ことわざ: 「何でもいいからふいごを吹け!」
その昔、息子を持つ父親たちは、その子が成長した暁にはきちんと仕事を覚え、立派な職人となり、やがては一家を支えることができるよう、機会ある毎に、彼らを市場や自分の職場に連れて行ったものでした。
その昔、息子を持つ父親たちは、その子が成長した暁にはきちんと仕事を覚え、立派な職人となり、やがては一家を支えることができるよう、機会ある毎に、彼らを市場や自分の職場に連れて行ったものでした。
皆そのようにして息子を一人前に育てていたのです。これはそんな時代のお話です。
あるところに、非常に怠け者の少年がいました。彼はあらゆる仕事を嫌っていました。息子の将来を非常に案じた父親は、考えた末に、当時最もきつい仕事とされていた鍛冶屋に連れていって、そこで、厳しく鍛えなおしてもらおうと考えたのです。
さっそく父親は、鍛冶屋の工房に息子を連れていき、店の親方にこのようにお願いしました。
「親方、これは私の一人息子です。なかなか賢い子です。どうか、学校が休みの夏の間、この子をここで修業させていただけないでしょうか。将来はぜひ、親方のような立派な鍛冶屋になってもらいたいのです!」
親方は、怠け者の息子に鍛冶屋の仕事がどのようなものなのか、一通り説明をしてやりました。それから、少年の父親に向かって言いました。
「安心なさい。彼を私以上の鍛冶職人に育ててみせましょう。もちろん、本人も一生懸命にがんばらなければなりません」
親方の力強い言葉に父親は安堵して答えました。
「親方、どうかこの子をあなたの息子だと思ってしっかりと鍛えてください。どんなに厳しくしていただいても構いません。私はただ、息子を立派な鍛冶職人に育ててほしいのです」
父親はそう言うと、息子を鍛冶屋の親方に委ねて帰って行きました。
父親が去ると、鍛冶屋の親方はさっそく少年に道具についての説明を始めました。そして次に、鍛冶屋の真赤に燃えている炉を指さして言いました。
「ほら見てごらん。私たちは、どんな道具でも望むものを作ることができる。まずこのかまどで鉄を熱し、柔らかくなったら、それを好きな形に変えていくんだ。そのためには、まずかまどの火を真っ赤に燃やさなければならない。炎に勢いがないかまどでは、鉄は柔らかくならないからね。それじゃあ、かまどの横に座って、そこにある取っ手をつかんで動かしてごらん。そうすると風が出てきて、炎は赤く燃え上がる。これが、“ふいごを吹く”ということだ。さあ、やってごらん。」
怠け者の少年は、仕事ができることを証明したくて、こう答ました。
「分かりました、親方!」
そして、かまどの横に座り、親方に言われた通り、ふいごを吹きました。少年が取っ手を動かすたびに、皮の袋から空気が送り込まれ、かまどの炎が命を吹き込まれたかのように勢いづきました。
こうして小一時間ほど経った頃、同じことの繰り返しにすっかり飽きて、疲れ果ててしまった少年は、親方に向かって尋ねました。
「親方、ちょっと疲れたので、右足を伸ばして、ふいごを吹いてもいいでしょうか?」
作業をしていた親方は、額の汗をぬぐいながら、言いました。
「もう疲れたのか?よろしい、それなら右足を伸ばしてやりなさい」。
するとまもなく、怠け者の少年が言いました。
「親方、左足も伸ばしていいでしょうか?」
親方はやれやれと思いながら言いました。
「よし、構わないだろう」
少年はそれでも落ち着きませんでした。時間が経つにつれて仕事をするどころではなくなってしまったのです。今度はこう言いました。
「親方、ちょっと横になって作業をしてもいいでしょうか?その方が、かまどがより熱くなると思うのです」
親方は首を振って言いました。
「そんな話は聞いたことがない。横になったまま、ふいごを吹くなんて出来るわけがないだろう。でもまあ、いいだろう。君にとってその方が楽なのなら、やってみなさい」
怠け者の少年は、作業を続けました。そのうち少年はこう考えました。
「僕は何て馬鹿なんだ。かまどの横で眠ればいいんじゃないか。その方が絶対に楽だ」
こうしてひとつあくびをすると、親方に向かって言いました。
「親方、熱くありませんか?人間は少し仕事をすると疲れるものです。かまどの横で、眠りながらふいごを吹いてもいいでしょうか?」
ここでついに親方の堪忍袋の緒が切れました。親方は怠け者の少年に向かって手にしていたハンマーを放り投げると怒鳴りました。
「何でもいいから、ふいごを吹け!」
このときから、怠けてばかりいて、口実を設けては仕事から逃げる人間に対して、このように言うようになりました。
「何でもいいから、ふいごを吹け!」