10月 17, 2016 17:08 Asia/Tokyo
  • 生物の存続のための要素としての土壌
    生物の存続のための要素としての土壌

今回は、自然環境の構成要素の1つである土壌について考えることにいたしましょう。

水と空気に次いで、土壌は創造世界の最も重要な構成要素であり、且つ自然環境の重要な構成要素です。土壌は陸上生物、特に人間社会の基盤であり、特に植物をはじめとする各種の生物の生息にとって独自の環境とされています。

 

土壌は、人間を初めとする多くの生物の食物を供給します。このため、土壌は各国の食糧の生産と安全、そして自給自足の基盤とされています。土壌が地球上から喪失した場合、人間社会、各国、地球は生命の存続のための場所を失います。そして、何よりも重要なことは、土壌は恒常的な発展、そして人間やエコシステムの健全性の維持を密接につなぐ役割を果たしていることです。

 

FAO・国連食糧農業機関のジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長によりますと、健全な土壌は食糧や燃料、繊維、医薬品のための基盤であるのみならず、人間の生態系にとっても欠かせないものとされ、炭素のサイクルや水の備蓄およびろ過、洪水や干ばつなどへの柔軟な対応において重要な役割を果たしています。また、土壌は、天然の精製者でもありますが、それは土壌が不要なものをこしとる特質があるからです。この性質は特に、水が浸透する物理的な特質、そして蒸発という化学的な特質、さらには有機物を腐敗させ分化するという生物学的な特質の影響により生じてくるものです。

 

土壌を構成する主要な成分は、鉱物、有機物、水、そして空気であり、分解できないほど互いに密接な関係を持っています。これらの構成要素は、植物の発育に都合のよいように混合しており、その割合は鉱物が45%、有機物が5%、そして残りの50%は水や空気が占めるスペースとなっています。

 

もっとも、水と空気はきわめて変化しやすく、土壌や大気の影響を受けています。自然の条件において、土壌を構成する全ての粒子は数多くの生物と直接接触することになります。これらの生物は確かに、質量の点から見ると土壌全体のほんの僅かを占めるに過ぎませんが、実際にはそれらの全てのクループは1つの生物の体の部位を構成する細胞のように、土壌の存在物の一部とみなされます。

 

一部の学者は、土壌を再生不可能で最も重要な地上の資源と見なしています。それは、彼らの見解では、土壌は雨のように天空から降ってくるものではなく、その母体となる成分、即ち気候風土、自然現象、生物といったものや時間の経過により造られると考えられているからです。1立方センチメートルの肥沃な土壌を造るには、平均して300年から1000年の歳月が必要とされ、ある畑作用の土壌が25センチの深さを有する場合、これは2万年にわたる恒常的な地殻の変動により生まれたことになります。しかし、土壌が形成されるのとは逆に、失われるにはそれほど時間はかかりません。

 

このため、人間の生活は土壌に依存しており、その正しい管理により各国の自給自足が可能となります。過去の歴史が示している通り、土壌の破壊は水や食料の不足、洪水や飢饉を引き起こし、ひいては文明の没落につながっています。歴史的に見て、大規模な文明の多くは土壌の肥沃な地域に出現しており、メソポタミア文明やエジプト文明といった大きな文明の没落は、それらの地域の土壌の破壊が原因となっています。

 

しかし、土壌という神の恩恵は、地上の広範囲に存在し、その機能が具体的に体感できないことから、現在までそれほど注目されず、また大規模に破壊されてきました。土壌の人工侵食は、特に人為的な原因によるもので、土壌が本来あった場所から移動したり剥ぎ取られたりして別の場所に運ばれ、蓄積されることになります。都市化が進んだことや、大量の産業廃棄物や家庭ごみの排出、一部の化学物質の土壌への流出、鉱山の掘削、過剰な放牧、化学肥料や農薬の過剰な使用により、土壌の汚染や疲弊、人工浸食、ひいては地球規模での土壌の破壊に至ります。

 

過去半世紀において、一部のアジア諸国における土壌の喪失による経済的な損害は、それらの国の農業生産のおよそ1%から7%にも及んでいます。これまでの統計によりますと、土壌の人工侵食により、世界で1年当たり数百万ヘクタールの農業用地が消滅しているということです。土壌の破壊や二酸化炭素の排出による森林破壊が原因で、次第に地球が温暖化し大気圏が破壊されており、人類にとって大きな問題となっています。

 

FAOは、世界の土壌の3分の1が現在破壊されており、その理由として土壌の人工浸食や疲弊、人口の密集、土手の建設、土壌に含まれる有機物や栄養源の減少、酸性化、汚染、さらに大地が絶え間なく酷使されていることによるその他の要因を挙げています。この状況が続いた場合、2050年には世界で1人当たりの肥沃な畑作地は、1960年の4分の1にまで落ち込むと見られています。FAOのダ・シルバ事務局長は、この事実を認めるとともに、最近のある演説において次のように述べています。「今日、世界の8億500万人以上が飢餓や栄養不良に苦しんでいる。だが、その一方で世界の人口の増加により、食料生産はあと60%増加する必要がある。これらの食糧は土壌に依存している。だが、残念ながら世界の土壌の33%が現在破壊されており、人間が大地に圧力をかけたことから、危機的な状態が生じ、植物の減少と土壌の消滅につながった」

 

土壌の疲弊や人工侵食のプロセスに視点を投じると、土壌が消滅する可能性が石油の枯渇の可能性より高いことが分かります。現在、北米大陸の山岳地帯は広大な砂漠と化しています。農業用地や牧草地帯は不毛な荒地となり、住民は8年間にわたる水害により、この地域からの退去を余儀なくされました。さらに、中国でも近年、黄河流域を襲った水害により、この地域の肥沃な土壌の多くが失われています。

 

ハイチでも、土壌の劣化により同国の肥沃な土壌の3分の1が不毛となり、農業が破綻しています。また、多くのアフリカ諸国も、土壌の劣化による貧困に苦しんでいます。オーストラリア、中東、インドなどでは不適切な灌漑により、土壌に含まれる塩分が飽和状態に達しています。さらに、カザフスタン、ウズベキスタン、中国北部など、ほかのアジア諸国でも年間3600平方キロメートルの割合で砂漠化が進んでいます。しかも、熱帯雨林に覆われている東南アジアでも、土地の劣化の危険が高まっています。この地域では、生物の多様性を誇る一方でこれを失いつつあり、前代未聞の速度で熱帯雨林の破壊が進んでいます。専門家の予測では、2100年までに東南アジアの熱帯雨林の75%が消滅する危険があり、もう1つのハイチのなる可能性があるとされています。

 

土壌を大切にし、その破壊を阻止するため、2002年には国連により、12月5日が世界土壌デーに定められました。この日は、各国の政府や政治家、専門分野の活動家が本格的に土壌の質や使用方法の改善、不適切な要素の解消に向けて対策を考えるために設けられたものです。世界土壌の日は、毎年恒例の国際デーの1つであり、全世界に向けての土壌の大切さが主張され、土壌の恒常的な利用の必要性をアピールしています。

 

世界土壌の日が制定されて以来、世界各国で毎年12月5日には土壌をテーマとする様々な会合が開かれており、国連もこの神から与えられた偉大な資源の重要性に注目し、2015年を国際土壌年に定めています。この方向性を踏まえ、この生命にかかわる資源に対する理解を深め、その恒常的な利用を普及させるための国連の努力が開始されています

 

FAOは、ユネスコとともに世界で土壌にかかわる120のプロジェクトを実施してきました。しかし、この国際機関の報告によりますと、現在土壌に関するデータの多くは古いものであるか、ある特定の地域のみに限られているということです。このため、この国際機関の優先事項の1つは、土壌の管理に関する決定の助けとなるよう、土壌に関する国際的に統一された信用できる情報システムを設置することです。この国際的な措置はおそらく、将来における人間の食料の安全を改善できることに加え、土壌を破壊し、現代世界に多くの問題をもたらしている砂漠化や水害、砂塵の対策に役立つことが予想されています