12月 01, 2019 13:33 Asia/Tokyo
  • ソフラヴァルディー
    ソフラヴァルディー

今回も前回に引き続き、12世紀のイランの偉大な照明哲学者、シェイフ・シャハーボッディーン・ソフラヴァルディーの業績や作品についてご紹介してまいりましょう。

前回までにお話したように、照明哲学者として名高いソフラヴァルディーは、1150年から1155年ごろ、現在のテヘランの西方にあるザンジャーン州近郊の村ソフラヴァルドで生誕し、1191年にシリア北部の町アレッポにて、当地のイスラム法学者の陰謀により、アイユーブ朝サラジンの命をもって、38歳で殺害されたと言われています。

ソフラヴァルディーは、短いながらも充実したその生涯において、現在にまで残る多くの作品を残しました。その一部は、論文のほかに神秘的、比ゆ的な物語があり、研究者らの考えではこれらはソフラヴァルディーの素顔や本音を物語っていると考えられています。この種の作品では、機知に富んだ優美な言葉により、暗示的、神秘的な事柄が述べられており、ソフラヴァルディーの精神的な経験も含まれています。さらに、前回まではソフラヴァルディーが神秘的、比ゆ的な内容に傾倒した理由についても説明し、モウラヴィーやアッタール、そしてハーフェズといった、イランの偉大な詩人にソフラヴァルディーが与えた影響についてもお話しました。

ソフラヴァルディーの著作に使用されている神秘的な内容は、次のように大きく3つに分けることができます。1つは、照明哲学上の暗示や表現であり、彼の提唱した照明哲学の体系における光と闇に関係するものです。ソフラヴァルディーの作品におけるこの種の暗示は多様性に富んだものではありません。2つ目は、為政者としての王に相応しい表現、或いは古代イランに関係する暗示です。そして3つ目は、比ゆ的な暗示であり、これはソフラヴァルディーの比ゆ的な内容の論文に多く用いられています。この種の暗示において、彼はそれらを活用するために、自らの幅広い創意工夫能力や空想力を駆使しています。

ソフラヴァルディーの論文の1つに、「大天使ジブライールの翼の羽音」があります。この作品は過去に、フランスの哲学者アンリ・コルバン及び、チェコ生まれのアラブ・オリエント学者ポール・クラウスによって脚注が追加され、フランス語に翻訳、出版されています。また、イランのメフディー・バヤーニー博士によりペルシャ語でも出版されました。さらに、ザビーホッラー・サファー博士は、『イランの文学と言語の歴史』という著作において、ソフラヴァルディーの名著『大天使ジブライールの翼の羽音』について次のように述べています。

「この論文におけるソフラヴァルディーの執筆形式は、非常に簡素ながらも流麗である。彼は、比ゆ的、神秘的な内容のこの論文を、物語形式により問答を交えながら、読者の日常語に近い普通の語調で執筆している。このため、この作品は人々の間に広まっていた12世紀のペルシャ語の中でごく自然な例と見なすことができる」

ソフラヴァルディーの論文『大天使ジブライールの翼の羽音』は、散文形式の作品ですが、アラビア語の語彙が使用され、また神秘的な形式であることから、やや重厚なものとなっています。そもそも、題名自体がこの論文の神秘性を示しており、精神性を漂わせています。この論文で使用されている表現の多くは、謎めいた神秘的なもので、多くの場合において直喩の他に複雑で曖昧な隠喩が使用されています。このため、この論文の内容は理解しにくいものとなっています。この論文の神秘性は、神秘主義哲学の伝統の典型的な見本であり、しかもその多くは、それより古い時代の神秘主義文学には見られない、ソフラヴァルディー独自のものです。彼は、この論文を神の名においてという文言により書き始めており、このことは彼が一神教を信仰していることを示しています。ソフラヴァルディーの信条は、本物であり、宗教的なこだわりや社会状況から、彼は謎めいた形式で内容を述べることを余儀なくされたのです。

『大天使ジブライールの翼の羽音』という論文は、ソフラヴァルディーが精神面で段階的に向上していく様子を物語っており、その内容から、目覚めている時ではなく、夢の中で起こった出来事であると推測されます。ソフラヴァルディーは、物語に入る前に、この論文が生まれたきっかけについて述べています。この論文の執筆のきっかけは、特に今から1000年ほど前のイランの神秘主義哲学者ハージェ・アブーアリー・ファールマディー(読み方確認)を初めとする過去の偉大な神秘主義者たちを、見解上の誤りと偏狭な考え方から中傷した、愚かな人々の1人を否定することにあります。

ソフラヴァルディーは、その愚かな人物がハージェ・アブーアリー・ファールマディーに質問した内容について述べています。その質問の内容とは、なぜ神秘主義者が一部の音を大天使ジブライールの翼の羽音だと考え、感覚により見ることのできるものの多くが大天使ジブライールの翼の羽音なのか、というものです。これについて、ハージェ・アブーアリー・ファールマディーは質問者に対し、大天使ジブライールの羽音の1つはあなた自身であると答えています。すると、この愚か者はこの答えを否定し、この言葉がどんな意味を持ちうるのか、この言葉は単に無意味なたわごとでしかない、と言い張ります。ソフラヴァルディーは、この質問者は厚顔無恥であり、彼を教養のない人間と呼び、次のように述べています。「いまや私は、大天使ジブライールの羽音を説明するのに、強い思想と正しい決意によって、これに関する論文の執筆を開始する。あなたがもし、ひとかどの男としての技量を持っているなら、この論文の意味を汲み取り、理解して見せるがよい」 この論文では、短い序文の後に、夜に起こった出来事が主人公の言葉で述べられています。こうした回答と自分の見解の擁護こそが、ソフラヴァルディーの哲学的に最も奥深い内容の論文の1つが執筆された理由なのです。

この論文に出てくる説話は、2つの部分に分けられています。第1部は、真理を求めるソフラヴァルディー自身についてであり、彼は2つの扉のある修行のための庵に赴きます。その扉のうちの1つは、大都市に向かって、もう1つは砂漠に向かって開かれます。真理を求めるこの人物は、砂漠に向かって進み、途中で人生経験をつんだ10人の男たちに出会い、彼らの威風堂々とした様子に恐れおののきます。物語の主人公は、自らの心の中に存在する預言者と、真理にいたる案内役の天使である哲学者に、彼の家はどこかと尋ねます。さらに、この哲学者に対し、創造精神や修行の程度、天空や孤独の世界の構造とその危険について尋ねます。この対話では、それぞれの質問の後に他の質問が登場し、ソフラヴァルディーはこのことによって照明哲学の教えの基本的な要素や、コーランの神秘を理解するために必要な修行に入る方法を明らかにしています。

第2部では、この物語の主人公でもあるソフラヴァルディー自身が門下生として、第1部における自らの精神的な案内役である師匠に対し、お名前をお聞かせくださいと求めます。案内役の師匠はこれに同意し、まず、「不思議な興奮」を彼に伝授します。ソフラヴァルディーのペルシャ語の著作を校正したセイエド・ホセイン・ナスル博士によれば、この「不思議な興奮」とは、占星術(算命学)の秘密であり、師匠はさらに、占星術(算命学)とは、神秘や例えを通じた、誇示や単語の意味による精神的な学問であることをソフラヴァルディーに伝授します。

この論文において、ソフラヴァルディーは宗教的な哲学の見解から自らの英知学の基本的な要素について語っています。彼は、神秘主義的な散文や詩の伝統的な特徴を拠り所とし、神秘主義的な方法を支持する人々と、理性を求める人々の間の見解の対立を扱っています。ソフラヴァルディーが神秘を解き明かそうとしたきっかけは、彼の成熟度や言葉の優美さ、修飾語句が増え、そして門下生らの意欲を掻き立てるための精神的な魅力を生み出したことだといえるでしょう。彼が、この種の論文のために選んだ名称や執筆形式は、全てこの著名な哲学者が持つ、他に類のない趣向や優美な性質、そして想像力を示しています。

 

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