預言者ヌーフの物語
今回は、神の偉大な預言者の一人、ヌーフの物語をお送りしましょう。
コーラン第23章アル・ムウミヌーン章信仰者、第23節と24節には次のようにあります。
「まことに、我々はヌーフをその民のもとに遣わした。彼は言った。『私の民よ、唯一の神を崇拝しなさい。あなた方には、彼の他に神はいない。それなのにあなた方は、従わないのか?』 不信心者だった彼の民の長老たちは言った。『彼はあなたたちと同じ一人の人間に過ぎず、あなたたちよりも優位に立とうとしている。もし神がお望みであったなら、天使たちを遣わしていたことだろう。我々は決して、先祖たちの時代にそのようなことを聞いたことがない』」
コーランの物語は、単なる空想の物語ではありません。未来の人々のために、本当にあった物語が描かれているのです。
その夜、月の明かりはいつもよりも輝いていました。一本の古木の下に、白髪の老人が座り、神に語りかけていました。
「神よ、私は長年に渡って、昼夜を問わず、人々をあなたへと導こうとしてきました。でも、私の導きは、全く実を結んでいません。偶像崇拝者たちは、時に耳を指で塞ぎ、頭に服をかぶって、また時には私の言葉を嘲笑い、迷いの道を捨てようとしません」
そのとき、神の啓示のそよ風が、老人の上に吹きました。
「ヌーフよ、あなたに信仰を寄せた人々を除いて、これ以上、信仰を寄せようとする者はいないだろう。それゆえ、彼らの不信心に心を痛めてはならない。我々の監視の下で船を作るがよい。これについて圧制者たちに話をしてはならない。彼らは皆、溺れ死ぬであろう」
その日の朝、人々は、ヌーフが船を作るための道具を用意しているのを見ました。彼は優しい父親のように、再び彼らに警告を与えました。しかし、彼のそばを通り過ぎる人は皆、彼をあざ笑いました。
「ヌーフよ、どうしたというのだ?あなたは以前、自分が預言者だと思っていたのに、今は大工にでもなったのか?」
また別の一人は言いました。
「ここに海はない。きっと牛に船を引かせるつもりだろう」
ヌーフはこうした嘲笑に耐え忍び、何も言い返さず、時折、寛大な態度でこう答えていました。
「あなた方は今、私をあざ笑っているが、まもなく、今度は私たちが、あなたたちを非難し、嘲笑することになるだろう」
そのとき、神からヌーフに啓示が下りました。
「我々の命が下り、責め苦のしるしが現れたら、船に向かいなさい。そして自分の一族と民の中から、あなたに信仰を寄せた人たちを船に乗せ、地上にある全ての存在物の中から、ひとつがいを用意しなさい」
そして約束のときがやって来ました。激しい雨が降って洪水が起きました。泉が沸き立ち、丘や山に水があふれました。人々は恐れながらあちこちへと逃げ回っています。彼らは、ヌーフが大急ぎで敬虔な人々を集め、こう言っているのを見ました。
「船に乗りなさい。この船は神の名のもとに動き、神の名のもとに止まる」
ヌーフの船は、大きな波の中を走り出しました。そして信仰を寄せた人々は、自分たちが助かったことに安堵していました。そのとき、ヌーフは洪水の波を逃れて山の方へと向かっている息子のキャンアーンの姿を見つけ、大声をあげました。
「息子よ、私たちの船に乗りなさい。不信心者となってはいけない」
しかし、キャンアーンは言いました。
「私は山の上に行き、この洪水から逃れます」
ヌーフは、息子の愚かさに悲しみながら、声を振り絞って答えました。
「今日は、神の慈悲に授かった者以外、神の命から守られるものはいない」
すると突然、大きな波が二人の間を引き裂き、ヌーフは息子の姿を見失ってしまいました。ヌーフは悲しみに沈み、神に向かって言いました。
「神よ、私の息子は私の一族です」
すると神から声が下りました。
「ヌーフよ、あなたの息子はあなたの一族ではない。彼は無知と頑なな心に支配されてしまった。だが、あなたの導きに答えた者たちは、あなたの一族である。そして、あなたの神の言葉を偽りだと考えた人々は、あなたの取り成しにあずかることはない」
ヌーフは、自分が父親としての愛情に惑わされていたことを悟りました。しかし、突然我に返り、祈りを捧げました。
「神よ、私はあなたに尋ね、私が知らないことをあなたに求めます。もし私を試したりせず、私に慈悲を授けてくださらなければ、私は損害を蒙る者の一人となるでしょう」
ヌーフの反対者たちが滅びたとき、青い空が姿を現し、洪水は収まりました。ヌーフの船は無事に山の上へとたどり着いたのです。そのとき、ヌーフに神の声が下りました。
「地上に降りなさい。あなたと、あなたに信仰を寄せた人々は船から降りなさい。彼らは神の慈悲と恩恵に授かるであろう」
預言者ヌーフの物語は、第71章ヌーフ章、第23章アル・ムウミヌーン章信者たち、第11章フード章など、数多くの章に出てきます。