ペルシャ語ことわざ散歩(110)「せむしの上にせむし」
皆様こんにちは。このシリーズでは、イランで実際に使われているペルシャ語の生きたことわざや慣用句、言い回しなどを毎回1つずつご紹介してまいります。
今回ご紹介するのは「せむしの上にせむし」です。
ペルシャ語での読み方は、Quz baalaa quz となります。
このことわざは、悪いことの上にさらに悪いことが加わる、問題を解決しようとしてさらに悪化させてしまう、間違いを正そうとしてかえって別のトラブルに発展してしまう状態を表し、日本語で言う「多事多難」、「泣きっ面に蜂」に相当するかと思われます。
このことわざは、次のような物語に由来しています。
ある村に生まれつき背中の曲がった2人の男が住んでいました。このうち1人は朝風呂に入る習慣があり、ある日の朝、人通りの少ない朝のうちに近くの公共浴場に出かけました。するとそこでは、ジェンと呼ばれる悪魔たちが結婚式を挙げている最中で楽しそうに歌ったり踊ったりしていました。背中の曲がった男もその輪の中に入り、悪魔たちに合わせて歌い、踊って見せました。この男をすっかり気に入った悪魔のかしらは、お礼に何かあなたの願いを1つかなえてやろう、と告げます。そこでこの男は「それでは私のこの曲がった背中を真っ直ぐにしてほしい」と頼みます。悪魔はその願いどおり、男の背中を真っ直ぐに直し、男は喜び勇んで家に帰ります。
しばらくして、この男のうわさは村に住むもう1人のせむしの男の耳にも入ります。そこで、自分もあの浴場に行って悪魔に曲がった背中を治してもらおうとしますが、そのときは生憎、浴場では悪魔たちの1人の葬式の最中でした。しかし、この男はあろうことか葬式の場で歌い、踊ってしまいます。この言動に腹を立てた悪魔は、背中の曲がった男の背中をもっとひどく曲げてしまいます。
このことから「せむしの上にせむし」ということわざが生まれたということです。日本語でもよく、悪いことがさらに重なる、弄り回しすぎてさらに駄目にする、などといわれますが、成り行きからそうなってしまった場合はともかく、自分の手で物事をさらにぶち壊すことは極力避けたいですね。それではまた。