ことわざ : 「私たちも、キツネと判事の鶏と同じ」
昔々のこと。仲の良いオオカミとキツネがおりました。
昔々のこと。仲の良いオオカミとキツネがおりました。
キツネはその賢さを、そしてオオカミは鋭い爪と力を誇り、キツネが獲物を見つけては、オオカミがそれを仕留めるという具合でした。こうして日々は何事もなく過ぎていきました。
ところが、ある時、キツネがいくら獲物を探しても、見つからないという事態が起こりました。それが何日も続いたため、キツネもオオカミも空腹に悩まされていました。そこで、2匹はそれぞれに食べ物を探しに別行動を取ることにしたのです。
キツネはまたしても、何も見つけることができず、手ぶらで帰ってきました。しかしオオカミの方は、同じく手ぶらでしたが、嬉々とした表情でキツネにこう報告したのです。
「絶好のえさが見つかったんだ。さあ今から一緒に行こうじゃないか」。
オオカミが先に立ち、キツネがその後に続きました。オオカミがキツネを連れてきたのは一軒の大きな庭のある家でした。その庭の一角に鳥小屋がありました。オオカミは意気揚々としてキツネに言いました。
「さあ、これがさっき話したエサだ。どうだい、君にはあの太った鶏を仕留める力が果たしてあるだろうか?」。
空腹を抱えていたキツネは、たちまち鳥小屋へとたどり着きました。そして陰から鶏たちの様子を伺いました。鳥小屋の中では、10羽ほどの丸々と太った鶏たちが、水を飲み、えさをついばんでいます。キツネはよだれが出てきました。鳥小屋の扉は開いています。キツネは、「これなら鶏を捕まえるのはたやすいことだ」と思ったものの、ふとある考えが頭をよぎりました。空腹とは言え、キツネの思考力は衰えてはいませんでした。
「開いた扉と太った鶏。なぜオオカミは、自分で鶏を捕まえなかったのだろう?いつもは僕が獲物を見つけて、彼が獲物を仕留めていたのに。目の前に獲物がいるのに、わざわざ僕を呼びに来るなんて怪しいじゃないか。これは慎重に様子を見なくては」
こう考えたキツネは、ゆっくりとオオカミの許に帰りました。オオカミはキツネが手ぶらで帰ってきたのを見て、腹を立てて言いました。
「君には鶏を仕留めることなんてできやしないと、初めから分かっていたんだ。なぜ手ぶらで帰ってきたんだ?」
キツネは答えました。
「何でもない。ただ、この家と鳥小屋が誰のものか、そしてなぜ家の主人が鳥小屋の扉を開けっぱなしにしているのかを知りたかっただけなんだ」
オオカミは苛立って言いました。
「それが、今腹ペコの僕たちとどんな関係があるというんだ? この家は町の判事の家で、使用人がきっと、鳥小屋に鍵をかけるのを忘れてしまったんだろう」
キツネは町の判事、という言葉を聞くと、後も見ずに一目散に逃げ出しました。オオカミは突然のキツネの行動に、慌てて彼の後を追いかけました。そして追いつくと、キツネの前にたちはだかって言いました。
「なぜ逃げるんだ? 獰猛なライオンでも見たかのように、そんなに怖がるなんて」。
キツネは答えました。
「判事の家の鶏を食べるくらいなら、おなかをすかせたままでいる方がましだ。僕が判事の鶏を盗んだのを知ったら、彼はこうお触れを出すだろう。『キツネの肉を食べても良い』って。このお触れで人間はキツネを追いかけるようになる。そうしたらキツネという種はこの世から消えてしまうだろう。何もかも失うくらいなら、腹をすかせたままでいるほうがずっとましだ。」
このときから、影響力のある人との無用ないざこざを避けようとする場合に、こんな風に言うようになりました。
「私たちも、キツネと判事の鶏と同じ」