視点
在イラン日本大使、「日本企業は従来どおりイランで活動しており、対イラン関係を維持」
相川一俊・在イラン日本大使が、「わが国の企業は依然としてイランで活動しており、我々はイランとの深い関係を維持している」と語りました。
相川大使は「日本政府がイランとアメリカの間の調停・仲介に失敗した後も、トランプ前米大統領在任中の危機的状況においても、ほとんどの日本企業はイランに留まった」と指摘し、「対イラン制裁が復活し、より一層厳しくなった後も、両国は関係を継続した。我々は困難な時期を経て、両国間の貿易は必要な速度に達せずなかなか進展しなかった。そのような中、我々は日本企業に対しイランでの活動継続を説得し、そしてこの困難な環境下での活動継続方法の模索を促すことに成功した」と述べました。
ファールス通信によりますと、イランと日本の関係は、イランと世界の経済大国の関係としては最も古い部類の1つであり、1979年のイラン・イスラム革命後も継続しています。
イランと西側諸国との関係の緊迫化が最高潮に達した時でも、日本は仲介を試み、イランと西側諸国との関係の破綻の回避に努めました。
イランと西側の緊張緩和に日本政府が果たした努力を裏付ける2つの証拠としては、1980年代のイラン・イラク戦争の終結に果たした日本の役割、およびトランプ前米政権下のアメリカとイランの関係が最も緊迫化した当時の日本の安倍晋三首相の努力が挙げられます。
しかし、米国がJCPOA包括的共同行動計画(通称:対イラン核合意)から一方的に離脱し、米国とその同盟国が対イラン制裁を行使している間、日本はありとあらゆる努力を尽くしたものの、米国の一方的な核合意離脱の結果による影響を回避することはできませんでした。
イラン外交に間するウェブサイト「ディプロマスィー・イーラーニー」はイランと日本の関係について、相川一俊・在テヘラン日本大使と対談しています。その日本語訳は以下のとおりです。
(質問)イランと日本の関係はこれまで常に深いものであり続けてきました。この深い関係は、1979年のイスラム革命後もしっかり残っており、両国関係は常に友好と相互理解に基づくものでした。しかし、世界が二極化する中、日本はどうすればイランとの相互理解に基づいた関係を維持できるのでしょうか。
(相川大使)ーイスラム革命の前後で、イランと日本は常に複雑で深い友好関係を築いてきたと言うべきです。日本人はイラン人と非常に多くの類似点を有しています。
しかし今、国際的な圧力がイランと日本の間の貿易関係に影響を与えています。そのような中で、日本はイラン産石油を輸入しづらくなっています。
また、我々がより良い状況を作ろうとしていたところ、突然新型コロナウイルスの世界的流行の危機が発生し、状況は以前よりもさらに困難なものとなりました。この間、我々はイラン向けのワクチンを準備しました。
この点に関して、我々は560万回分のワクチンをイランに送付したとともに、CTスキャンなどの医療設備をイランに提供しました。この医療サービスの価値は約 4000 万ドルに相当するもので、日・イ両国民との協力は良い経験になりました。
それとは別に、2019年には日本の当時の首相だった安倍晋三氏がイランを訪問しましたが、ご存知のように、このイラン訪問は当時ドナルド・トランプ米前大統領が在任中だったことからイランにとって困難な時期でした。彼(安倍晋三元首相)は、その困難な時期にイラン・アメリカ間を仲介しようとしましたが、残念ながら、彼の努力は期待したほどの成果には至りませんでした。
同時に、我々は日本政府による別の事柄も経験しました。それはおそらくこの緊迫した雰囲気の中で両国の関係が継続できるのではないかということです。この枠組みにおいて、ほとんどの日系企業がイランに留まりました。
対イラン制裁が復活し、それがさらに厳しくなった後もです。ここで指摘すべきことは、我々が困難な時期に遭遇し、両国間の貿易が必要な速度に達せず、その進捗が非常に困難を極めたにもかかわらず、我々は日系企業に対し活動を継続し、そしてこの厳しい状況の中での活動継続の方法を模索するよう日系企業を説得できたことです。然り、事業環境は厳しいものでしたが、同時に日本の国民と政府はこの嵐を乗り切ろうと努めました。
質問;日本とイランという2つの文化の間に、どのような共通点が見られますか?
(相川大使)-イランと日本の間には常に多くの類似点が存在してきました。まず、両国はいずれも同じアジアという大きな大陸に位置しています。歴史は、両国が発展と繁栄のために奮闘してきたことを物語っています。我々は19世紀に発展のための革命・維新を経験しました。しかも当時、両国は独立を維持し、地域に影響を与えながら、最良の関係を築こうとしていました。
文化面では、たとえば、イランの春の新年ノウルーズにはペルシャ語のアルファベットのSで始まる7つの縁起物で祝う一方で、我々日本人は七草粥で新年を祝います。また、両国とも新年には家族親戚を訪問して子供たちにお年玉を渡すという伝統があります。また新年にはイランと同様に、日本でも家族は食卓を囲んで楽しく過ごします。このようなことから、我々が文化面でいかに相互に類似しているかがお分かりいただけるかと思います。
また精神面や思考形態でも、イラン人と日本人は非常に類似しています。我々にとって、人々の間の信頼は非常に重要であり、イラン人にとってもそうであるように、信頼は我々にとって非常に重要です。さらに、我々日本人の間では自己献身の精神も共有しています。我々は自己献身や犠牲を非常に重視しており、自己献身がイランの文化の一部であると同様、それは日本の文化の一部でもあります。
さらに、我々にとっては技術に長けた人々が大切にされます。我々の工場には高度なスキルを持つ労働者がおり、自己献身により自らの時間を工場のためだけに使い、成長と繁栄につなげようとしています。イラン人も似たような感覚を持っていると思われます。これらのことから、政治、文化、風俗習慣など、イラン人と日本人の間には多くの共通点があると言えます。
(質問);最近では、イランが西側からの厳しい圧力を受けていることが分かります。韓国など一部の西側同盟国とは異なり、日本は常にイランの信頼の維持に努め、関係拡大のために真剣に努力してきました。現在、イランと韓国との関係にはある種の不信感が存在しますが、日本との関係にはそのようなものは見られません。大使は、現段階で、イランがこの信頼感を保つのに日本はどのように助けることができると思いますか?
(相川大使);先に申し上げたように、我々は深い歴史的相互関係を持っています。歴史的に、両国の間には非常に良好な協力関係が存在してきました。これらの関係は非常に深く根付いており、我々はこの信頼の維持継続に勤める必要があります。したがって、先ほどお話した通り、イランにとって状況は理想的ではなく、困難な状況にはあるものの、人権問題なども含めた両国間の対話と協力は、大きな助けになり、この信頼の維持にしかるべき形で寄与できると信じています。この問題は常に存在しており、人道分野と人権分野における両国間の協力は、両国間の関係を拡大する上で効果的な役割を果たしてきました。
真剣な対話と協力は、両国間の信頼の維持や関係拡大に非常に役立つ、と私は強く確信しております。核問題のような難しい問題は存在するものの、我々は今でも相互の言い分を注意深く傾聴できます。この場合、我々はどのように協力を継続できるかを判断し、イランの政府や国民とさまざまな問題について話し合うことができるのです。我々はこれまで長期間にわたりイランと真剣に議論、協力し、しっかりとした調整を行い、そして良い結果を挙げてきたと信じています。このことから、我々は今後ともイランの政府や国民との調整を続けていく所存です。
(質問)ー現在、世界では明らかに一方では欧米諸国、他方ではロシアと中国という二極化に向かっています。そうした中で、日本の位置づけをどう予想しますか? 日本はこうしたブロック陣営とは別に、インドやサウジアラビアのように自らの国益に基づいて決定することができるでしょうか?
(相川大使)-日本は言わずと知れたアメリカの同盟国です。しかし同時に日本は、イランのような反米国と非常に強い関係を持っています。我々はこれらの違いを管理し、イランとの協力を継続できるものと、私は考えております。19世紀のイギリスの首相の1人は、世界に永続的な同盟国はなく、永続的なものは国家の利益とその内部問題であると述べました。この事実は今でも当てはまるもので、それに間違いはありません。
しかし同時に、先ほどご指摘のように、そして私の考えとしても、自らの価値観を大切にし、また他の国とは異なる価値観を持つ国は、中間的な立場やシステムを選択するものです。そうした国は国際関係において、決して一方の側につくことはありません。
我々日本人も、こういう風であるよう努力しております。日本はG7・先進7カ国の1つです。我々がその一員であると意識しており、G7構成国であることを重視しているという事実は万人にとって明らかです。もっとも、このことは、我々がG7の一員であることが中国のような他国に反対することである意味ではありません。中国は日本にとって最大の経済パートナー大国です。このことから、我々はこの2つのバランスを取る必要があるのです。
私は、こうしたことは実現可能であると考えます。中国と日本はEUとの間に一連の問題を抱えているかもしれませんが、我々はそれらを超えて、それらの対立に自らを巻き込まないようにする必要があります。それは、我々は欧米諸国とはとても深い関係にあるからです。しかし、これが全てではありません。我々はあらゆる状態において自らの利益を考えるべきです。わが国の政府は、イランのような他国に対しても同様のアプローチを取っているのです。