他人への支援や親切
今回は、他人への支援や親切が、人間関係の改善にもたらす効果についてお話することにいたしましょう。
皆様もすでにご存知のように、他人を助けることは1つの技術です。しかし、非常に多くの人々が、この重要性に気づいておらず、他人の苦しみや窮乏を理解する力すら持っていません。心理学の視点からは、人間をはじめ動植物を助けることを重要な関心事とみなす人は、人間として最高の地位に到達したと考えられています。
アメリカの心理学者マズローの見解によれば、人間は5段階の欲求プロセスをたどるとされています。レベルの低い欲求のみに注目し、自分のことしか考えない人は、精神病などにかかりやすい傾向にあります。しかし、他人のために行動を起こす人は、情熱にあふれ健康であるとともに、他人から価値ある存在として受け入れられます。しかし、なぜ気軽に良心を持つことができないのでしょうか。そしてなぜこうした技術を身につけるために努力しなければならないのでしょうか。
他人を助けることの意味は数多く存在します。それは、金銭面やアイデアの面での支援かもしれず、また何かよいことをする上での助け合いかもしれません。さらに、互いに敵対、あるいは対立している人物やグループの間の関係の修復も、人を助ける行為に含まれます。他人を助けることが、複数の重要な影響を与えることから、神はイスラムの聖典コーランにおいて、この行動の価値を何度も強調しています。ここからは、そうしたいくつかの例を挙げることにしましょう。まず、コーラン第2章、アル・バガラ章「雌牛」、第195節には次のように述べられています。
”神は、よい行いをする人を好まれる”
コーランが注目している重要なポイントは、他人に救いの手を差し伸べ、親切にしたならば、事実上自分をも助けたことになる、ということです。これについて、コーラン第17章、アル・イスラー章、「夜の旅」第7節には次のように述べられています。
”もし、あなた方が善を行うなら、それはあなた方自身に対して善を行うことになる”
宗教上の同胞や自らの仲間に対して行うよい行いや支援は、実際にそれを行った人自身に帰ってきます。なぜなら、よい行いをする人は、その行動により人格を完成するよう努力するからです。良い行いが人間を悪から解放し、成功を収めた幸せな人を証明するものとなれば、これは不足の段階から完成の段階に至ったことを意味します。
人々を助けることは、良い効果を伴う手段の1つです。そうした効果には、神に近づくことを早め、災いを防ぐことなどがあり、その結果、困難が解消されることになります。そして、何よりも重要なことは、神に愛されるという恩恵にあずかれることです。これについて、イスラムの預言者ムハンマドは、次のように述べています。
”神に助けられたいなら、あなた自身も人々を助けるがよい”
預言者ムハンマドは、アラビア半島北部に住んでいたユダヤ教徒のバニーナズィール族への勝利を収めた日、教友たちに向かって次のように語りかけました。
”あなた方は、自分の家や財産を移民たちとともに分け合い、これらの富を共有したいと思うか?それとも、家や財産はあなた方のもののままでこれらの富もあなた方に分け与えられないということでよいか?”
これに対し、教友たちは答えました。「我々は、家と財産を彼らと分かち合います。しかも、富もほしいと思いません。私たちは、自分たちよりも移民たちを優先します」
こうした中で、コーラン第59章、アル・ハシュル章、「集合」第9節が下され、彼らの崇高な精神が賞賛され、彼らは救済者と呼ばれています。
コーランは、多くの節において、他人を助けるというテーマが、単に食べ物や着るもの、日々の糧を与えることのみにとどまらず、時にはこれらが人間の能力を超えることもあると述べています。あるケースにおいては、相手に言葉をかけ、その人に適切な話をするだけでも人を助け、精神的なストレスや興奮を緩和できているのです。例えば、ある大学教授は学生に向かって授業をする代わりに、自分の学生時代の苦い経験や思い出について語ることで、学生との一種の共感を持ったことになります。学生は、教授が過去に困難を乗り越えてきたことを知ることで、自らの困難にも落ち着いて対処できるようになるでしょう。
預言者一門の言行に注目すると、彼らの責務の1つが人々の問題への対処であったことが分かります。コーランでは、これについて次のように述べられています。ある時、ズルカルナインのところに人々がやってきて、神に逆らう2つの部族であるゴグとマゴグに苦しめられているため、壁を造り、これらの部族を追い払ってほしいと頼みました。これに対し、ズルカルナインも彼らのために壁を造りました。
また、コーラン第10章、ユーヌス章「ヨナ」第87節では、神が預言者ムーサーとハールーンに対し、次のように述べています。
”あなた方の民のために、エジプトに住まいを定めなさい”
預言者ムーサーは、自分の義父であるショアイブの子ヤギに水を与え、壁を直し、人々のために家を建てていました。また、神はコーラン第5章、アル・マーイダ章、「食卓」第2節において、次のように述べています。
"畏敬の念や善をもって助け合い、信仰心を深めるがよい。罪と怨恨のために助け合ってはならない”