視点
米の弱点・凋落を強調するイラン最高指導者
イラン・イスラム革命最高指導者のアリー・ハーメネイー師が今月4日、体制責任者らとの会談で、複数の諸問題を提起・説明しました。ハーメネイー師が強調した点の1つは、アメリカが継続的な凋落・弱体化の過程にあることでした。
ハーメネイー師は「わが国に対する最も重要な反対勢力の1つはアメリカである。しかも、ブッシュ元政権よりはオバマ元政権、そしてオバマ元政権よりはトランプ前政権、さらにはトランプ前政権よりは現政権のアメリカの方がさらに弱体化している」と語りました。
ハーメネイー師が指摘しているのは、特にこの近年においてアメリカの権力や国力が日増しに弱体化・凋落していることを露呈させた、いくつかの重要な出来事や情勢変化です。
その1つは、2020年の米大統領選挙以降のアメリカ社会の分裂です。この現象の引き金となったのは、当時大統領かつ共和党候補だったドナルド・トランプ氏が現職のジョー・バイデン大統領の勝利を否定し、その挙句の果てに選挙後の2021年1月6日、トランプ支持派が米連邦議会議事堂を襲撃するという一連の事件でした。
この出来事は、アメリカ式民主主義の形骸化した根幹を揺るがしました。一方で、トランプ氏はこれまでに何度も、アメリカにおける民主主義を虚偽だとしています。トランプ氏がアメリカの選挙制度が虚偽呼ばわりし、選挙で大規模な不正行為があったと訴えたことで、前代未聞の政治的危機が発生し、アメリカにおける民主主義に疑問符が突きつけられた形となりました。
特に、2021年1月6日の議会議事堂襲撃により、政治分野におけるアメリカの国際的影響力や合法性に赤信号がともりました。そして現時点においても、トランプ氏が刑事起訴され、米大統領経験者が裁判にかけられる異例の事態となっていることから、アメリカでは国民が新たにトランプ氏の起訴・裁判への賛成派と反対派という二手に分裂しているのです。
アメリカの弱体化を示すもう1つの事例は、ウクライナ戦争における自らの国益保護や目的達成の推進の失敗です。アメリカがウクライナに対し膨大な軍事・武器支援をつぎ込んでいるにもかかわらず、ロシアは優勢を維持したとともに、自らの目的の多くを達成しています。このことにより、ウクライナをめぐるバイデン政権の政策に対する批判は、もはやアメリカ国内にも及んでいます。
米共和党ポール・ゴサール下院議員は、「ウクライナ戦争に対するバイデン政権の政策は失敗した」と指摘するとともに、ツイッターで「バイデン大統領とその支持者らは、ウクライナ戦争に関する情報戦で敗者となった。アメリカ国民はもはや、自国の国境警備に関係のない国への際限のない支援にはうんざりしている」と投稿しています。
アメリカはヨーロッパでの自らの立場の強化のためウクライナ戦争を利用してきました。しかし現在、欧州が米に追従することに対し、ヨーロッパ市民や政治家らが抗議の声を上げています。
これについてもイラン最高指導者は、「アメリカはウクライナで戦争を開始したが、この戦争により、アメリカおよび、実際に戦争のとばっちりを受けているヨーロッパの同盟国との間に亀裂が生じ、逆にアメリカは漁夫の利を得ている」と語りました。
アメリカの弱体化と凋落に関してイラン最高指導者が指摘しているもう1つの点は、アメリカがシオニスト政権イスラエルの占領地における危機解決に失敗した一方で、アラブ諸国の対イラン協調を阻止できていないことです。

ハーメネイー師は、「アメリカはイスラエルの危機を解決できていない。また、アメリカは対イラン統一アラブ戦線を結成する意向を発表したが、今日では、アメリカの思惑とは逆に、アラブ諸国とイランのつながりが増している。しかも、アメリカは政治的圧力と制裁行使により、自らの計画に従って核問題を終結させようとしたが、これもできなかった」と述べました。
さらに、もう1つの問題が浮上しています。それは、アメリカの思惑に反して同国のライバル大国、特に中国が地域・世界レベルでイニシアチブを取り、しかもアメリカの同盟国と見なされる国々と新たな協定が結ばれたことです。これに関して、故ジョン・F・ケネディ元米大統領の甥にあたるロバート・ケネディ・ジュニア氏はツイッターで、「サウジアラビアに対するアメリカの影響力の崩壊、そして、中国・イランとサウジ間の新たな同盟関係・団結ができたことは、軍事力を通じて世界的覇権維持を狙った米のネオコン戦略の無残な失敗を物語る痛々しい象徴である」と語りました。
さらに、アメリカの弱体化を具現するもう1つの要素として、主要な国際通貨としての米ドルの価値の低下が挙げられます。現在、一部の国はアメリカが他国への圧力行使の手段として米ドルを使用し、また米のライバル国や敵対国に対する制裁を強化していることに注目し、金融・通商取引で自国通貨の使用に転じています。これらの国々の代表例が中国やロシアであり、そして現在ではインド、ブラジル、マレーシア、トルコ、ベネズエラ、イランなどの国が同様の手続きを取っています。
一方で米国は、自らの裏庭と見なしている中南米諸国での影響力の低下を見せ付けられています。米国にとっての国際的な競争相手、特に中国が中南米諸国との関係をますます拡大している一方で、ベネズエラなどの国はアメリカの圧力を軽減すべく、ロシアや中国など他の世界的大国とのさらなる協力を推進しています。
イラン最高指導者はこうした一連の論拠から、「イスラム体制の敵の筆頭としてのアメリカは弱体化している」と断言しているのです。