ハリウッド映画に描かれた黒人・アジア系・先住民族への差別描写
往年のハリウッド映画には、人種差別的描写にあふれた作品が数多く存在します。
ハリウッド映画には、その人種差別的内容から世論の反発を受け、表現方法の変更を迫られた作品がいくつもあります。アメリカの有料チャンネル「HBO」は、映画「風と共に去りぬ」に人種差別的描写があるとの批判をうけ、同作品を配信対象から一時的に削除しました。その後、映画の冒頭に「作品中の人種差別的表現は、それを容認するものではない」という旨の但し書きを表示することで、配信が再開されました。ここでは、こうした人種差別的表現にあふれたハリウッド映画を振り返っていきます。
子供の視聴に不適切な人種差別的表現
1941年公開のディズニーのアニメ動画「ダンボ」には、ジム・クロウ(ダンディ・クロウ)をリーダーとするカラスの集団が登場します。このジム・クロウの名は、1876年から1964年にかけて米南部諸州を中心に存在した人種隔離法「ジム・クロウ法」に由来します。しかし、カラスの集団の声は白人の声優陣が担当し、映画がこの法律への関心を喚起することもありませんでした。
同じくディズニー映画の「ピーターパン」も、先住民族の描写をめぐって批判されている作品です。劇中に登場する歌「What Made Red Man Red」は、アメリカ先住民の衣装や信仰を取り上げています。また、1956年公開の「わんわん物語」に登場する2匹のシャムネコは、東アジア人に似せた顔つきで描かれ、アジア系のアクセントで歌を歌っています。
1967年公開の「ジャングル・ブック」には、キング・ルーイというオランウータンが登場しますが、その話し方は黒人を揶揄しているとされています。さらに、1946年の作品「南部の唄」は、奴隷制を称賛しているとして現在は事実上の封印状態にあります。
アジア人を差別した映画
人種差別的表現が見られるのはディズニー映画だけではありません。1956年の「王様と私」(制作:20世紀フォックス)は、アジア人への差別と偏見に満ちた作品となっています。この作品は、舞台となったタイの人々や文化を傷つけただけではなく、アジアが野蛮で未開な土地であるとのイメージを広めました。
1932年に米MGMが制作した「フー・マンチューのマスク」(邦題:成吉思汗の仮面)は、公開時からすでに当時の中華民国政府により「中国人を恐ろしく描くもの」として抗議を受けていました。
6歳で子役としてデビューしたハリウッド女優、シャーリー・テンプルが出演した映画には、黒人に対する人種差別的表現が数多くあります。「テムプルの愛国者」「小連隊長」(原題はそれぞれ「The Littlest Rebel」「The Little Colonel」)では、テンプルが愛すべき主人公として登場しますが、その内容は黒人差別にあふれています。白人の少女であったテンプルを登用することは、そうした差別表現を覆い隠す役割を果たしたのです。
差別表現は西部劇映画にも見られます。「捜索者」「駅馬車」(いずれもジョン・フォード監督)といった作品は、白人のカウボーイが先住民族への復讐を果たすという内容で、人種差別に加え、ジェノサイドを正当化するものとなっています。
こうした映画がもたらす害悪は、あらゆる人種や民族を差別対象として描くことで、白人の優位性を当然のこととし、その犠牲となった黒人やアジア人、先住民族はどうでもいい存在だという認識を植え付けることです。これらの映画のメリットをあえて挙げるとすれば、我々が過去を知り、それを克服するのに役に立つということです。