アーダムとハッワーの物語
今回は、アーダムとハッワーの物語をご紹介しましょう。
アーダムは神の楽園で、恩恵と平安の中にいましたが、強い孤独と寂寥感を覚えていました。
「仲間がいたら、どんなによかっただろう」
アーダムはこのような考えに耽りながら、いつの間にか眠りに陥りました。そして目を覚ましたとき、隣にハッワーが座っているのを目にし、驚いて尋ねました。
「あなたは誰ですか?」
ハッワーは言いました。
「私は神によって、あなたの配偶者として創造されました。私はあなたの泥の残りから創造されたのです。あなたの仲間、パートナーとなるように」
アーダムの瞳に喜びの光が宿りました。そのような状況の中で、アーダムにとって、パートナーを持つこと以上に喜ばしいことがあったでしょうか。そのとき、アーダムに語りかける声がありました。
「アーダムよ、お前はハッワーとの結婚を望むのか?」
アーダムは答えました。
「はい、私の主よ。生きている限り、あなたに感謝しなければなりません」
アーダムとハッワーは神の楽園で結婚しました。こうして神が男女が互いの傍らにいることで得られるようにした精神的な安らぎが、彼ら2人にもたらされました。神はアーダムに言いました。
「アーダムよ、今、全ての恩恵があなた方の手にある。妻と共にそこに居を構え、何でも望むものを、その実の中から喜んで食べるがよい。だが、この木に近づいてはならない。そうすれば、あなた方は圧制者の一人となるだろう。また覚えておくがよい。悪魔はお前と妻の敵である。彼の陰謀から離れなさい。そうしなければ、お前は楽園を追われることになる」
楽園では、アーダムとハッワーにとって、全てのものが見ごたえのある驚くべきものでした。彼らは共にそこを歩き、美しい花々の匂いをかぎ、小川や泉のせせらぎを耳にしながら、喜びを感じていました。アーダムとハッワーは、どんなときにも神への感謝を忘れませんでした。しかし、高慢さによって神の御許を追われていた悪魔は、アーダムとハッワーの成功に嫉妬の炎を燃やしていました。
その日、アーダムとハッワーはいつものように、神の楽園を語らいながら歩いていました。そこへ悪魔がやって来ました。アーダムは悪魔を見るといいました。
「私たちから離れなさい。お前は神から呪われている」 アーダムは悪魔に背を向けながら言いました。「覚えておくがよい。私たちにはお前と話すことは何もない」
数日が経ちました。悪魔は今度は、友人のように善人ぶってアーダムとハッワーに近づいて行き、言いました。
「あなたたちに永遠性の秘密を教えてあげよう。あの木の実を食べてごらんなさい」
悪魔がまだ全てを言い終わらないうちに、アーダムは大きな声で言いました。
「絶対にそんなことはしない。私たちの主はあの木の実を食べることを禁じられた」
悪魔は言いました。
「その通り。だが、なぜ神があなたたちに、あの木に近づくことを禁じたのか知っているか? それは、もしあの木の実を食べれば、天使たちのようになり、永遠の命を得ることができるからだ」
アーダムとハッワーは互いに顔を見合わせました。少しずつ、彼らの目に疑いの色が宿りました。悪魔は自分の目的に近づいたことを知り、さらにこう言いました。
「私は誓って、あなたたちに善いことを求めている。あなたたちの幸福以外に何も望んでいない」
アーダムとハッワーは、悪魔の言葉を信じて、その木に近づいていきました。そして、その木の実をもぎ取り、口の中に入れてしまいました。彼らがその木の実を食べていると、驚いたことに、自分たちが着ていた服が落ち、裸になってしまいました。アーダムとハッワーは、急いで木の葉を取り、それで自分の体を覆い隠しました。そのとき、神の声が聞こえました。
「私はあなた方に、その木に近づくことを禁じなかったか?悪魔はあなた方の明らかな敵だと警告しなかったか? さあ、私の楽園から出て行くがよい」
悪魔は大喜びで言いました。
「アーダムよ、お前の存在によって、私は神に近い場所から追われてしまったのだ。これは私の仕返しだ。お前を楽園から追い出した。また覚えておくがよい。私はお前とお前の子孫を放っておかず、地上でもさらに関わることになるだろう。そして、お前は彼らが誘惑に負けるのを目にすることになるだろう」
後悔の念に駆られていたアーダムとハッワーは、神に対して謝罪の言葉を口にしました。
「主よ、私たちは自分自身に圧制を行い、悪魔の誘惑にだまされてしまいました。今、あなたの無限の赦しを望みます。神よ、もしあなたが私たちの過ちを赦してくださらなければ、私たちは損害を蒙る人間となってしまうでしょう」
慈悲深い神は、とうとう彼らの罪の悔悟を受け入れました。そして彼らに慈悲をかけ、地上に彼らの住処を据えて言いました。
「さあ、地上に降りて行きなさい。あなた方は地上の後継者となる。一部の人々は他の人々に敵対している。地上が、定められたときまであなた方の居場所である」
このようにして、人間は常に、神の警告にも拘わらず、逸脱へと導く悪魔の誘惑に惑わされることになりました。神はこのように警告していました。
「アーダムの子孫よ、あなた方の両親が楽園を追われたのと同じように、悪魔に欺かれてはならない」
この物語は、コーラン第20章ター・ハー章の第117節から124節、第7章アル・アアラーフ章高壁の第19節から27節、そして第2章アル・バガラ章雌牛の第35節から39節に述べられています。