ペルシャヒョウ
今回は、非常に価値があり国際機関でも注目されているイランの稀少動物の1つ、ペルシャヒョウについてご紹介してまいります。
イランは多様性に富んだ独特の気候風土を有することから、世界で最も豊かな生物の多様性を誇っています。
IUCN・国際自然保護連合にも登録されているイランの稀少動物の1つに、ペルシャヒョウ(別名;イランヒョウ)が挙げられます。この動物は、ヒョウの全ての亜種中では最も大型であり、世界のネコ科動物では最もよく知られた部類に入ります。
ヒョウは、がっしりとした筋肉質の体格を持ち、しかも柔軟性があります。また、鋭い爪と長い尾をもち、丸く小さい耳があります。体の表面は短くやわらかい毛で覆われ、特に背中と体の側面には黒丸に中央がオレンジ色の、花柄のような斑点があり、腹部や足に行くほど色彩が薄くなっています。
しかし、ヒョウの特徴として特に注目すべきポイントは、胴体や顔面の斑点が全く同じヒョウが存在しないことです。このことは、世界に自分と同じ指紋を持つ人間がいないことと同様です。実際に、自然界においてヒョウの集団のうち特定の1匹を見分ける決め手の1つは、まさにこの斑点ということになります。ヒョウを見分けるには鼻やヒゲの周り、額、目の下、あごの下に見られる斑点、そして腹部の色が決めてとなり、野生のヒョウの全ての個体数を算出する上で最も有効な方法とされています。
ヒョウは音を立てない静かな動物であり、夜行性とされています。そして、驚くべきことに、この動物はそのがっしりとした体格では無理と思われるような場所に、簡単に隠れることができます。
ヒョウは、全ての動物の肉をエサとして食することができます。イランでは、複数の調査結果からヒョウが様々な動物を捕食していることが判明していますが、中でも羊やヤギを好んで食べます。また、水を飲まずに持ちこたえる能力が非常に高く、10日ごとに1回だけ水を飲むために川などにやってくる光景が目撃されています。
ヒョウは、他の仲間から自分の縄張りを守る習性のある動物です。ヒョウの縄張りは、通常では5平方キロメートルから50平方キロメートルの間で増減しますが、場合によってはさらに広い範囲である可能性もあります。一般的に、ヒョウの縄張りの大きさは、性別や年齢、生息地域に豊富な獲物がいるか、またはその地域に他の大型の肉食動物がいるかなどの条件によって異なります。
ヒョウは、自分の縄張りの境界線を示すため様々な印を残し、常にこの境界線を見張っています。こうした印になるものは、視覚的なもの、匂いによるもの、音に関するものなどです。
ヒョウにとっての視覚的な目印には、土を盛り上げて小さな塚を作ること、排泄物を残すこと、さらに樹木の多い地域では樹木の幹を爪で傷つけるといったものがあります。匂いによるマーキングとしては、土を盛り上げた塚や、樹木に爪でしるしをつけた箇所、あるいは草木の茂みなどに尿をかけることが挙げられます。音による縄張りのアピールの方法は、吠えることであり、これにより他の仲間に警告を与えます。もっとも、繁殖期におけるこうした行動は、オスがメスを引き寄せる求愛行動とされています。
イランは、中東地域におけるペルシャヒョウの最も重要な生息地です。ペルシャヒョウは、アルボルズ山脈やザグロス山脈から、荒涼とした丘陵地帯、カスピ海沿岸地域の樹林、さらにはペルシャ湾やオマーン海沿岸の岩の多い地域や山岳地帯などにいたる、イランのほぼ全ての動物の生息場所に生息しています。言い換えれば、十分な獲物が存在する場所には、ヒョウも生息できるということであり、唯一ヒョウが生息していないのは、中部の砂漠地帯のみとなっています。
ペルシャヒョウの生息地域が広範囲に分布していることは、この動物が高い環境適応能力を持っていることを示しています。ペルシャヒョウは、雪の降る地域には生息できないと思われがちですが、実際には氷点下の環境でも長期間にわたって持ちこたえられるのです。
これまでの研究調査から、ペルシャヒョウが交尾する期間はきわめて短いことが分かっています。イラン北東部ホラーサーン地方のサリーゴル国立公園では、ヒョウが交尾する季節は毎年1月中旬ごろから始まり、下旬に最も盛んになります。また、イラン南東部スィースターン・バルーチェスターン州のビーラク地区でも、1月下旬から2月中旬にかけてヒョウの吠え声か聞かれます。
1年のうちのこの時期には、ヒョウの縄張りの全域において求愛行動が最も多くなり、どの時期よりも目印を示す行動が増えます。ヒョウの子どもは、およそ96日間母親の胎内ではぐくまれ、4月に生まれます。1回の出産で生まれる子どもの数は、通常は1匹から3匹です。
ペルシャヒョウの亜種は、世界の動物園の間で最も人気の高い部類とされています。このため、ドイツのケルンやベルリン、オランダのアメルスフォールト、ベルゲン、アメリカのサンディエゴ、オーストラリアのメルボルン、さらにチェコやスコットランドといった、世界の主要な動物園では、ペルシャヒョウの個体数を増やすことに努めています。
今日、ペルシャヒョウはアジアチーターと並んで、最もよく知られたネコ科の動物、およびイランの哺乳類とされています。しかし、ヒョウはかなり前から国の機関や国際機関で注目されているアジアチーターのように、近い将来、アジアチーターと同じ運命に陥らないためにも、より効果的な保護措置を必要としているのです。