ベネズエラ大統領に対する米の新たな行動の目的とは?
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アメリカ政府が、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の逮捕につながる情報提供に対し5000万ドルの報奨金を設定したと発表しました。
(last modified 2025-08-10T12:02:04+00:00 )
8月 10, 2025 17:51 Asia/Tokyo
  • ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領
    ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領

アメリカ政府が、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の逮捕につながる情報提供に対し5000万ドルの報奨金を設定したと発表しました。

【ParsToday国際】パム・ンディ米司法長官は今月7日、SNS上において「ニコラス・マドゥロ氏は米国の国家安全保障に対する脅威である。米国は、航空機2機と車両9台を含むマドゥロ氏関連の資産7億ドル以上を凍結した」と投稿しました。またベネズエラ大統領に対する訴追の中で「マドゥロ氏は世界最大の麻薬密売業者の一人であり、彼の恐怖政治は続いており、トレン・デ・アラグアやシナロア・カルテルといった国際テロ組織と協力を続けている」と主張した上で、最後に「マドゥロ氏は法の裁きを受け、その凶悪な犯罪に対して責任を負い、処罰されるだろう」と警告しています。

これに先立ち、米国務省はマドゥロ氏に関連する情報に対し2500万ドルの報奨金を出すと発表していました。

ベネズエラ当局はマドゥロ大統領に対する米国の新たな行動に強く反発するとともに、同大統領逮捕に対する米国の5000万ドルの報奨金提示を非難、糾弾しました。そして「これは政治的プロパガンダであり、中南米諸国の国家主権に対する侵害だ」として、この行動を「愚の骨頂」、「恥知らず」、「国家主権の侵害」と非難しています。

ベネズエラのイヴァン・ヒル外相は今月8日、テレグラム内のメッセージにおいて「ボンディ米国司法長官が提起した盲目的な報奨金は、パニックを引き起こすだけの最も無意味な策略だ。ベネズエラが米国のテロ計画を暴露した中で、この女性はベネズエラの極右の敗者たちに便宜を図るためにサーカスを仕掛けた」と述べています。また、同外相は「このショーの目的はアメリカの内政問題から同国市民の視線を外させることだ」とし、この報奨金提示を非難するとともにこの行為を「露骨な政治プロパガンダ」だとして、「ベネズエラの尊厳は売り物ではない」と語りました。

一方、ベネズエラのタリク・ウィリアム・サアブ検事総長も、マドゥロ大統領逮捕に対する米国の「愚鈍で恥知らずな」報奨金設定を非難し、「恥も外聞もわきまえないこの行為は公然たる国際法違反であり、我が国の国家主権に対する攻撃かつ、主権国家に対する明らかな内政干渉だ」と述べています。

トランプ現米政権は、マドゥロ大統領の逮捕につながる情報提供者に5000万ドルの報奨金の提示により、政治および安全保障上という複数の目的を追求している模様です。一部のアナリストはこの動きについて、アメリカの国内問題から市民の目をそらし、支持者の間でトランプ氏のイメージを高めるための政治的なショーだと見ています。トランプ政権は、このような報奨金の設定により、マドゥロ氏に関する情報を持つ個人や団体が報奨金目的に行動を起こすことを期待しており、それが自らに有利となるべくマドゥロ氏の秘密裡の通信の解明につながると主張しています。この動きは、反マドゥ派を支援しベネズエラの政権交代を目指すという、トランプ政権のこれまでの政策とも合致していると見られます。そして、この点におけるトランプ政権のもう一つの目的は、マドゥロ氏への政治的圧力を強めることにあります。ボンディ米司法長官はマドゥロ大統領を「犯罪者」かつ「麻薬密売人」と評し、今回のアメリカの行動をマドゥロ政権の国際的な信用失墜を狙った取り組みの一環と見ています。同時に、ベネズエラがイランの緊密な同盟国であることに注目し、今回の動きは抵抗の枢軸とイランの地域同盟国に圧力をかける戦略の一環とも捉えられます。

しかし、アメリカのそうした思惑とは裏腹に、今回のアメリカの行動はベネズエラ国内におけるマドゥロ氏の立場にプラスの作用を及ぼしています。すなわち、米がマドゥロ氏逮捕につながる情報提供の懸賞金を倍増させたことは、米国の予想に反して、軍や治安機関を含むマドゥロ氏に対する彼の周辺の有力機関の忠誠心を強めている格好となっているのです。特に、外部からの脅威は通常、内部的結束を生み出すため、これは大きな意味を持ちます。さらにマドゥロ政権は、この行動を「帝国主義への抵抗」という言説を強化する手段として利用し、「ベネズエラに対する露骨な米国の内政干渉」の証拠として提示しています。一方、ベネズエラ国民は経済問題や制裁に直面している状況において、米国のこの行動を一種の「国家単位の侮辱」と捉え、マドゥロ政権への支持をさらに強めています。その一方、アメリカがマドゥロ大統領を指名手配したことにより、ベネズエラ国内の親米派はこれまで以上に政治活動面で制約される可能性が高まっています。総括的に、アメリカの今回の行動はマドゥロ大統領の立場を直ちに弱めなかったのみならず、逆にベネズエラ国内における彼の立場を強化するものと思われます。

トランプ政権がマドゥロ大統領に5000万ドルの懸賞金を提示したことは、ベネズエラの近隣諸国の安全保障に重大な影響を及ぼす可能性があり、こうした動向はベネズエラの国内危機の悪化をまねくことが考えられます。紛争の発生、はたまたマドゥロ政権が弱体化したような場合、コロンビア、ブラジル、エクアドルといった近隣諸国は新たな難民や移民の波に直面することになり、治安や社会基盤に深刻な負担がかかる可能性があります。さらに、不安定な状況下では武装勢力や麻薬密売組織がベネズエラの権力の空白を悪用し、近隣諸国への活動を拡大して、国家安全保障を直接脅かす可能性も否定できません。また、米国と緊密な関係を持つ近隣諸国の中には、アメリカのこの行動を支持する国もある一方で、特にマドゥロ大統領と緊密な関係を持つ国々が反対することも考えられます。こうした違いは、地域協力に亀裂を引き起こすかもしれません。米国の一方的な行動は、UNASUR(南米諸国連合)やCELAC(中南米カリブ海諸国共同体)といった、政治・安全保障上の危機解決を目的に結成された地域組織への信頼を損なう可能性があります。そしてこうした弱体化は、共通の脅威に対する地域諸国の効果的な連携を阻害することにもなりかねません。

また、危機的状況においては、ロシアや中国などの国がマドゥロ大統領を支援する一方で、米国とその同盟国はベネズエラの反体制派を支援することが考えられ、こうした地政学的な競争は地域の安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

一方、マドゥロ大統領の逮捕に対する5000万ドルの懸賞金をかけるというトランプ政権の新たな行動は、国際社会で大きな反響を呼び起こすとともに、米国の政策に反対する国々との緊張の高まりを招いています。マドゥロ大統領を支持するロシア、中国、イラン、キューバといった国々は、アメリカの行動をベネズエラの国家主権への脅迫と捉えており、それぞれ異なる対応を取る可能性が高いと言えます。

さらに、もう一つの問題は多国間国際機関の弱体化です。トランプ大統領は、こうした一方的な行動によって国連や国際司法機関といった機関を掻いくぐり、直接的な圧力行使に訴えるようになりました。しかし、こうしたアプローチにより、世界は国際的な秩序の維持に果たす米国の役割を信頼しなくなっています。この文脈におけるもう一つの問題は、米国の外交政策における国家主義的アプローチの強化です。マドゥロ大統領に対する行動は、多国間関係よりも自国の利益を優先する「アメリカ・ファースト」政策の枠組みに合致するものであり、このアプローチは、米国の伝統的な同盟国がアメリカの約束内容にますます懐疑的になっていることを物語っています。

そして、この行動によるもう一つの重要な結果は、中南米諸国における情勢不安の増大です。マドゥロ大統領逮捕への5000万ドルの懸賞金は、米国の他の野党指導者たちに対し「政府の政策に反対すれば同様の措置に直面する可能性がある」という明確なメッセージを発信することにもなっているのです。
 

 


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