イランの自然;イランの砂漠
イランの広大な大地は、多くの自然や観光名所を有し、エコツーリズムの可能性という点で、世界のトップ5に名を連ねています。このシリーズでは、イランの自然の恵みをご紹介して参りましょう。
●イランの砂漠
今回の「イラン自然散策」では、青い空の下に広がる金色の絨毯、「砂漠」をご紹介いたしましょう。
イランの国土は、5分の1以上にあたる、およそ30万平方キロメートルを砂漠が占めており、乾燥ベルト地帯に属しています。乾燥ベルト地帯には、この他、アラビア半島の砂漠、アフリカのサハラ砂漠、メキシコのソノラ州、アメリカのネバダ州などが含まれます。総面積を合わせると、イランの砂漠は、世界の4本の指に入るといわれています。
世界の他の砂漠と比較すると、イランの塩砂漠(しおさばく)は、その地理的な条件から優れた観光名所とされ、その厳しい自然条件にも拘わらず、独特の魅力を有しています。砂漠性の気候は、少なくとも一年の半分は過ごしやすいものでしょう。空一面に星が瞬く砂漠の夜は、都会で暮らす人々や、自然を愛する人々の心を癒してくれるでしょう。また、完全なる静寂、通常の場所では見られない景観、魅惑的な蜃気楼、大地の白と黒との見事なコントラスト、そして塩の殻で覆われた泥で形作られたモザイク模様、地面から盛り上がった塩の層など、その美しい自然は、イランの塩砂漠でしか見られないものです。
イランの塩砂漠の魅力は、その自然の美しさだけに限られません。ここには、隊商宿、宮殿、貯水池、地下水路、巡礼・宗教施設、その他の歴史的建造物など、数多くの古代遺跡が存在しています。これは、古くから、砂漠地帯で人間の生活が営まれていたことを物語るものです。
●イラン・キャビール国立公園
イランの砂漠地帯の魅力は、一つの番組の中で、とても語り尽くせるものではありません。そこで今夜は、特に「イラン・キャビール国立公園」と呼ばれる地域にスポットを当てて、お話しすることにいたしましょう。この公園は、国際委員会によって生物圏とされており、多くの価値ある保護区を有しています。
キャビール国立公園は、テヘランの東南にあり、テヘラン、セムナーン、ゴム、イスファハーンの4つの州にまたがっています。最初は、1964年、この公園の面積609ヘクタールの部分が、イラン狩猟協会によって保護区に指定され、その後、1976年に国立公園となりました。また、1982年以降は、その気候条件を理由に、25万ヘクタールは国立公園のまま、残りの42万ヘクタールが保護区とされ、テヘラン州生物環境保護区の事務局によって管理されています。
●キャビール国立公園の生態系
キャビール国立公園は、乾燥・砂漠地帯の典型であり、ほとんど雨が降らないことから、農業には適していません。しかし、一部の生物や植物が育つ可能性が存在し、限られた条件とわずかな資源の中で育つ植物や生物が見られ、保護下である程度の広がりを見せています。このようにキャビール国立公園は、砂漠の生態系、あるいは、生物及び植物の砂漠との調和のメカニズムを研究する上で、大きな重要性を有しているのです。
この公園には、様々な種類の植物がまとまって生えており、平原から山地にかけては、野生動物の生息地となっています。平原地帯には、砂漠地帯、及び半砂漠地帯に特有の植物が見られる他、鹿などの哺乳類、希少価値の高いヒョウ、ロバ、マムシが生息しています。また、山岳地帯にも、ステップ地帯で見られるような植物が生え、野生の羊や山羊が生息しています。
キャビール国立公園では、多種多様な鳥も見られます。ハトや灰色のシャコなどの土着の鳥の他、毎年、フラミンゴや多くの渡り鳥が、周辺の人造湖や塩水に集まってきます。キャビール国立公園は、砂漠性、半砂漠性の植物の他、山岳地帯に、ステップ地帯で見られる植物が生育しており、この一帯に生える植物は、概して、乾燥を好むグループと、塩分を好むグループの2つに分けることができます。主に見られる種類としては、おやひじき、あかざ科の植物、ぎょりゅう、ヘンルーダ、れんげ属の植物などが挙げられます。
●キャビール国立公園のその他の見所
動植物に加え、キャビール国立公園には、シャーアッバースの隊商宿、バフラーム宮殿、貯水池や城砦、古代の地下水路、多くの化石が残る丘など、美しい遺跡ががくさん残されています。この公園の中を通っているシルクロードは、古代のイラン人の独創的、芸術的な思想の象徴であるとされています。
砂漠の真ん中にあるイラン建築の遺跡、バフラーム宮殿は、ヴァラーミーンの南東100キロのところにあります。この宮殿は、3世紀から7世紀のサーサーン朝時代に建てられ、16世紀から18世紀のサファヴィー朝時代に修復が施されています。今日、バフラーム宮殿は、再度修復が施され、国内外から訪れる観光客の見所のひとつとなっています。
隊商宿の本館や壁はすべて、石を削って作られており、6つの監視塔と2つの大きな門があります。またこの隊商宿には、物を保存しておくための貯蔵庫、旅行者やキャラバンが滞在するための部屋、動物や家畜を飼育するための小屋があります。バフラーム宮殿は、大広間を備えた、ごく少ない隊商宿のひとつです。こうした大広間は、その昔、有力者によって使用されていました。
隊商宿の広い庭の一角には、小さな池があり、その水は、山にある泉から、小川を通って流れ込んでいます。この建造物はほとんど廃墟となっており、残っているのは、壁の一部のみです。また、およそ2キロ離れたスィヤークーフという山の麓には、エイノルラシードという隊商宿があり、バフラーム宮殿よりも建物は少し小さくなっていますが、同様の建築様式で建てられています。この隊商宿も、壁の一部が崩れ、半分は廃墟となっています。また周囲の丘の上からは、遠くにシルクロードを目にすることができます。このように、キャビール国立公園では、多くの美しい自然と、古代の遺跡を目にすることができるのです。
●イランの塩砂漠
緑豊かな森林、雪を頂いた山々、青く広がる海、これらの自然の美しさもさることながら、やはり、七色の砂漠は、他に類を見ないほどの自然の魅力に満ち溢れています。塩に覆われた荒野、金色の砂の丘、赤、黄色の土の丘、これらはどれも、砂漠でしか見られない光景です。
今日、砂漠は人間にとって、危険で恐ろしい場所と見なされていますが、少し前までは、多くのキャラバンや旅行者に親しまれていました。数多くの隊商宿、貯水池、そして井戸などの存在が、砂漠の過去の繁栄を物語っています。前回お話したように、イランは大部分を砂漠地帯が占めており、大きく分けて、北部のキャビール・塩砂漠、南部の「ルート砂漠」とに分けられます。今回は、この2つの砂漠の生態学的な特徴についてみていくことにいたしましょう。
●キャビール砂漠・塩砂漠
キャビール砂漠は、中央砂漠とも呼ばれ、地質学的には、周囲を山に囲まれた盆地で、不等辺三角形をしています。東側はサブゼバールという名の高地からタバス山脈まで、北側は、アルボルズ山脈の南側からセムナーンの高地を通ってサブゼバールまで、南側は、タフレシュ山脈、カーシャーンの高地、アナーラク、及び、ジャンダグといった山に囲まれており、イラン最大の砂漠地帯に位置し、東西におよそ600キロメートル、南北におよそ100キロから300キロの範囲に広がっています。キャビール砂漠の面積は、5万から6万平方キロメートルとされ、標高はおよそ400メートル、イランの高原地帯の最も標高の低い場所とされています。このようなキャビール砂漠には、花崗岩などでできた山々が存在します。これらは、地殻変動によって盛り上がったと考えられており、硬質なため、侵食の影響をあまり受けることがありません。
●キャビール砂漠とルート砂漠
キャビール砂漠とルート砂漠は、構造の点で大きく異なっています。ルート砂漠は、断層盆地ですが、キャビール砂漠は、浸食盆地になっています。キャビール砂漠の大部分は、砂や小石で覆われており、常に風が吹き、強い風と塩の混じった砂が、波のように音を立てて舞い上がります。キャビール砂漠を吹く風は、時に40メートルほどの砂丘を作り出し、この砂丘はまた、風に吹かれて場所を変えていきます。これは、流砂の丘と呼ばれ、周辺の村の住民やキャラバンの命を脅かすものです。キャビール砂漠は、イランで最も乾燥した地帯で、降水量はおよそ100ミリメートル、年間を通した最大の気温差は、70度に達します。砂漠の内部、及び、その周囲は、気候、人口、農産物といった点で重要性を持つ場所は皆無と言えますが、ジャンダグやビヤーバーナクといった小さな集落を目にすることができます。
●砂漠と歴史
学者は、その昔、イランの砂漠地帯に海が存在していたと考えています。その後、気温の高さと降水量の少なさが原因で、海水が次第に蒸発し、水面が低くなっていき、最終的に、今日の干上がった広大な塩沼地になったとされています。キャビール砂漠には、2つの湖のみが残っています。ひとつは、カーシャーンの北東にある塩湖、もうひとつは、テヘランとゴムを結ぶ道路の近くにあるソルタン池です。ソルタン池の方が、塩湖よりも小さくなっています。この2つの湖は、アルボルズ山脈の裾野から流れる春の雪解け水の恩恵を受けています。水がない場所で生きるのは、不可能か、あるいは非常に困難なことですが、イラン人は、時の経過と共に、どのようにして砂漠で生き延びるか、砂漠と共存していくかを習得していったのです。砂漠の条件を克服することは、実際、非常に古くからの文化であり、今日存在する文化とは異なるものです。
日中の酷暑、夜の冷え込み、地面の乾き、水不足、絶え間ない強風、流砂、これらはすべて、砂漠に散在する集落の住民や、この地を旅する人々が直面する自然の要素です。シルクロードのほとんどは、荒野や砂漠を通過しており、この道を通った先人たちの苦労は、並大抵のものではなかったでしょう。忍耐強いラクダが、砂漠を越えるキャラバンを乗せ、道中の休憩所、停泊所として、隊商宿が作られていきました。イランの中央部に住む人々は、可能であれば地面に穴を掘り、地下水路を作って水を確保しました。また、レンガや泥などの材料を使って、ドーム型の屋根や通風塔をつけ、酷暑の中でもくつろぐことができるよう、砂漠地帯独特の建築様式を用いた家を建てました。このようにして、この地域の人々は、独自の伝統を今日まで受け継いできたのです。
さて、今回は、スウェーデン人の旅行家、地理学者のスヴェン・ヘディンの話で締めくくることにいたしましょう。スヴェン・ヘディンは、1905年、イランの砂漠を訪れた際のことを、次のように語っています。「本当に不思議だった。砂漠とは、冬でも、青い空と輝く太陽が見られ、彼方に見える山々が、砂漠の色に染まるものだった。空は鉛色で、激しい雨が降っていた。午後も3時頃になると、雨は大分弱まっていた。しかし、夜になると、これまで経験したことのないほど激しい北風が吹き始めた。雨はおよそ18時間、絶え間なく降り続き、翌日の朝も、1、2時間ほどやんだと思ったら、朝の7時ごろ、再び降り始めた。ところがこの日は、1時間後に雨がやみ、代わりに太陽が雲の間から顔をのぞかせようとしていた」
●ルート砂漠
砂漠という言葉からは、乾燥、ラクダ、強風、流砂などが連想されるでしょう。ところが、ひとたび砂漠の砂丘に足を踏み入れると、その想像は一変します。砂漠にも水が存在し、生活が営まれています。自然を愛する人々は、砂漠の静寂の中には、人々を魅了する何かがあると考えています。彼らは砂漠の虜となり、いつも、それを再び目にする日を夢見ているのです。
今回の番組では、イランで最も暑いとされる、ルート砂漠をご紹介いたしましょう。ルート砂漠を訪れることは、多くの自然散策家の夢でもあります。ルート砂漠は、南ホラサーン州、スィースターン・バルーチェスターン州、そしてケルマーン州に囲まれており、面積はおよそ17万5000平方キロメートル、南北はおよそ900キロメートルに及びます。ルート砂漠で最も低い地点は、標高190メートルで、最も人口の多い集落は、「シャフダード」と呼ばれています。この金色の砂漠の傍らにある、スィーラチ渓谷と、これと同じ名前の集落には、緑豊かな美しい光景が見られます。
ルート砂漠は、砂漠の中の砂漠と呼ばれています。熱くて乾燥していますが、驚くべき自然があふれています。こうした自然のひとつが、『ゴダールバールート』です。黄土色の流砂が灰色や黒と入り混じり、その黒い砂が、火薬のように見えることから、火薬を意味する「バールート」と呼ばれています。
砂漠の魅力のひとつは、蜃気楼です。しかしそれは、砂漠で数日間、のどの乾きに苦しんだ人にとってではなく、砂漠の神秘を解明したいと願う人々にとってのものです。実際、蜃気楼は光の屈折によるもので、空気の密度が急速に変化したとき、つまり、空気の層の温度が、周囲よりも熱くなったときに起こる現象です。
広大なルート砂漠には、キャルートと呼ばれる、でこぼこした土地があります。キャルートは、ケルマーン州の西端にある人口の多い行政区のひとつ、シャフダードから北東に40キロメートルのところにあり、面積1万1000平方キロメートルです。この土の盛り上がった様は、世界で最も神秘的な自然現象を作り出しています。人間に砂漠の神秘を再認識させる、この蜃気楼の光景の中で、彼方に見える砂漠の出来事は、驚きに満ちています。この地域では、蜃気楼の虹、様々な高さの建物、複雑に入り組んだ街路、ドーム、塔、古代の城壁などを含む大きな町が、目の前に存在するように感じます。
この幻想的な都市では、日常生活が営まれている都会にある、すべての特徴が見られます。砂漠を吹く風の音でさえ、都会の喧騒をイメージさせます。しかしふと気づくと、この生命のない広大な場所に、都市など存在せず、キャルートが生み出す幻想に過ぎないことがわかります。実際、この地域の水や風による激しい浸食は、類まれなる光景を作り出しており、『伝説の町』、あるいは『幻想の町』などと呼ばれ、見る者すべてを驚かせています。
●ルート砂漠の特徴
ルート砂漠の特徴としては、この地域に地球上で最も熱い地点があることです。地質学者の調査で、ルート砂漠は地球上で最も暑い地点だとされており、イランの著名な砂漠研究家は、ルート砂漠についてこう語っています。「様々な報告から、ルート砂漠の中央部の温度は、アフリカの砂漠やアメリカ・ネバダ州の砂漠よりも格段に高いことが分かっている。ルート砂漠上空は、オゾン層が破壊されておらず、これはこの広大な砂漠がもつ、最も重要な特徴である。このため、ルート砂漠を照りつける太陽の日差しは、危険なものであるどころか、治療効果さえ含んでいる」
長さ100キロメートル、幅50キロメートルのこの地域には、いかなる動植物も見られず、微生物すら存在しません。この地域を訪れた研究者グループは、こう語っています。「この地域に殺菌済みの食べ物を持っていけば、決して腐ることはない。また、この地域で死んだ動物の残骸も、腐らない。なぜなら、その気温の高さにより、腐る前に乾燥するからだ」
「シュール川」も、ルート砂漠の自然の魅力のひとつです。この川は、砂漠の塩の砂を洗いながら流れており、砂漠の奥深くに流れ、年間を通して水を湛える唯一の川です。ビールジャンドの北西にある山々を源泉とし、200キロのジグザグ道を通ってキャビール砂漠につながり、シャフダードの塩の鉱山に至ります。この川の水は塩分濃度が非常に高く、ルート砂漠の中央に近づくにつれ、水分が蒸発するため、濃度も高くなっていきます。このため、下流の沿岸には、数キロメートルに渡って一切植物が生えておらず、シャフダードの塩の鉱山の手前まで来ると、塩分濃度が上昇するため、川の水はヨーグルトのような状態になります。旱魃であっても、シュール川の水が干上がらず、流れを維持する年もあります。
●イランの砂漠にある宿泊施設や隊商宿
世界の砂漠に存在する塩湖は、この一帯の自然の魅力のひとつです。イランの砂漠地帯にも、このような湖が存在します。イランで最も有名な砂漠の塩湖は、アーラーン・ヴァ・ビードゴル湖です。この湖は、ゴム湖という名で知られ、長さ80キロ、幅30キロ、総面積は2400平方キロメートルとなっています。この面積は、降水量が多い季節になると拡大し、夏や秋には縮小するため、それに合わせて湖面の形も変化します。水量が多くなると湖面が広がり、周囲の沼や塩沼地をも取り込むのです。
塩湖の塩分濃度は、通常の海水のおよそ50倍ですが、これは、暑さのために水分の蒸発量が多いこと、そして、周囲の河川から流れ込む水や、周囲の土壌に含まれる塩分が多いことに起因します。夏になると、水量が減る上に、水分の蒸発が速くなるため、湖の塩分濃度はさらに増し、塩の塊が浮きます。この塩の塊からは、食塩が採取されています。塩湖には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、その他、様々な産業に使用される化学物質など、数多くの成分が含まれています。
イランの砂漠の沿道には、隊商宿が建っています。これは、その昔、キャラバンがこのルートを使っていたことを示すものです。今日、こうした古い隊商宿の一部は、修復が施され、砂漠を見学にやって来た観光客の宿泊施設となっています。このような隊商宿のひとつに、「マランジャーブ」があります。マランジャーブ旅館は、テヘランからゴムを経由してカーシャーンまで南下し、その後カーシャーンから北東に進んだ、イスファハーン州の北端にある砂漠都市、アーラーン・ヴァ・ビードゴルへの途中にあります。このアーラーン・ヴァ・ビードゴルから、マランジャーブ宿泊施設までは、およそ2時間の距離で、地元の人に案内してもらうことをお薦めします。
マランジャーブ旅館の敷地は、正方形をしており、王座といくつかの部屋が、20メートル×30メートルの広さの中庭を囲むようにして建っています。建物はレンガと石膏でできており、部屋のほかにも、馬小屋や6つの監視塔があります。南側には、4メートル×10メートルの広さのプールがあり、プールの水は、地下から湧き出る泉から取り込まれています。この泉の水は、宿泊施設の飲料水としても使用されています。乾いた砂漠の中に存在する、このような水量の多い澄んだ泉、そして背丈の高い木々は、まさに砂漠のオアシスとなっており、この施設を訪れる人々を驚かせています。
マランジャーブ旅館は、イランで最も重要な天文台ともなっており、全国から、天体マニアの人々が訪れています。天文観測の集団が、旅館の屋上にカメラや望遠鏡を設置し、心地よい静寂の中で、美しい宇宙の神秘を堪能します。この地域の気温は、秋から冬にかけて、0度からマイナス1、2度にまで下がります。マランジャーブ旅館から、東におよそ12キロメートルの所には、マランジャーブ砂漠の見所のひとつ、流砂の丘が存在します。比較的広範囲に渡って点在している、これらの丘は、急斜面になっており、自然の風景を愛するカメラマンにとっては、絶好の撮影スポットです。この丘は、地表の風によって運ばれた砂が、植物や岩などの障害にぶつかり、積もることによってできたものです。もちろん、こうした障害が大きければ大きいほど、積もる砂も多くなり、その結果、大きな丘ができあがります。
この丘の砂は、ほとんどが石英ですが、石灰、石膏、粘土、火山灰なども混ざっており、これは、この地域にこれらの鉱物が豊富に存在するためです。流砂の丘の形は、三日月、U字、剣、そして砂紋の4つのグループに分類されます。流砂の丘は、高さが変化しやすく、通常はおよそ20メートルで、時には100メートルに達することもあります。マランジャーブ旅館の北側には、スィヤークーフと呼ばれる小さな山脈があり、その標高は、1865メートルとなっています。この山の周囲は沼地になっており、登頂には特定のルートを通るため、この土地に詳しい地元の人間の助けを借りる必要があります。
イランの南部に広がるルート砂漠の西側には、シャフダード・キャンプ場があります。このキャンプ場は、近年、イラン観光文化遺産協会の尽力によって完成しました。このキャンプ場には、ヤシの葉でできた美しい小屋、電気、飲料水、生活用品、保健衛生、風呂などの設備が整っており、ルート砂漠を訪れる旅行者の宿泊に適した場所となっています。
砂漠は、その美しさもさることながら、豊かな恵みをももたらしてくれます。そのひとつが、ラクダの飼育に非常に適した場所となっていることです。ラクダは、砂漠に生える、おになべなという植物を好物としています。砂漠の放牧地を整備し、拡張すれば、上質のラクダが育ち、品質の良い肉やミルクを生産することができるでしょう。また、イランの著名な砂漠研究家であるコルダヴァーニー氏は、次のように語っています。「砂漠に生える植物の多くは、工業や薬の原料として利用されている。その代表的なものが、オカヒジキ、とげはまなつめ、れんげ、ぎょりゅう、おになべなである」
アカザ科のオカヒジキには、洗浄成分が含まれています。その昔、この植物をすりつぶし、環境にやさしい強力な洗剤が作られていました。またこの植物から取れるアルカリ性の苛性ソーダは、じゅうたん産業に利用することができます。この他、砂漠の植物であるギョリュウからは、甘い液体が取れ、多くのお菓子作りに利用されます。また、砂漠には様々な種類の低木が育ちますが、これらは皆、乾燥した厳しい自然に絶えることができ、色々な分野に利用されています。