イスファハーン州;ナクシェ・ジャハーン広場
これまで数回に渡り、イラン中部のイスファハーン州を訪れ、この州の州都である歴史的な町、イスファハーンについてご紹介しました。
イスファハーンは、貴重な歴史遺産の存在により、中東のみならず、世界においても、大きな名声を博しています。今回、イスファハーンの歴史遺産についてお話ししてまいりましょう。
ナグシェ・ジャハーンとも呼ばれるイスファハーンのイマーム広場には、その四方に、イマーム・モスク、シェイフロトフォッラーモスク、アーリーガープー宮殿、バザールといった貴重な歴史的建造物が存在しており、イスファハーンの古代遺跡の中心地となっています。そのため、町のどこの場所よりも、国内外の旅行者の姿が多く見られます。「全世界の図」を意味するナグシェジャハーンという名を持つ、この広場は、1979年5月にユネスコの世界遺産に登録されました。
イマーム広場の一帯には、イスファハーンの町がサファヴィー朝の首都に選定されるまで、ナグシェジャハーンという名の広大な庭園が広がっていました。サファヴィー朝の王、アッバース1世の時代、この庭園は現在の広さに拡張され、その周囲に、世界的な名声を博す、非常に美しい歴史的建造物が建てられました。広場の北と南には、バザールの入り口とイマーム・モスクが、西と東には、アーリーガープー宮殿とシェイフロトフォッラーモスクがあります。この広場は、縦165メートル、横500メートルとなっています。
17世紀、ナグシェジャハーン広場は、世界でも最も大きな広場の一つでした。アッバース1世と、その後の王たちの時代、この広場は、様々な演劇や軍のパレード、伝統的な乗馬競技、ポロが行われる場所となっていました。広場の北と南には、2つの石でできたゴールが今も残っており、その当時の壮麗さを物語っています。フランスのシャルダンやジャン・バティスト・タヴェルニエ、イタリアの旅行家ピエトロ・デラ・ヴァッレ、オランダ人の旅行家、エンゲルベルト・ケンペルなど、サファヴィー朝時代、イランの首都を訪れたヨーロッパの著名な旅行家たちは、この広場について詳しく語っています。
シャルダンは、旅行記の中で、イスファハーンの町を賞賛すると共に、ナグシェジャハーン広場について次のように記しています。
「この広場は長方形をしていて、世界で最も美しい広場のひとつである。広場の周囲には、レンガと黒石灰で出来た水の流れる溝があり、そこよりも30センチほど高い場所に歩道がある。歩道は4人のひとが楽に並んで歩けるほどの幅になっている。この溝から広場の周囲にある建物や部屋までは、20歩ほどの空間がある。広場の周囲には、200個の部屋があり、どれもが同じ大きさで、同じ様式で作られ、2階建てになっている。下の階の部屋は、4つに仕切られており、2つの部屋は広場側に、残りの2つは裏側に位置している。広場に面した部屋には、テラスとはしごがあり、その外観は非常に美しいものである。それぞれの部屋からは、バザールに向って通路がのびており、夏は非常に涼しい」
シャルダンは続けて、ナグシェジャハーン広場についてこのように記しています。「広場の周囲の部屋や建物には、上から下まで、ランプをつける場所があり、祝祭のときには、そこに灯りが灯される。このような灯りの装飾は世界のどこにも存在しない。そのランプの数は、およそ5万個にのぼる」
シャルダンは、旅行記の中で、「イスファハーンをロンドン以上に知っている」と主張しています。ところで、現在、イマーム広場と呼ばれるこの広場は、特別な魅力を有しています。この広場の周囲には、イスファハーンの優れた伝統工芸を生み出す職人たちの作業場があります。おみやげを目当てに訪れる旅行者たちは、この作業場で、彫金や寄木細工などの作品を手に入れることはもちろん、職人たちの作業の様子も見学することができます。広場の中央にある大きな池、広場のまわりを旅行者を乗せて走る馬車・・・、こうした広場の美しい空間は、訪れた人に忘れられない思い出を残してくれるでしょう。この広場は、1979年のイランイスラム革命勝利後、観光地としてだけでなく、金曜礼拝や政治的な集会を行う場所としての役割も果たすようになりました。
イスファハーンのイマーム広場の東の一角、アーリーガープー宮殿の正面には、イスファハーンの最も美しい歴史的建造物であるモスクがあります。この建物は、シェイフロトフォッラーモスクと呼ばれ、17世紀の建築やタイル細工の傑作であり、サファヴィー朝のアッバース1世の時代に18年間かけて建設されました。このモスクは、イスファハーンにある別のモスクとは、幾つかの点で根本的に異なっています。まず、古いモスクには、大抵、大きな中庭やミナレット・尖塔がありますが、シェイフロトフォッラーモスクには中庭もミナレットもありません。概してこのモスクは、他のモスクとは違ってそれほど広くありませんが、非常に美しいタイル細工で覆われ、サファヴィー朝時代の著名な芸術家による書道が見られます。
シェイフロトフォッラーモスクのタイル細工に使われている模様や色は、イラン建築における最高傑作とされています。モスクの内部の光は、ドームのあちこちに作られている格子窓からとられています。これらの窓からモスクの内部に差し込む光は、十分な明るさをもたらすと共に、精神的な空間を作り出しています。
モスクの下の部分は四角い形をしていますが、上の部分は八角形になっていて、一番上には円形のドームが載っています。アメリカの著名なイラン学者、ポープ博士は、シェイフロトフォッラーモスクについて、次のように記しています。「このモスクは、建築の点で、非常に緻密に計算されており、美しくしっかりとした設計がなされている。美を愛する心と宗教的な信仰に基づき、興奮や情熱の世界と、静寂や平穏の世界が融合した形になっている」