微分音の実演とそのほかの特徴(音声)
前回の番組では、イラン音楽と呼ばれる音楽が、古典のダストガー音楽、地方音楽、西洋に影響を受けた音楽の3種類を含み、イラン独自の音楽の特徴についてお話いたしました。
その中で、微分音を使用し、単旋律で進行するという特徴に触れました。
微分音に関して、イラン音楽には半音と全音の間の微分音という音階が存在する、という内容は、前回もお話しましたが、微分音に関してよりよく説明するため、ここで実演を交えてお話したいと思います。一例として、マーフール旋法のミとラの微分音、つまりミとラのナチュラルから4分の1下がったラが入る「デルキャシュ」というフレーズの一部の演奏、微分音、ナチュラル、半音の場合でお届けします。
微分音は、半音とも全音とも違う独特のキャラクターを持っています。このキャラクターはイラン音楽をはじめとする中東音楽で普通に使用されます。イランでは音階について述べるとき、ドレミファソラシドの音階を使用します。微分音の場合は、4分の1下げるときはコロン、4分の1あげるときはソリ、といいます。ただいまお届けしたデルキャシュでは、ラは4分の1下がっています。このため、ラのコロンが使われている、といえます。
そのほか、イランの音楽は、ペルシャ語をはじめとする詩と密接な関係を有しており、フリーリズムの歌がその基本となります。もちろん、タスニーフと呼ばれる定型リズムによる歌も存在しますが、リズム的な規範は、基本的に詩から取られています。これに関しては、イラン音楽の体系の詳細についてお話しする際に見ていきたいと思います。
最後に、特徴として、音楽の即興性があげられます。イランの伝統音楽をはじめとする中東音楽は、もともと即興を基本とする音楽です。これは日本人にとってよりなじみのあるジャズと同じで、ジャズの演奏家は、コードを考慮しつつ短いフレーズの記憶の蓄積から曲を引き出しますが、イラン音楽の即興も、ジャズとの共通点は非常に多く存在します。
一例として、即興による音楽のサンプルをお届けしたいと思います。往年のセタールの巨匠、アフマド・エバーディーによるセタールの即興です。
これまで、イラン独自の音楽の特徴について触れてきましたが、現在、このような特徴を顕著に表し、イラン音楽の顔というべき音楽は、ダストガー音楽と呼ばれるいわゆるイラン古典音楽でしょう。これらはイラン伝統音楽と呼ばれていますが、実際には現在もポピュラーな音楽形態であり、決して古めかしいものではなく、現在もこの伝統音楽の上で、新しい試みが行われています。
ほかの国に比べて、イランで伝統音楽が根強く残っている最も重要な要素は、1979年のイスラム革命の勝利でしょう。イスラム革命が勝利し、イラン・イラク戦争が終わった後、イランのダストガー音楽は各方面から奨励され、伝統をよい形で維持しただけでなく、新しい試みも行われました。
今夜は、革命以後の音楽のサンプルとして、ホセイン・アリーザーデ作曲によるサヴァーラーネ・ダシュテ・オミード、「希望の平原を駆けぬける者たち」を紹介して、締めくくることにしましょう。