オナガー(アジアノロバの一種)
今回は、オナガーの生態についてお話することにいたしましょう。
イラン特有の動物の1つに、アジアノロバの一種であるオナガーがいます。オナガーは、一昔前ぐらいまではイランの平原やステップ草原に多く見られました。しかし今日では、残念ながら絶滅が危惧される動物のレッドリストに正式に掲載されています。
オナガーは、(学名をequus heminous onager といい、)野生のロバの一種です。オナガーはかつては、中東や中央アジア、中国に多数が生息していましたが、現在ではその多くが絶滅し、ごくわずかがイランに生息するのみとなっています。
オナガーは、ロバより若干大きく、体重はおよそ290キログラムほどにもなります。体長は2メートルを超え、ロバよりもウマに良く似ています。ですが、ウマに比べて足が短く、寿命はおよそ40年ほどで非常に鋭い視力と聴力、臭覚を持っています。
オナガーの体色は、通常のシマウマのような白黒の縞模様ではなく、淡黄色や赤褐色です。もっとも、背中には黒い線が入っており、この黒い線の周りは白くなっています。オナガーは、季節によって体色が変化し、夏には赤褐色に、冬には黄褐色になります。鬣や尻尾の先端の房毛は黒褐色で、オスはメスよりもオレンジ色に近く見えることもあります。
オナガーの体色は、自然環境において外敵に見つからないための保護色の役割を果たしています。それは、オナガーを狙うのは人間のハンターのみならず、オナガーと同じ場所に生息する猛獣の多くが、オナガーをえさとしているからです。
集団でオナガーを襲い、しかも非常に忍耐強くこれを狙う猛獣の1つは、オオカミです。オナガーも時速およそ50キロで長距離を走り、敵から逃れようとしますが、オオカミも負けてはいません。オナガーの中でも、高齢なオナガーや子どもが狙われることが多くなっています。
もっとも、オオカミよりもオナガーに深刻な被害を与えるのは人間です。それは、自然界における食物連鎖の仕組みは非常に精巧にできていて、各種の動物の個体数のバランスを守っているからです。先人たちもこのことを非常に重視していましたが、現代人はそれに注意を払うことなく、この稀少動物を思うままに銃撃し、そうした行動がもたらす結果については考えていません。
オナガーは大抵、ヨモギなどの植物をエサとしています。この動物は、大量の水を必要としており、夏には自らが草を食べる草原から15キロ以上も離れた水溜りの周辺でも、オナガーが見られるのが普通です。オナガーは昼間に活動し、通常は早朝や午後に多く見られますが、安全でない地域では、夜にも活動します。また、群れを成して生活し、オスは単独で行動するのが普通ですが、時には数匹のメスを伴うこともあります。
オナガーは、6月の中旬から下旬にかけて交尾します。この際に、オス同士の間で争いが繰り広げられ、オスはこのときに尻尾の一部を失うことが多くなっています。
オナガーのメスは、1年間の妊娠期間を経て、1回の出産につき1匹の子どもを生みます。出産に当たって、メスはしばらくの間自分の群れから離れて過ごします。オナガーの子どもは、生まれてきた時点で既に十分成長しており、生まれてから短期間で母親を追いかけます。母親は、外敵から子どもをきちんと守り、子どもは大体3歳ごろに成熟します。
オナガーのメスは大抵、2年ごとに1回、時として毎年子どもを生みます。周りを取り囲まれている敷地内で飼育されているオナガーのメスの一部は、毎年1匹の子どもを生みます。
これまでのおよそ50年間、イランの広大な国土のおよそ3分の2はオナガーの生息地であり、イラン国内の多くの地域ではオナガーの群れが見られました。しかし、密猟や生息地の破壊などにより、オナガーの生息地の範囲は大きく制限されてしまいました。
現在、多数のオナガーが見られるのは、イラン南部ファールス州のバフラームグール地区です。また、テヘランの東方にあるセムナーン州トゥーラーン自然保護区は、タンザニアにあるセレンゲティ国立公園に次いで世界で2番目に大きい生物圏保護区とされています。また、イラン北東部のサラフス国境地帯、そして中部ヤズド州の一部もオナガーの生息地となっています。
イラン南部にあるバフラームグール地区は、専門家や環境学者、そして民間団体の協力により運営されており、最終的な統計によれば現在、650頭以上のオナガーが生息しているとされています。これは、昨年の統計に比べて大きな増加を示しており、イランでは自然文化を愛好する人々の努力により、世界の稀少動物の1つであるオナガーを取り巻く現状が改善されてきていることを物語っています。