ペルシャ語ことわざ散歩(124)「熊の友情」
皆様こんにちは。このシリーズでは、イランで実際に使われているペルシャ語の生きたことわざや慣用句、言い回しなどを毎回1つずつご紹介してまいります。
今回ご紹介する慣用表現は、「熊の友情」です。
ペルシャ語での読み方は、Duusti-ye Khaale kherseとなります。
この表現は、日本語で言う「有難迷惑」、「情けが仇」、「迷惑な友情」に相当するもので、西暦200年ごろにヴィシュヌ・シャルマーによって作られたインドの説話集「パンチャタントラ」にある物語が元になっていると言われています。
その物語によりますと、大きな庭園を持つある裕福な年老いた男が1人で暮らしていました。この男は、以前に家族を失って天涯孤独となっていましたが、大金持ちですから物質的には何不自由なく暮らしていました。唯一、不満をあげるとすれば誰も連れ合いや友人がいないことでした。しかし彼は、自分に近寄ってくる人は自分の財産が目当てであると思い込んでおり、そのため誰とも友達になろうとはしませんでした。
ある日、この男は森の中を散策していたとき、そこをうろついていた1匹の年老いた熊を見つけ、自分とあまりに境遇が似ていることから親しみを覚え、その熊と友達になります。
さて、それからしばらく月日がたち、一人ぼっちの男はこの熊に会いにまた森にやってきます。しばらく歩いて疲れていたので、男は木陰に横になり寝入ってしまいました。しかしそのとき、男の顔の周りに1匹のハエがぶんぶんうるさく付きまとい、挙句の果てに男の顔に止まります。この様子を見ていた熊は、男の睡眠を邪魔するハエを殺そうとして、男の顔に止まっているハエに向かって大きな石を投げつけます。しかし、これが逆効果となり、男は死んでしまいます。
このように、熊が男への同情心からしたことが返って仇となった出来事から、「熊の友情」が有難迷惑や「迷惑な同情心や友情」の代名詞として知られるようになりました。
ちなみに、この物語が収められている「パンチャタントラ」は、世界で最も古い子供向けの物語集とされています。ペルシャ語のことわざには、こうした物語に由来するものも多く存在します。今後もそうしたことわざを随時ご紹介してまいります。どうぞ、お楽しみに。