生物の多様性の保護、その理由と方法
前回は、生物の多様性の消失とその影響について考え、このままの状態が続いた場合には、地球の存続さえも危険にさらされることについてお話しました。この点から今日、専門家は生物の多様性の保護とその方法を強調しています。今夜は、この点についてお話することにいたしましょう。
地球は、人類やそのほかの生物の発祥地であり、現在の科学では生物が存在する唯一の惑星とされています。生物の多様性もまた、地球の最も重要な資源であるとともに、数百万年をかけて地球が進化した最も重要な結果とされています。このため、21世紀の始まりに際して、世界各国の思想家たちは、科学者らとともに口を揃えて、地球を守るべきであると結論付けています。
環境学の分野の有識者は、生物の多様性を地上における生命の基盤とみなしています。残念ながら、過去においては生物の多様性の重要性や役割が意図的に、或いは無意識に見逃されてしまうのが普通でした。しかし、その一方で生物の多様性の源は進化です。ある種の生物が絶滅すると、実際にはその生物が数百万年かけて進化してきた結果が喪失することになります。
自然環境は、そこに存在する生物の多様性によってそのあり方が決まることになり、この多様性は自然環境におけるバランスの維持を担っています。生物の多様性が失われることは、最終的に自然環境に大惨事を引き起こすことになります。このことから、生物の多様性を維持することは人類の目的の1つに定められる必要があります。このため、現在では農業、人間の健康、貿易、産業、文化に分野において生物の多様性の重要性が完全に認知されています。
例えば、科学者らは生物の多様性の減少が食物の安全を脅かすことを突き止めています。それは、農業における生物の多様性の減少が明らかな悪影響をもたらすためです。このため、彼らは農業における生物の多様性の維持と、食糧源の確保のため総合的病害虫管理、有機農法、有機肥料、輪作、家畜の排泄物の利用、農地を耕さない栽培方法、多毛作などの実施を奨励しています。
科学者らの間では、農業における生物の多様性が食品や工業製品、医薬品の持続的な生産につながると考えられています。さらに、生物学的な視点からは、花粉の媒介者や土中の生物、そしてエサとなる生物の存在も必要とされています。専門家の見解では、農業エコシステムの改善は国土の改善や土壌の健全性の促進、水質とそのサイクルの改善、そして最終的には大気の質の改善につながると考えられています。動植物の多様化も、より抵抗力が強く、健康的、経済的な植物関連製品の生産を助けることになります。
人間の健康に生物の多様性が重要な役割を果たしている事に関する、書籍や論文も数多く存在します。薬草が多様化すれば、より多くの患者を治療できる可能性が出てくるほか、化粧品や保健衛生用品の恒常的な生産も保証されることになります。さらに、野菜や果物などの食料品が多様化すれば、人間がより多くのビタミンを摂取できることになり、結果的に人間の免疫システムの強化につながります。
生物の多様性は、工業の多くの分野にも重要な役割を果たしています。それは、工業原料の多くが自然界の物質から造られるからです。例えば、世界で最も多くの利潤を生み出している石油・天然ガス産業は、海中に存在する多数の種類のプランクトンやバクテリアが分解された結果生まれたものです。
このため、陸上や海中における生物の多様性の重要性に注目し、科学者らは今日、生物の多様性を危機から救う方法を模索しています。エコシステムや動植物を保護する方法の1つとして、(肉類の消費を減らすために)世界レベルでの菜食主義が提唱されており、これは地球の温暖化をも阻止できる可能性があるとされています。
専門家の見解では、畜産品の過剰な消費も生物の多様性を脅かし、地球の温暖化を助長するとされています。FAO・国連食糧農業機関が発表した、「畜産の長い影―環境問題とオプション」という報告書によりますと、人間が生産する温室効果ガス全体の18%は、家畜の飼育に関係しているということです。この報告ではまた、肉類の消費が生物の多様性に及ぼす影響について、研究者らは次のように述べています。
「現在、家畜は陸上動物全体の20%を占めている。ひところは、地球上の陸地は野生動物の住みかだった。事実上、畜産業こそ生物の多様性の減少を助長した要因と断定できる。畜産業は、在来種の絶滅を警告する主要な理由とされている」
国連環境計画が、「消費と生産の環境影響を評価する-重視すべき製品・物質に関する報告書」と題して発表した調査結果も、動物性食品が地球の環境問題の主な要因となっていることを裏付けています。この調査結果はまた、農業や畜産業、さらには食物の消費が、特に生物の生息地の変化や気候の変動、水の消費や毒物の放散という形で、自然環境にとって最も重大な圧力となっている、としています。国連環境計画のアヒム・シュタイナー事務局長も、この事実を認め、次のように述べています。
「この国際組織は、現在手元にある全ての情報を検討した結果、現在2つの主要な部門が、人類や地球の生命を保護するシステムに著しい悪影響を与えていることを突き止めた。1つは、化石燃料という形でのエネルギーの消費であり、もう1つは農業や畜産業、特に肉類や乳製品の生産を目的とした家畜の飼育である」
畜産による自然環境への弊害は非常に深刻であり、国連環境計画は畜産品を使用せず菜食主義へと転換するだけで生物の多様性の減少に歯止めをかけることができるとしています。このため、地球上の全ての生物が瀕している、過去に例のない危機に注目し、菜食主義への転換という小さな一歩を踏み出すだけで、生物の絶滅や気候の変動という2つの現象を同時に阻止することが出来るのです。
専門家は、生物の多様性の保護のため、畜産品の利用を減らすことに加えて、他の方法も提案しています。その1つは、環境汚染を最小限に減らすことです。本来の生息地で在来種である生物が生息できなくなり、絶滅する危険に陥る要因の1つは、地球の温暖化と気候の変動です。このため、地球の温暖化の直接あるいは間接的な原因となる活動を極力回避する必要があります。そうでなければ、現在生存している陸上動物や水生生物のいずれにも深刻な被害が及ぶ可能性があります。
生物の多様性を保護するもう一つの方法は、生態系に外来種を入れないようにすることです。一部の人々は、独自の庭園を作るために、それまで在来種しかなかった環境に外来種を導入しています。確かに、こうした種はそれまでになかった珍しいものであることから、来場者の関心をそそるかもしれませんが、その一方で在来種の成長を侵害しています。このため、生物の多様性の保護には、在来種の成長を保護することが重要です。外来種は、植物に限定されるものでは、人間によってある環境から別の環境に持ち込まれた動物も外来種となり、それまでその環境に生息していた在来種より優勢となり、繁殖する可能性があります。
しかし、生物の多様性を保護する最も重要な方法はやはり、不要なニーズや消費を控えることだと思われます。人間の欲望は、これまでに自然環境に甚大な被害を与えてきました。多くの植物や動物の種は、人間の欲望により捕食され、その数は減少しています。動植物から作られている製品は数知れません。このような製品を購入する際には、果たして本当にこの製品が自分にとって必要なものかを自身に問いただす必要があります。全ての人々が、種の絶滅が実際には後戻りのできない旅であり、全世界の富を投じても元に戻せない損失であることを知っていれば、そのような取り返しのつかない行動はとれないはずです。