廃棄物
これまで何回かにわたり、自然環境に深刻な被害を及ぼす要因についてお話してきました。しかし、そうしたもう1つの重要な要因として、各種の廃棄物の排出と拡散があり、これは今や世界各地で深刻な問題となっています。今夜は、この問題について考えていくことにいたしましょう。
地上に生物が出現し、それらの各種の生物が自らのニーズを満たすことに努めた結果として生じた問題の1つは、廃棄物の発生です。もっとも、当初はこの廃棄物は事実上食物連鎖の一部であり、自然界が消化できるものでした。当時はまだ人類が加工を初めとする工業技術を獲得しておらず、天然資源の採掘により他の生物の住処がまだ脅かされていなかったのです。
専門家の見解では、社会の産業化、人口の増加、人類のニーズの水準の上昇、先進国による生産力の上昇などにより、人類は後先のことを考えずに多くの天然資源を消費するようになりました。生産における競争や、消費者の選ぶ力の向上、そして販売の増加により新たな問題が生じました。その1つが、消費志向の拡大であり、もう1つは生産による廃棄物です。より多くのものを生産し、消費しようという人間の欲望が原因となり、他の生物の生活環境が破壊され、自然環境のサイクルが乱れるとともに、環境汚染の悪化に拍車がかかることになりました。
廃棄物の構成要素が多岐に渡ることから、その構成要素が生み出す危険も様々です。廃棄物は実際に、土壌や空気に多大な被害をもたらします。廃棄物の構成要素は、人間や動物のし尿のほか、農業や工業における余剰物質などであり、衛生上のルールが守られない場合には大抵、土壌や海洋に投棄されます。
今日、海洋は人間が直接出す廃棄物や産業廃棄物の溜まり場となっています。水質汚染による危険が増えるのは、水の移動により汚染源や病原菌が世界に拡散するからであり、それらは海流や波に乗って驚くべき速さで世界各地に広まります。
過去数十年間にわたり、アメリカ東部では船にのって大西洋の外海に赴き、廃棄物を投棄するという行動が広まっていました。1988年の夏には、マサチューセッツ州からニュージャージー州にまたがる海岸に突然、大量の医療廃棄物やし尿、そのほかの廃棄物が押し寄せました。この出来事に対し、多くの人々から苦情が寄せられました。アメリカ議会は世論の圧力を受け、廃棄物の海洋投棄を禁止する法案を可決しました。この法案は、海洋の汚染につながるあらゆる廃棄物の投棄を禁じるものでしたが、今なお大西洋の汚染の10%から20%は、廃棄物の投棄によるものとされています。あるノルウェー人の学者は、同行者とともにコールタールのような黒い物質が大西洋中部に大量に拡散しているところを発見しました。その汚染状況があまりに酷いものであったことから、この学者はこの海域を大都心の下水の出口のようなものだったと述べています。
自然環境の問題については、数多くの事例が存在しますが、特に近年、環境問題の専門家の注目を集めているのは、プラスチック系の物質による自然環境の汚染です。
プラスチックは、人類が生産する物質の中で最も使用頻度が高く、地球全体で大量に見られます。プラスチック系の物質から造られる製品は、使用後は分解できない過剰物質として土中に残存します。これは、ナイロンのような合成高分子化合物は天然の化合物とは異なり、特殊酵素がないために、長年にわたり変化しないまま自然界に残るためです。この物質により、水と空気の循環や、そのほかの化学的、物理的な反応に混乱が生じます。例えば、土壌に残存しているプラスチック系物質が植物の根を取り囲んでしまった場合、その植物は土壌から栄養分や水分を摂取できなくなります。その結果、時間の経過とともに、その植物の根元の周辺には、完全に異常な熱や湿気などが生じ、最終的に植物の成長が鈍り、枯れていくことになります。中でも、自然環境に最大の被害を及ぼしているのは、ビニール袋です。
ごみとして捨てられたビニール袋は、自然界に500年以上残存できるほどの質を持っているため、自然環境の汚染原因となります。これらのビニール袋は、風に飛ばされ、河川や運河などの水源に入り込みます。それによって、水路が塞がれたり、水の流れが滞留したり、汚染が増すなどの現象につながりますが、多くの場合、海洋環境や海の食物連鎖にも入り込みます。
毎年、クジラやイルカ、ウミガメなど数千種類に上る水生生物、さらには海鳥までもが、ビニールを誤って口にし、窒息して死ぬという事態が生じています。ある環境学者も、調査報告においてこの事実を認め、次のように述べています。
「プラスチックは、原油の流出や重金属、そのほかの毒物と同様に、水生生物の死亡原因となる。例えば、クラゲはウミガメや海鳥のエサとなるが、ウミガメや海鳥はプラスチックのような小さなものを、エサと誤って食べることは十分にありえる。廃棄物投棄にかかわる海洋汚染防止条約の存在にもかかわらず、海洋を航行する船舶は1日に5万片ものプラスチック製容器やビニールを海洋に投棄していると推定されている」
残念ながら、プラスチック系物質は土中に埋められても自然環境に被害を及ぼす性質を持っています。それは、プラスチックが石油から作られ、分解される速度が非常に鈍いことから、埋め立てられた場所で地下水、さらには人間の食物連鎖に悪影響を及ぼす物質を生み出す可能性があるからです。また、プラスチック系の物質を焼却することも自然環境に深刻な被害を及ぼすといえます。
有機化合物系の廃棄物を焼却することで、大気を著しく汚染し、非常に危険なメタンガスや三酸化硫黄、塩素系の毒ガスなどが排出されます。廃棄物が埋め立てられた場所で、好気性発酵、あるいは嫌気性発酵により発生したガスは、地下の奥深い層にまで浸透し、畑作地の土壌に問題を引き起こす可能性があります。
先進国で生じる廃棄物の1つに、電子機器系の廃棄物があります。例えば、オーストラリアでは年間10万トンに上るテレビやコンピューター、そのほかの電子機器が廃棄されており、これは1人当たり5キロに相当します。しかし、これらの国は表面上はこうした問題を解決しており、自国で発生する電子機器系の廃棄物を、中国やインドといった国で処理していますが、その方法は不適切な方法による埋め立て処理です。こうした問題は、それらの国の公衆衛生や自然環境を脅かしています。
中国のあるニュースサイトによれば、世界の電子機器系の廃棄物の70%が中国で処理されているということです。国連環境計画の報告によりますと、中国は他国の廃棄物を受け入れていると同時に、こうした廃棄物の生産大国でもあるということです。例えば、2010年には230万トンの廃棄物を出しており、2020年における中国の電子機器系の廃棄物は2007年に比べて200%から400%増加すると予測されています。近年では、廃棄物となった携帯電話の量は7倍、廃棄されたテレビは2倍に増加しています。
さらに、第3世界においては電子機器系の廃棄物が違法にリサイクルされていることも、大規模な公害を引き起こしています。このため、国連は1989年に先進国から貧困国への危険な廃棄物の輸出を規制する法規を設け、それにより全ての国がこうした廃棄物の一方的な流入を禁止できるようになり、また輸出する側も相手国の同意を取り付けることが義務付けられました。しかし、アメリカはこうした条約に決して調印せず、中国などの国もこうした廃棄物のリサイクルによりわずかでも収入を得るため、この条約に調印していません。現在、世界のコンピュータと携帯電話の70%が、中国でリサイクルされているということです。
もっとも、第3世界に輸出されるのは先進国で使われなくなった電子機器系の廃棄物だけではなく、より危険性の高い毒物や放射性廃棄物なども、今や第3世界の国々の一部の自然環境や人々の健康を脅かしているのが現実です。