トランプ政権におけるアメリカのイラン政策
ドナルド・トランプ氏は、第45代アメリカ大統領として、まもなく大統領に就任します。
トランプ氏の大統領就任はイランとアメリカの関係にどのような影響をもたらすか、これにより、アメリカのイランに対する行動に変化が生じるか、あるいは状況は悪化するか、という疑問が現在提起されています。
実際には、イランとアメリカの問題は、歴史的、イデオロギー的な複雑さを含んでおり、その解決は簡単ではなく、また短期間で進むものではないでしょう。アメリカの政治的な本質と、イランに対する目的に目を向ければ、クリントン元国務長官とトランプ氏との間にさほどの違いはないといえます。
確かに、過去に目を向ければ、大統領選で落選したクリントン氏は、鉄のこぶし政策といった一連の政策の中で対イラン制裁を開始した人物でした。つまり、トランプ氏が当選しても、クリントン氏が当選しても、アメリカのイランに対する敵対的な本質は変わることがありません。悪の枢軸という、アメリカのイランに関する考え方の基本路線は実際、ブッシュ政権時代に確立しました。
イランとアメリカの関係は現在、アメリカ国内の一連の出来事と関連している状況です。
アメリカの大統領選挙では、リベラル民主主義の中から、トランプ氏といったアメリカのポピュリズムの象徴のような人物が出現しています。様々な理由で、トランプ氏は現在、アメリカで政権を掌握しました。まさにこの政権交代は、アメリカにとって、国際舞台でのどのような結果を伴うことになるのかという議論が広がっており、その一部のみがイランに関係しています。このため、トランプ氏とアメリカの今後は、あらゆる角度から見られるべきなのです。
アメリカはこれまで、15年間以上、重要な経済問題に直面していました。この経済問題のほとんども、イラクやアフガニスタンの戦争によるものであり、アメリカ政府は莫大な出費を強いられました。一方、アメリカ社会は格差の拡大に直面しており、これはアメリカの社会関係に影響を及ぼしています。アメリカの現在の社会格差は史上最大で、日増しに拡大しています。現状、トランプ氏はアメリカ社会の問題に強く注目しており、これに沿って自らのスローガンを設定しました。
アメリカの人々も、問題を抱えているため、トランプ氏のスローガンを歓迎し、トランプ氏はアメリカのよりよい未来を築くことができると感じています。
トランプ氏はアメリカ社会の不足や不満の中からスローガンを選び、一般の人々の言葉でスローガンを掲げました。これはトランプ氏が大統領に当選した重要な要因のひとつとみなされています。
ワシントンやサンフランシスコなど、大都市の人々を除き、アメリカの人々のほとんどは、経済、福祉、スポーツや娯楽を重視しており、彼らにとって外交政策は二次的なものなのです。このため、トランプ氏は人々に対して現実的な見方をしているふりをして、人々の隠された不安を明らかな形で示すことに成功しました。この行動により、トランプ氏は当選したのです。
アメリカのオバマ大統領は、経済や外交における無秩序に直面してきた、ブッシュ政権時代の遺産を引き継ぎました。ブッシュ政権の敵対政策により、中東地域や世界各地で多くの不快な出来事が発生しました。ISIS、ボコハラム、アルカイダなどのテロ組織の出現は、ブッシュ政権時代の政策によるものであり、この政策により、多くの罪のない人々が世界で命を落としました。
現在、大統領の任期を終えつつあるオバマ大統領は、大統領時代、直接的な戦争を控え、アメリカと他国の問題を外交により解消しようとしてきました。オバマ大統領ははまた、イランの核問題と、アメリカとキューバの関係という2つの歴史的に重要な外交問題を最大限解決しようとしてきました。
さらに、広島への歴史的な訪問により、アメリカの外交政策における緊張緩和に向けた行動をとってきました。
一方、中東地域は常に、アメリカの軍事的な騒乱の場となっていました。
中東におけるアメリカのもっとも大きな騒動は、2003年のイラク攻撃であり、ISIS の出現といった、それによる影響は、地域を苦しめています。
また、アメリカの外交政策に影響を与えているのは、地域や世界の状況を大国のために変えていた情勢変化であり、これはアメリカがすべてをコントロールしていた過去数十年とは異なった動きをもたらしました。変化の影響は、アメリカが核協議に参加する中で見られ、結果、イランとの歴史的な核合意が締結されました。
トランプ氏は核合意を悪い合意だとしていますが、この発言はトランプ政権の政策の中でどれほど実行されるか、トランプ氏が選挙の過激なスローガンを守ることになるのかについては、議論の余地があります。なぜなら、アメリカ大統領は、合衆国憲法の点から、国際的な規約を反故にすることはできないからです。
また、イランとの核合意は国際レベルでの決定であり、国連安保理の決議により定められ、義務的な国際規約となっています。トランプ氏にはイランに反対する合意を形成する能力はありません。同時にアメリカは、イランに反対する上で、論理的かつ理性的な理由がないことをよく理解しています。つまりイランは、アメリカでどのような政権が発足しても、正しく原則的な政策を実施し続けることができます。
こうした中、これに関して、シオニストロビーのこの問題に関する影響力といった別の事柄が指摘できます。シオニストネットワークとのつながりは、アメリカの政治史における事実となり、このため、多くのアメリカ大統領候補は、シオニスト政権イスラエルとの強い関係を築き、シオニストロビーを満足させようとします。これに関して、大統領選挙の中でトランプ氏とクリントン氏の間に、さほど違いは見られませんでした。いずれの候補者も、イスラエルの政策との同調を強めるというスローガンを利用していました。トランプ氏は、シオニスト政権を最大の同盟者かつ友好者として、イスラエルに対する軍事支援を完全な形で保証しました。彼は、イスラエルの首脳が何をしようが、それは重要な問題ではなく、彼らに対する支援を打ち切ることはないと語っています。
確かにトランプ氏は一部において、オバマ大統領と異なるアプローチを取っているかもしれません。しかし、核合意の枠組みがトランプ氏の過激なスローガンに添った形で変わる可能性はほとんどないと考えるべきでしょう。もしアメリカが責務を履行しなければ、完全に取り決めに違反したことになり、アメリカ政府は国際法規に違反する政府とされることになります。
イランは核協議の中で、よい形で、地域諸国や西側諸国に対して論理的な政策を取っていることを証明しました。同じように、中東問題、特にシリア問題のプロセスや、テロ対策の必要性、テロの地域からの排除は、イランの見解の正しさを証明しており、イランの地域における役割を信頼することは西側諸国にとって利益となるのです。
トランプ氏は、イラクやシリア、アフガニスタン、イエメンの攻撃における、民主党員、共和党員による戦火の拡大に対して、真剣に反対していると述べています。
彼はまた、テロ組織ISISに対抗すること、そしてアメリカがISISの出現に加担したことについて語り、クリントン氏はISISの生みの親だとして非難しました。トランプ氏はまた、これ以上アラブ世界に内政干渉するのは好まないとしています。さらに、アメリカによるイラク、リビア、そのほかの中東諸国における軍事介入は、情勢不安を拡大するだけだとしました。トランプ氏は、アラブ諸国が民主主義体制を樹立することはないし、またそれはできないだろう、だからアメリカは中東で人的資源や資金を無駄にするべきではないと述べています。
この政策が実行される場合、地域におけるアメリカによる戦火の拡大は停止されることになります。しかし、トランプ氏は、ほかの共和党員と同じように、資金をどれだけアメリカでの武器の設計・製造に費やしても、十分ではないと考えています。彼はまた、アメリカの核兵器は進化すると発言しました。さらに、アメリカ軍を刷新し、最新鋭の軍備を行うために、必要な予算はすべてつぎ込むだろうとしました。おそらく、予想に反して当選したトランプ氏は、アメリカ社会の現実や、東西のアジアにおけるアメリカ国外の情勢変化により、現実的な見方をとらざるを得なくなり、態度を変え、特にアメリカの中東における不毛な関与を見直し、根本的な見解を改めることになるでしょう。
イランイスラム革命最高指導者のハーメネイー師は、少し前に、トランプ氏の大統領当選について、世界でアメリカ大統領選の結果を悲観している一部の人や、喜んでいる人々とは違い、我々は悲しみも、喜びもしない、なぜなら、私たちにとっては違いはなく、何の懸念も抱いておらず、発生しうるあらゆる出来事に対して準備を行っているからだとしました。ハーメネイー師はまた、次のように語っています。
「我々がこの選挙について論じることはない。なぜならアメリカはアメリカであり、過去37年、共和党と民主党のどちらが政権を握ろうとも、イランに恩恵はなかった。それどころか、イラン国民は常に彼らから敵視されてきた」
イラン国民は、どのような状況の中でも、アメリカの脅迫や圧力に抵抗してきました。この抵抗は現在、ソフトパワーとなっています。アメリカや干渉的な大国の拡張主義が続くときまで、これに対抗する唯一の道は、革命の闘争と抵抗なのです。