イラン西部・コルデスターンのマガーム(2)
クルド人と呼ばれる人々が住むイラン西部のコルデスターンの儀礼音楽、マガームがタンブールという弦楽器を使って演奏されること、それが昔の人々の生活の様々な側面を反映しているとお話しました。
その中で、マガームには3種類存在し、第1にマジャーズィーと呼ばれる、比較的新しく、リズム感ある種類の曲、そして、第2にマジュレスィーと呼ばれる種類の曲があることについてお話しました。
その前に、コルデスターンと呼ばれる広大な地域の中で、タンブールによるマガームが演奏される地域について指摘したいと思います。つまり、このマガームという音楽は、コルデスターン全域で演奏されているわけではありません
タンブール奏者のヘイダル・カーキー氏によると、コルデスターン圏内でマガームが盛んに演奏されているのは、主に2つの地域に分けられるということです。まず第1に、イラク国境に近いグーラーンと呼ばれる地域です。この地域は現在も都市部から離れ、アクセスが難しいことから、昔の文化をそのまま残すには適した条件を有しているといえるでしょう。このため、グーラーン出身の音楽家は、オリジナリティを維持していることを誇りとしています。
もうひとつは、コルデスターンの中心都市ケルマーンシャーやその郊外のサハネという町を含む地域一帯です。この地域は、古い時代から主要な幹線道路上にあり、先ほど挙げたグーラーンに比べ、多様な文化に触れる機会に恵まれています。こうした環境からか、ケルマーンシャーやサハネは、世界的に知名度の高い優れた音楽家を数多く輩出しています。
一方、この2つの地域で演奏されているマガームは、大変多くの共通性を持っており、その根本は同じといえます。それでは、実際に、これらの地域で演奏されているマガームの説明に戻ることにしましょう。
カーキー氏の定義したマガームの3種類のうち2つ目、マジュレスィーと呼ばれる体系は、第1に挙げたマジャーズィーと呼ばれる比較的新しいものに比べて、古く、昔の人々の宗教信仰に幾分か影響を受けています。また、定型のリズムを持つ第1のマジャーズィーに比べて、フリーリズムの部分と、定型リズムを持つ部分が合わさってできています。このマジュレスィーと呼ばれる体系には、昔からの様々な言い伝えを持つ曲が数多く含まれます。その中で重要なもののひとつに、サルタルズという曲があります。この曲に関して、タンブールの大家、アリー・アクバル・モラーディーは次のように語っています。
「このマガームは古いものであり、天使たちが土でできた人間の身体に魂を吹き込んだ際に演奏したものだと考えられていた」
また、この種類にはタルゼ・ロッサムという曲があります。この曲にはイランの英雄叙事詩『王書』の英雄、ロスタムが死亡した後、ロスタムの父ザールが息子の死の悲しみに際してこれをうたった、とされています。昔の時代、語り部が『王書』のこの場面を読み聞かせるときに、この音楽が使われたのだと思われます。
そのほか、アルヴァンという曲は、イラン南部のザーグロス山脈の西を水源とする川を指します。この曲の由来についてはあまりよくわかっていません。
そしてタンブールによるマガームの3番目の形態として、キャラミーと呼ばれる種類の体系が存在します。これは昔の儀礼の場で歌われてきた歌で、歌詞ありきの音楽です。また、その場に参加する人々が共に歌うような形で作られています。そのため、構造は上記2つの種類に比べて、単純です。当地の土着の神秘主義思想の影響が大変強く、歌詞もそれを反映したものとなっています。この種の歌は、イラン暦の新年ノウルーズと、そのちょうど半年後の収穫祭・メフレガーンの時期にうたわれていたといわれています。
このキャラミーの例として、変わった言い伝えを持つものを紹介することにしましょう。詩を作った人物はアルベイギー・ジャーフという16世紀ごろの人物とされていますが、一種の未来の予言のような内容が記されています。歌詞の一部には次のようにあります。
「名馬ラクシュは再び戻ってくるが、そのときそれは鉄でできている
人々は電信を介して話をする。
過去も未来も全て同じ」
つまり、この人物が16世紀に生きていた場合、自動車や電信といった予言が行われているのです。
このように、イラン西部・コルデスターンのマガームは、昔の人々の生活や思想に密接に関係していたものでした。現在は、それらは音楽という形でアレンジされ、作曲されるような形で活用されています。