アンクルトムの小屋1
この時間は、1927年に公開された「アンクルトムの小屋」という映画について見ていくことにいたしましょう。
アンクルトムの小屋という映画は、同じ題の有名な小説をもとにしています。この小説は、1852年に出版され、アメリカの南北戦争、アフリカ系アメリカ人の問題、アメリカにおける奴隷制度に大きな影響を与えました。
アンクルトムの小屋の小説は、19世紀のベストセラーとなり、初版ではアメリカだけで30万冊が売られました。当時のアメリカのリンカーン大統領は、作者のピーチャー・ストゥに会った際、このように語りました。「あなたのような小さな方が、この大きな戦争を引き起こしたのですね」
ロシアの作家、トルストイは、アンクルトムの小屋を読み、それを称賛してこのように語っています。「この小説は、人間が生み出せる最高の傑作だ」
アンクルトムの小屋という小説を読んだことがあれば、きっとその素晴らしさを理解しているでしょう。奴隷制の廃止につながった、アメリカの南北戦争は、この小説が出版されてから10年後に始まりました。そのため、この小説の出版を、小説の歴史において最も物議をかもした出来事とする人々もいます。
アンクルトムの小屋の映画は、その小説と同じように、白人の主人の黒人に対する圧制を描いており、可能な限り、誇張を控えています。映画の物語は、黒人の生活と、彼らの主人との関係をできるだけありのままに伝えています。
1927年のハリー・Aポラード監督以前にも、1903年にエドウィン・S・ポーター監督が、1918年にはJ・サール・ドーリーという監督が、アンクルトムの小屋の小説を映画化しました。しかし、これらの映画はいずれも短編映画でした。しかし、1927年のポラード監督の映画は、およそ114分で、映画の内容を分析することが可能になっています。
とはいえ、この映画は完全に小説に沿ったものではありません。一部の章が省略されており、多くの章はまとめられていて、別の物語が加えられています。また、ポラード監督のアンクルトムの小屋は、映画の要素の効果的な利用や芸術の観点から、高いレベルにはなく、内容の点から分析することが望ましくなっています。言い換えれば、芸術的な点よりも、政治的、社会的、歴史的な点から、この映画を評論する方がふさわしいでしょう。
アンクルトムは、家族とともに、シェルビー家の奴隷を務めています。トムの家族だけでなく、ジョージハリスの家族、つまり、その妻のエライザと彼らの息子のハリーもシェルビー農場の奴隷です。ジョージは別の主人に仕えています。数年後、シェルビー家が困窮に陥り、借金の返済のために奴隷を売りに出さなくてはならなくなり、トムとエライザの息子のハリーは、ハリスの元に売られます。
一方でエライザは、寒い夜、愛する息子を胸に抱いて農場を逃げ出します。息子のハリーはマークスに誘拐され、エライザは奴隷売買人の手に落ちてしまいます。その後、ハリーの父親のジョージは、息子が売られた主人の家を見つけ、密に息子を逃がします。
まもなく、エヴァンジェリンが病死し、トムは深い悲しみに沈みます。エヴァンジェリンは亡くなるとき、父親に奴隷たちの解放という願いを託します。しかし、その望みも、父親のセントクレアの死によってかないませんでした。奴隷に冷たかったエヴァンジェリンの母は、すべての奴隷を市場で売るために連れていき、そこでトムを悪辣な農場主のレグリーに売ってしまいます。レグリーは奴隷市場で、エライザのことも買います。
レグリーの農場で、トムはキャシーという名の奴隷と知り合います。
キャシーとエライザは、農場を逃げ出す計画を立てます。レグリーは彼女たちが逃げたのはトムのせいだと考えます。トムはレグリーに激しい暴行を加えられ、死亡します。しかし、トムの魂は、主人のレグリーがキャシーやエライザに嫌がらせをするのを許しません。とうとうレグリーは、トムの魂に苦しめられ、窓から身を投げて、トムの遺体の横で亡くなります。
トムは、彼を買い戻しに駆け付けたジョージと再会し、そのジョージによって葬られました。そしてエライザは、息子とジョージの元に戻ります。
ここからは、アンクルトムの小屋の映画の内容について見ていきましょう。
この映画の45分から始まるシーンは、トムと家族が無理やり引き裂かれる場面です。このシーンはまず、被写体とカメラの距離が非常に遠いロングショットで映されます。これにより、被写体の全体が見渡せ、周囲の環境が分かるようになっています。
農場にいる人々は、トムの家族と他の奴隷たちです。彼らがトムを囲み、借金の代わりにトムを馬車で連れて行こうとするハリスの姿があります。次にミディアムショットで、主人のハリスが力ずくで、トムを引き裂く場面に変わります。
次のミディアムショットでは、主人のシェルビー氏が映し出されます。彼は悲しそうな表情で、この別れの場面を窓から眺め、肩を落としています。次に、トムの妻と幼い子供の姿が映し出されます。
主人のハリスは、トムを無理やり馬車に載せ、彼の手を別の黒人奴隷の手とともに縛ります。それから場面は、クローズアップで、母親の胸の中の幼い子供の悲しい笑顔を示します。次のシーンは、家族に別れを告げるトムの様子です。トムの家族とシェルビー農場のすべての奴隷が、悲しそうにトムを見送ります。
興味深いのは、トムと他の黒人たちが、別れの際に身体的に抵抗していないことです。彼らの抵抗は、感情の面に限られます。むろん、そのような抵抗も、主人のハリスによって無視されます。
このような消極的な態度は、白人の支配により、黒人が抗議しないことを受け入れていることを示しています。言い換えれば、黒人は、どのような状況においても、白人の不当な法に従わなければならないと考えているようです。主人のシェルビー氏も、借金の代わりに、トムをハリスに引き渡すことを受け入れます。
この時間は、1927年のハリウッド映画、アンクルトムの小屋をご紹介しました。次回のこの番組でも、アンクルトムの小屋の別のシーンについて見ていくことにいたしましょう。