イラン西部・コルデスターンのマガーム(1)
地方音楽の一例として、イラン西部コルデスターンの音楽体系・マガームについてお話しすることにしましょう。それではどうぞ最後までご一緒ください。
これまでさまざまな形で紹介してきましたが、イラン各地には地方独特の音楽が存在します。その一部は、音階の構成などから、これまでお話してきたイラン音楽の旋法体系の中に当てはまるものもありますが、その経てきた歴史や成立過程から、まったく別の音楽であるということもできます。
クルド人と呼ばれる人々が住む、イラン西部コルデスターンには、さまざまな音楽が存在します。そしてそれは、人々の信条や生活に根付いていたものでした。コルデスターンの一部で演奏されるマガームと呼ばれる古い音楽も、そうした信条や生活を顕著に反映していた音楽でした。現在でもそれは、作曲作品の素材として、頻繁に使用されています。それでは、コルデスターンのマガームによる作曲作品の一例をお届けしたいと思います。タンブールの大家、アリー・アクバル・モラーディーによる作品で、これはサハリー、というコルデスターンの古い音楽体系を基本として作られていますが、これまで見てきたイラン伝統音楽においては、チャハールガー旋法に近いと見ることができます。
コルデスターンのマガームという音楽は、真偽のほどは定かでないもの、一説によれば、最も古い曲は6、700年前にさかのぼるといわれています。
コルデスターンのマガームの演奏には、もっぱらタンブールという弦楽器が使われます。これは3本弦の2コースの楽器です。この楽器は腕全体でかき鳴らすように弾く楽器で、右手の四本の指を使い、細かい音を出す楽器です。この楽器では、前回まで紹介してきたイランの伝統音楽に頻繁に出現する微分音をあまり使うことはなく、同時にまた、コルデスターンのマガームでも、現在、微分音はあまり使われていません。
タンブール奏者、ヘイダル・カーキー氏の著作『タンブール』によりますと、コルデスターンの音楽体系・マガームは、多様な側面を持っているとしています。それは、昔の人々の生活に即したものであることがわかります。たとえばそれは、イランの英雄叙事詩である『王書』シャーナーメを詠唱したり、葬儀の際に哀悼を表すために演奏するものであり、その名残は残っています。とはいえ、どこでもタンブールが演奏された、ということはなく、その楽器の音量の小ささもあり、比較的少人数の場所で演奏されることが多かったようです。喜びを表すために演奏されたと呼ばれているバーイェ・バーイェのサンプルをお届けしたいと思います。この曲は通常、3+2+2+3の10拍子と言われますが、すこしリズムに癖があるのが特徴です。
また、カーキー氏によると、マガームはその種類によって3種類に分けられるとされています。
まず第1にあげられるのは、比較的新しい時代に追加された「マジャーズィー」と呼ばれる体系です。この音楽体系は、ソルナーと呼ばれるチャルメラのような楽器にくわえ、ドホルという大きな両面の太鼓によって演奏されていたものがほとんどでした。それはもともとは結婚式だったり、あるいは葬儀の際に野外で演奏されていた音楽でした。これをタンブールで演奏したものが、この種の種類の音楽体系です。この体系は歌がなく、また祭りなどの場で演奏されていたものが多いため、比較的早いリズムを持っています。
カーキー氏の定義によれば、第2に、マジュレスィーと呼ばれる種類の体系が存在します。この種類の音楽体系は現在の作曲作品でも重要で、フリーリズムの演奏などにも頻繁に使われています。
最後にお届けするのは、バーリイェという曲です。タンブール演奏の大家、アリー・アクバル・モラーディー氏は、この曲に関して、次のように語っています。
「この曲は西暦の6世紀から7世紀、サーサーン朝の王、ホスロー2世の時代に活躍した音楽家、バールバドの曲だと考えられている。この曲はもともと歌で、友との別れのあと、悲しみから歌われた」
この時代、コルデスターンの中心都市、ケルマーンシャーには、夏の宮殿があったとされています。