視点
真の変化は投票箱ではなく街頭にあり:米学生らの間に出現した強い信念
アメリカで学生を中心とする国民の要求に注意が払われていないことは、同国の政治制度が多くの学生にとって既定路線にすぎず、真の変化を期待できないものとなっていることを示しています。
【ParsToday国際】米国の歴史家ハワード・ジン氏によれば、アメリカの大学では選挙シーズンの開始と同時に「選挙狂」と呼ばれる雰囲気が生まれます。この狂信じみたムードは大学の文化と切っても切れない関係にあり、選挙討論会などのイベントの開催、共和党と民主党のグループの活動、学生への選挙参加への奨励などが見られます。こうした環境の中で学生らは、投票は政治参加の頂点であると教えられ、学生時代から彼らの意識に神聖な義務として刻み込まれるのです。しかし今日、こうした運動は選挙制度に対する学生の信頼を揺るがす重大な危機に直面しています。
選挙制度について熟知し抗議する学生らは現在、深刻な疑念を抱いています。パレスチナにおける大量殺戮やそれをうけた米国内での反戦運動の弾圧は、彼らの信念に大きな打撃を与えました。これらの抗議活動の多くが暴力などを伴う警察の介入と広範な弾圧に見舞われたからです。
抗議活動の最前線にいた学生らは、彼らの側に立った教授らが追放・処罰されたり、検閲されるという光景を目の当たりにしました。このような雰囲気により、特に大学において学生らは学術界の政治的、思想的影響力に疑問を抱くようになっています。
この危機は、選挙の現場にも現れてきています。学生らは、大量虐殺と戦争といった問題において民主・共和両党の立場にそれほど違いがないことを見抜き、候補者間にも根本的な違いはないと感じています。8月に民主党候補のハリス副大統領が行った選挙集会の1つでは、デモ参加者らが「カマラ、我々はあなたを大量虐殺容疑で告発する」と連呼しました。しかし、ハリス氏の返答は「対抗馬のトランプ候補を勝たせたいなら、そう言い続けたらいい」というものでした。
こうした反応は学生の要求と政治家の間の隔たりを物語っています。共和党候補のトランプ氏も「ネタニヤフ首相が始めた仕事をやり遂げるために、必要なあらゆる手段を彼に提供する」と語っています。
抗議活動を行う学生たちの要求は、イスラエルへの武器支援の停止です。しかし、この要求は米国の政治エリートにとっては不可能であり、選挙において争点に上ることはありません。若い学生をはじめとする国民の要求がこのように無視されていることは、アメリカの政治制度が多くの学生にとって、既定路線で抜本的な変化を期待できないものと化していることを示しています。
ニュージャージー州にあるストックトン大学で人類学の教鞭をとるナズィア・カズィ教授も、在米イスラム教徒の選挙行動に関する研究で同じ問題を指摘しています。同教授は、「アメリカの2大政党・潮流が好戦的政策や治安政策を支持しているため、米国の多くのイスラム教徒が今回の選挙に失望している」としました。この見方は今日の多くの学生に共通するもので、「2大政党のいずれもがアメリカ帝国を代表する選挙に、どうやって参加できるのか」と問いかけています。
学生らは今や、投票に対する信頼の危機に直面しています。彼らは、選挙という手段が市民に力を与えるのではなく、民衆の抗議活動を制御し沈黙させる手段になったと考えているのです。カズィ教授によれば、投票は複数の選択肢から1つを選ばせるという、非常に限定的で不公平なテストと化しており、自らの学生に投票に行くよう促す教授は1人もいないといいます。
この危機は学生らにとって機会であるだけでなく、教授らにとっても大きな正念場となっています。カズィ教授は「今起きていることは、選挙という枠組みの外で社会運動や闘争の歴史を教える機会となり得る」と強調しています。学生らに対しては、歴史の真の変化が投票箱を通じてではなく、組織的かつ集団的な抗議活動を通して達成されたことを示すことができます。またこの瞬間は、投票が政治参加の最高の形態である、という学生らにこれまで教えられてきた通説が誤りであることを暴く機会なのです。
このように、抗議活動の弾圧と選挙への失望感を受けて、若い世代とアメリカの学術界にとっての大きな課題が浮上してきています。その世代とは現行制度に失望し、社会変革のための新たな道を模索している世代だといえるでしょう。