩に手をかけて言いました。
「心配することはありません。私たちはあなたの主の天使です。彼らが私たちに及ぶことはないでしょう。あなたの民は、同性愛に走る、無知で迷った人々です。彼らはそのような醜い行いにより、自分自身を滅ぼしています」
もう一人の若者が言いました。
「私たちは、あなたと、そして、人々の仲間になり、約束を交わしている妻を除いたあなたの家族を救い、この町全てを滅ぼすように命じられています」
ルートは落ち着きを取り戻しました。しかし、それでもなお、人々を導くことを考えていたルートは、何時間も人々に忠告をし、語りかけました。しかし、それも役には立たなかったのです。
夜になりました。2人の神の天使の案内により、ルートは、妻を残し、子供たちを連れて町を後にしました。彼らが安全な場所までたどり着いたとき、神の命が下りました。町に泥と石の雨が降ったのです。大地は大きく揺れ、町は滅びてしまいました。そして、あらゆる卑しさや醜さが消えてなくなりました。
コーラン第29章アン・キャブート章クモ、第34節には、この物語の総括が述べられています。
「その町から、賢い者にとっての明らかな忠告を残した」
ルートの民の物語は、アン・キャブート章の他、アル・アアラーフ章、フード章、ヒジュル章など、数多くの章の中で述べられています。(了)