人間を元凶とする海洋汚染
-
人間を元凶とする海洋汚染
海や大洋の汚染に人間の活動が関係していることについて考えます。
前回は、過去数十年間において人間の行き過ぎた産業活動などにより、地球上の最大の水資源である海や海洋が汚染されていることについてお話しました。河川に投棄される産業廃棄物や家庭用廃棄物、化学肥料、油性の物質や化学物質、プラスチック系の物質といった有害な物質は、神からの恩恵であるこの偉大な資源の汚染の度合いを日増しに高めています。
しかし、こうした中で海洋汚染の主な原因が船舶の航行であることを示す証拠資料が存在しています。しかも、大気汚染や騒音に加えて、船舶の(重しとして船底に積む)バラスト水や廃棄物の排出、さらには燃料の消費による汚染が、海洋エコシステムを乱しているということです。ユネスコ政府間海洋学委員会の国際水文学計画の関係者だったレイ・グリフィス氏は、これについて次のように述べています。「海洋環境は、一見目立たない悪用の犠牲になっており、長期的に見て悪い結果を迎える。それは、海域における貯蔵庫の洗浄による大量の原油の漏出、タンカーからの燃料の排出などである」 資料によれば、船舶の管理責任者の不注意のみで、原油に含まれる炭酸水素による海洋汚染のおよそ25%を占めているということです。
日々増加する海上輸送の結果は多種多様であるとともに、時には想定外のものとなります。そのうち、最悪のものの1つは、様々な種類の目に見えない旅客を、何の障害もなく簡単に地球上を移動させてしまうことです。そうした乗客とは、海中に存在する微生物やバクテリア、ウイルスなどあり、これらはバラスト水や砂とともに船底のバラストタンクに入り込み、船舶が目的地に到着すると、その海域のエコシステムに入り込むのです。
バラスト水とは、船舶を安定させるために重しとして船底に積み込まれる水であり、貨物船が空荷で出港するとき、港の海水が積み込まれ、貨物を積載する港で船外へ排出されます。古い時代においては、バラスト水の代わりに船舶の重しには石や木材、砂利などが使用されていました。当時、船舶の安定維持を目的としたこれらの物質の運搬が、海洋環境や人間の健康にどのように貢献するかについては知られていませんでした。しかし、この分野に関する技術の進歩は、海洋や海中生物にとって破壊的な大問題となったのです。
これまでの調査の結果、一日当たり3000種類以上の微生物や藻類が、船舶のバラスト水により移動していることが分かっています。アメリカ海洋大気庁の長官によりますと、アメリカ沿岸地域には年間8000万トンものバラスト水が放出されているということです。また、同国カリフフォルニア州サンフランシスコ地区では、212種類に上る、これまで知られていなかった外来種が存在しているとされています。
このほかの例として、黒海における侵略的な外来種であるクシクラゲ類(確認済み)の存在が挙げられます。この生物は体長10センチほどで、ムネミオプシス・レイディという学名で知られ、1982年に初めて北米地域から持ち込まれたものです。この生物は、黒海に生息する魚類を食べつくし、この海域のエコシステムに悪影響を及ぼしています。(次の一文、前の文と統合したため省略)また、黒海に生息する重要な魚や動物プランクトン、さらにはそれらの稚魚や卵を捕食する肉食性の小動物です。一方で、黒海にはこの種のクシクラゲにとっての天敵が存在しないため、この生物の異常繁殖に対する警告が出されています。また、この生物は黒海の近辺にあるアゾフ海にまで急速に広まっています。
クシクラゲは、この数年間で黒海における漁業やこれをベースとした貿易を破壊しており、その当初からこれまでに少なくとも10億ドル相当の損害を与えています。この恐ろしい生物の存在により、黒海とアゾフ海に生息するイルカの個体数も、そのエサとなる魚の絶滅により激減しています。
クシクラゲは、船舶を通じてイラン北部カスピ海にまで到達しています。カスピ海は内陸湖であるにもかかわらず、近年になってロシアがカスピ海と黒海を結ぶ、101キロメートルに及ぶヴォルガ・ドン運河を建設したことから、海洋汚染がカスピ海にまで及びカスピ海に生息する各種の魚類も絶滅の危険に瀕しています。
1991年以降は、船舶のバラスト水を通じ、水質汚染に加えてクシクラゲも黒海からカスピ海に到達しています。クシクラゲがカスピ海に持ち込まれてしまったために、この湖に生息する生物が危険にさらされています。クシクラゲは、酸素やエサの不足への耐久力が強く、摂氏1.3℃から32℃までの水温に耐えることができ、また強い繁殖能力を持っています。この生物は、カスピ海で急激に個体数が増えたことから、この湖に生息するイワシなどの魚を急速に食べつくし、これをほぼ絶滅状態に追い込んでいます。イワシの絶滅により、連鎖的にカスピ海に生息するチョウザメなどの大型の魚も絶滅の危機に陥っています。
一方で、植物の外来種も動物の外来種と同様に極めて有害で危険なものです。これについて報告されている実例として、北アメリカ原産の沈水植物の一種であるコカナダモが、ドイツ西部やオランダ、イギリスにおいて異常繁殖した例が挙げられます。この植物は、水面を完全に多い尽くし、水中生物を窒息させることに加えて、船舶の航行にも問題を引き起こしています。また、オーストラリアでもアジア原産のワカメが新たに異常発生しており、そこに生息する魚や甲殻類のエサの確保や成長に必要とされる、海中植物に取って代わっています。
地中海でもここ数年、およそ100種類の外来種が出現していますが、その代表例はヨーロッパのモナコ海洋博物館から流出した突然変異種の海藻イチイヅタです。これは、一部の動植物の死滅や地元の自然環境の破壊の原因となる可能性があるとされる外来種で、キラー海藻とされています。フィンランドのオーボ・アカデミー大学の教授と、この分野の専門家らは、次のように述べています。「イチイヅタの異常繁殖は、世界の海運業界に対する真剣な警告であり、彼らにある海域の海水を他の海域に放出することの危険を気づかせるものだ」
専門家の見解では、他の海域の海水が別の海域のエコシステムに放出されることによる影響は、多くの場合元に戻すことはできず、エコシステムを以前の状態に戻すことはまず不可能とされています。こうした危険により、ある海域の海水を他の海域の海水と交換することやそれによる侵略的な外来種の影響は、現代世界の海運業の前に立ちはだかる最大の自然環境問題となっています。
専門家は、海運業が恒久的な未来に向けて努力すべきであり、この目標を達成するためにはまず、海水や危険な外来種の不適切な移動による自然環境にとっての大きな脅威を根絶すべきだと考えています。それでは、そのためにはどのような措置が必要になるのでしょうか?
専門家はこれについて、そのための最善策は海水を完全消毒する前の、海洋への放出をやめることだと考えています。しかし、この方法でさえも決定的で完璧な方法とは言えません。外来種を他の海域に移動させないためには、様々な方法を活用することができます。それは、例えば酸素の移送やフィルターの設置、さらには水を紫外線の影響下に置くことなどです。
遊覧船などの比較的小さい船舶に水の消毒のための機材を装備することは、簡単に実施できます。しかし、船体を安定させるために大量のバラスト水を必要とする大型の船舶については、それを迅速に行うことはほぼ通常は不可能です。このため、アメリカやカナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった国々は、以前からある規準を定めています。それは、国際海域にバラスト水を放出し、また別の場所でバラストタンクを一杯にする際に、自国の港湾への外来種の移動が最小限度に抑えられるよう沿岸の海水を利用する、といったものです。
化学物質の拡散による汚染や水中や水面での廃棄物の蓄積、海洋エコシステムへの外来種の搬入による汚染のほか、騒音も海洋環境を脅かす要因とされています。海洋や水深の深い海域では、騒音は数キロメートルもの長距離を移動します。船舶の航行やレーダー機材、石油採掘用のプラットフォーム、さらには地震による自然発生の音波の拡散も、鯨やイルカなどの水中哺乳動物をはじめとした多くの海中生物の繁殖や漁獲、仲間同士のコミュニケーションをかく乱します。
これまでに行われた調査の結果、潜水艦のレーダー探知用に使用されるアクティブソナーシステム(確認済み)を含めた戦艦のレーダー機材が、非常に低い周波音を発することにより危険な音波を生み出し、海に住む哺乳動物を脅かしていることが分かっています。今日、世界各国の海岸で、クジラの集団自殺が見つかっている原因の1つは、戦艦が発する騒音波だとされています。また、アメリカ海軍が長年にわたって、自然環境への悪影響を考えずに、環境保護法に反し秘密裏に様々な実験を行ったことを裏付ける証拠が見つかっています。