エラム庭園
今回は、イランの最も美しい庭園の一つ、「エラム庭園」についてお話しましょう。
これまで数回に渡り、イランの様々な時代の庭園作りについてお話ししました。イランでは、広大な地理と気候の多様性により、歴史を通して様々な形の庭園が造られてきました。今回は、イランの最も美しい庭園の一つ、「エラム庭園」についてお話しましょう。エラム庭園は、その歴史や美しさ、その他の特徴により、2011年6月、ユネスコの世界遺産委員会の会合で、イランの他の8つの庭園と共に世界遺産に登録されました。
イラン南西部の町シーラーズには、数多くの庭園があり、その自然の特徴により、これらの庭園は常に、春のように緑が多い場所として知られています。デルゴシャー、ジャハーンナマー、ゴルシャン、ナーレンジェスターン・ガヴァーム、ハーフェズとサアディの墓、ハフト・タナン、エラム、これらは、文学と詩の町、シーラーズの最も代表的な美しい庭園です。シーラーズは、エラム庭園をはじめとする重要な庭園の存在により、イランの庭園作りの中でも、特別な地位を誇っています。中でもエラム庭園は、イランで最も美しく、最も古い歴史を持っています。
エラム庭園の歴史は、11世紀から12世紀のセルジューク朝時代に遡ります。この庭園は、ティムール朝によって殺害されたアル・モザッファル朝最後の王、シャー・マンスールの時代に繁栄を遂げました。ティムール朝は、シーラーズにある幾つかの庭園を目にし、その美しさに感銘を受け、サマルカンドにも、エラムという名の庭園を造りました。サファヴィー朝時代のエラム庭園の状況については、正確な情報が残されていません。しかし、ザンド朝時代、ジャハーンナマーやナザルなどのシーラーズの多くの庭園が建設、あるいは再建されたため、エラム庭園も、この王朝の指導者の所有物となり、シーラーズの他の建物や庭園と同じように修復されたと見られています。ザンド朝末期には、エラム庭園は、およそ75年の間、大部族ガシュガイ族の首長に保有され、本拠地とされていました。エラム庭園の最初の建物は、ガシュガイ族の最初の長であったジャーニーハーンによって、ガージャール朝の王、ファトフアリーシャーの時代に建設されました。建物の建築は、著名な建築家の一人、ハージ・モハンマド・ハサンという人物によるものです。
ガージャール朝のナーセロッディーンシャーの時代、ミールザー・ハサン・ナスィーロルモルクが、エラム庭園を買い取り、それまでの建物の代わりに別の建物を建てました。彼の死後、1893年に、途中だった装飾を完成させたのは、アボルガーセム・ハーン・ナスィーロルモルクでした。エラム庭園は、1963年、シーラーズ大学のものとなり、1966年から71年には、この大学の関係者の管理のもとで修復が施され、そこに広い敷地が加えられました。エラム庭園は、1973年にイラン国家遺産に登録されました。シーラーズ大学は現在、この庭園を、植物研究のための庭園として、一般の人々に公開すると共に、熟考に値する変更を加えています。
エラム庭園は、シーラーズの北の高山地帯の裾野にあり、ナフル・アーザム川は、その存続に大きな役割を果たしています。この庭園は、北西部から南東部、河川の北側の旧市街に位置しています。高山の傾斜の緩やかな山すそに庭園が位置するのは、他のイラン式庭園の多くにも見られるもので、その昔、庭園の広さがいかに重要であったかを物語っています。
エラム庭園のメインの建物は3階建てで、建築、模様、彫刻、タイル細工、漆喰細工の点で、ガージャール朝時代の芸術の傑作とされています。地面と同じ高さにある地下は、中央に大きな広間があります。エラム庭園の空間は、木の植え方や通りの配置の仕方、デザインの点で、シーラーズのみならず、イランの全ての地域にある庭園の中でも類のないものです。芸術家の中には、「庭園作りの点から、エラム庭園は、サーサーン朝時代の庭園を思い起こさせるものだ」と考える人たちがいます。庭園のメインの建物の正面には、大きな池があり、その水面には、建物が映し出されています。この池の面積は335平方メートルで、池の底は、大きな17枚の一枚岩で覆われています。また、大きな川から流れる澄んだ水は、池の中を巡った後、周囲を流れる側溝に注ぎ、その後、メインの通りを横切る幅広い溝から、庭園の他の通りや花壇の周辺に流れ込んでいます。
エラム庭園のメインの通りは、庭園の中央、大きな池や建物の前から始まり、庭園の先まで続きます。この通りの両側には、背の低いつげの木が生えて柵のようになっており、その真ん中には幅広い溝が流れています。この大きな溝は、庭園の中で、数多くの小さな溝に分かれています。また、この通りの両側に糸杉などの樹木が生えています。庭園の中央にある別の広い通りがメインの通りをさえぎっており、このようなデザインは、チャハールバーグを思い起こさせるものです。この2つの通りに平行して、庭園の全ての方角に別の通りが建設されています。
シーラーズのエラム庭園には、美しい糸杉の木が生えており、樹齢が高く、庭園の象徴となっています。この庭園で最も高い糸杉の木は、35メートルで、シーラーズにある糸杉の中でも、最も高いものとなっています。概して、エラム庭園に生育する植物は、果実をつけるものとつけないものの2つに分けられます。エラム庭園は、植物学の研究に利用されており、多くの種類の植物が、いたるところに植えられています。