アメリカの人種間の対立
この数日、アメリカは人種間の根深い対立に巻き込まれています。
はじめに、黒人の若者2名が、それぞれ別の町で、1日違いで警官の発砲により死亡しました。その後、アメリカの各都市では、再び、警察による少数派への差別的行動に対する大規模な抗議運動が行われました。結果として、警官5名がテキサス州ダラスで射殺される事件が発生しました。
この一連の事件から、さまざまな人種が存在するアメリカで、人種間の関係がより危機的なものになっているように見えます。アメリカでは長年、社会における暴力が発生しており、また武器の携帯も許可されています。こうした中、統計では、対立が緩和されていないどころか、アメリカの人種間の衝突は増加し、より悪質なものになっていることが示されています。
アメリカで発生した警官による黒人の青少年の殺害は、目新しい事件ではなく、アメリカの歴史は低階層に対する差別や不公正に満ち溢れており、経済、社会、人種の点からも、こういった低階層の人々と中間層の間には大きな隔たりがあります。
おそらく、1950年から60年の間のアメリカ公民権運動の時代、黒人の弾圧は、現在に比べて、より過酷だったということができるでしょう。この時代、黒人の庶民だけでなく、マルコムXやキング牧師などの彼らの宗教的な指導者も、暗殺されています。その後の時代も、治安機関や司法機関による黒人差別は公然と行われていました。
一方、この1,2年の警官による黒人の青少年の射殺を、国家的なレベルの危機に変えたものとは、ソーシャルメディアの発展と、人種に関する意識のレベルの向上です。スマートフォンは、暴力事件の現場を映像で取ることができ、SNSを通じて、この暴力をすべての人々に知らせることができます。このため、ファーガソンやニューヨークなどで若者が殺害された事件は、すぐにすべての人に知らされ、アメリカ各地で大規模な抗議デモが実施されました。このようなプロセスは、これまでの数十年間においては、アメリカの人種差別に対する主要メディアの無関心により、実行不可能だったのです。
アメリカの治安機関や司法機関の差別が明らかになるとともに、不平等に関する人々の社会的な問題意識が高まりました。現在、白人の若者など、多くのアメリカ市民が同国の人種差別に不満を抱いています。この30年間、この問題に対する社会的な抗議は、おもに黒人の指導者によって語られ、黒人に支持されてきました。しかし、このところ、黒人による街頭デモに白人も参加しており、このことは、アメリカの人種的な問題が、数の点で増えてきたともいえます。
平等を求める感情がアメリカ社会の広い範囲に広がっていきながら、同時に、この国の人種差別的な動きはより盛んになっています。たとえば、アメリカ大統領選挙の共和党の有力候補のトランプ氏は、これまで見られなかったような形で、黒人やラテン系、イスラム教徒の集団の絶え間ない成長に関する人種主義者の恐れに触れています。言い換えれば、アメリカにおける政治的、経済的、社会的な状況においては人種差別に反対する意識も、人種主義的な意識も、ともに高まっています。このため、この2つの動きの間で、人々にとっての明るい展望は近い将来には見えないのです。
アメリカの銃による被害に注目することなく、有色人種への暴力を根絶することはおおよそ不可能です。アメリカ社会では、3人のうち2人が銃を持っている計算となります。一部の銃は軍が使用しているような戦争用の兵器となっています。こうした中、アメリカの警察の見解では、不審な人物は誰でも警察を殺害する可能性があるとされ、このため警官は不審な人物に直面した際、銃を抜き、この人物を殺害しようとします。
こうした中、アメリカの奴隷制時代の結果や人種差別などのさまざまな理由により、黒人は白人よりも犯罪に手を染めることが多くなっています。たとえば、黒人はアメリカの人口のおよそ13%を占めていますが、70%以上の窃盗事件や殺人事件は、黒人が起こした事件です。黒人居住区は主にギャング団や麻薬の売人の活動拠点となっています。このため、多くのアメリカの警官にとっては、黒人の青少年はそうでないと証明されない限り、殺人者なのです。
警察が夜にアメリカの大都市の黒人居住区の一部に立ち入ろうとしないほど、黒人に対する恐怖感は高まっています。また、怪しい場所で黒人に出会ったとき、すぐ銃に手をかけることもあります。確かに、警官に対する司法上の擁護により、彼らは恐れることなく、罪のあるなしにかかわらず黒人に発砲しており、これによりアメリカの人種間の対立が拡大しているのです。
現在、アメリカでの有色人種の人口増加、この国の経済危機による深刻な結果や歯止めのきかない銃の携帯により、黒人の若者が警官により殺害される事件は、これからも繰り返し起こることになりそうです。
一方で、アメリカの新たな政治的、社会的現象として、一部の黒人が報復的行動をとることがあげられますが、これは長年の市民による抗議とは異なり、銃を手にして警官を殺害するという現象です。この行動によって、黒人に対する警察の暴力が拡大することになり、また、アメリカの人種主義的傾向はより攻撃的なものになります。
公式統計によれば、アメリカの人口の多い場所で発砲事件が発生することで、人々はより多くの銃を求めていることがわかっています。このため、アメリカ社会は、銃の携帯の自由が人々の暴力を生みだし、彼らの暴力が、銃の取引を盛んにしているという形で、暴力と銃の連鎖の時代に苦しめられているということができるでしょう。このような中で、コロラド州のコロンバイン高校、バージニア工科大学、サンディフック小学校、オーランドの同性愛者ナイトクラブで発生したような乱射事件や、アメリカの警官による黒人の若者の射殺事件のような事件が繰り返し発生するのは想像に難くないでしょう。