7月 08, 2018 21:10 Asia/Tokyo
  • キツネ
    キツネ

昔々のこと。あるところに、ブドウ畑を持つ農夫が暮らしていました。

昔々のこと。あるところに、ブドウ畑を持つ農夫が暮らしていました。

農夫は、ブドウがたくさん収穫できるように、手塩にかけて苗を育て、甲斐甲斐しく世話をしていました。時には、畑に水がいきわたるよう、夜通し寝る時間も惜しんで、作業を続けることもありました。そのお蔭でブドウの木は順調に育ち、たくさんの大きな房をたわわに実らせるまでになりました。

 

ところがたったひとつ、彼は大きな悩みの種を抱えていたのです。その悩みの種とは、一匹のキツネが夜中に畑にやってきては、ブドウを食べるだけでなく、ブドウの木をめちゃくちゃに荒らしていくことでした。農夫は一生懸命、キツネを罠にかけようとしましたが、無駄でした。キツネは単純な罠にかかるほど愚かではなかったのです。

                         

農夫は、幾日も畑の傍で寝ずの番を続け、キツネが罠にかからないかと見張っていました。しかし、いつもそれは空振りに終わっていたのです。そうこうしているうちに、農夫はある日、別のやり方を思いつきました。

「そうだ、キツネの通り道に落とし穴を掘って、その上を甘いブドウで覆ってしまうというのはどうだろう」

 

農夫は、「今度こそ、キツネは熟したブドウの甘い香りにつられて穴に落ちてしまうに違いない」と期待を抱いていました。しかし、今回の農夫の名案も徒労に終わってしまいました。危険を察知したキツネは、別の道から遠回りして畑に入り、今回もさんざんブドウの木を荒らしていったのです。

 

農夫は途方に暮れてしまいました。いったいどうしたら、ブドウ畑をキツネの害から守ることができるのでしょう。農夫は、村の経験豊かな老人に、知恵を貸してくれるよう頼みました。老人は農夫に向かって、次のようにキツネを罠にかける方法を教えてくれました。

「キツネの通り道に罠を仕掛けなさい。そして、ここが肝心だ。そこに肉を置いておくのだよ。キツネは肉につられて罠の存在を忘れてしまう。そこでまんまと罠にかかるというわけだ」

 

農夫は老人に言われた通りにその方法を実行しました。彼はキツネが肉を食べた後、もう二度と悪さができないように、肉に毒さえ塗っておきました。こうして農夫は「今度こそキツネを退治できるぞ」と安堵して家へと戻り、その夜はぐっすりと眠ったのです。

                        

翌朝、農夫が畑にやって来ると、その日も相変わらず畑は荒らされていました。しかも、仕掛けた罠の上に置かれた肉にも、手がつけられた様子はありませんでした。がっかりした農夫はもう一度老人の所へ足を運び、事の次第を説明して、さらに良い知恵を貸してくれるよう頼みました。

 

農夫の訴えにしばらく耳を傾けていた老人は、このように助言を与えました。

「君が相手にしているのは、随分賢いキツネのようだ。もしかしたら、肉に毒を塗ったのがまずかったのかもしれない。きっとそうだ。キツネは、肉の匂いに誘われて罠に近づいたものの、毒の匂いに感づいて、それを食べなかったに違いない。今度は肉に毒を塗ったりしちゃだめだ」

 

農夫は老人の言うことを忠実に守り、もう一度、キツネが通るブドウの木の間に罠を仕掛けました。そしてそこに、柔らかくて新鮮な、見るからに美味しそうな肉の塊を置きました。でも、老人の言う通りにはしたものの、農夫は、「おそらく今回もキツネが罠にかかることはないだろう」と期待してはいなかったのです。

                         

夜になりました。キツネはいつものように、畑にやって来ました。そうして、まだブドウに手をつけないうちに、新鮮な肉の匂いを嗅ぎつけました。いかにも食欲をそそる美味しそうな香りです。キツネは匂いを追って、罠のところまでやって来ました。置かれている肉を前にして、キツネは考えました。

「畑の持ち主はどうやら懲りない性格のようだ。この前と同じように、この肉に毒を塗って、私を殺そうとしているのに違いない」

 

キツネは警戒しながら肉の方へと近づきました。注意深く肉の匂いを確かめてみましたが、どうやら毒の匂いはしません。それでもキツネは不用意に肉に近づくことはせず、欲張らないでブドウで我慢しておこうと考えました。しかし、新鮮な肉の匂いはキツネを捉えて離しません。キツネはこうも考えました。

「新鮮な肉は、ブドウよりもはるかにご馳走だ。だが、こんなところに肉が落ちている理由ははっきりしている。よくよく気を付けなくては」

 

キツネはしばらくの間、肉を前に考えあぐねていました。やがて、慎重に肉に近づき、さらに注意深く肉のにおいをかぐと、毒が塗られていないことを確信しました。それでもこう考えました。

「罠が仕掛けられているかもしれない。でも私の方が農夫よりもはるかに賢いのだ。肉に口を近づけるのではなく、手か尻尾を使って、肉を向こう側にころがしてみよう。そうすれば、罠が仕掛けられていても、大丈夫。明日になって畑の持ち主が目にするのは、キツネも罠にはかかっておらず、新鮮な肉もなくなっている、という光景だ」

 

キツネはこう頭の中で段取りを踏むと、ゆっくりと肉の方に近づいていきました。そして、今度は肉に背を向け、尻尾を使って肉を遠くに投げ飛ばそうとしました。しかし、キツネの思惑とは違い、最初に力をいれただけで、罠のスプリングがはずれ、尻尾がガッチリと罠に挟まってしまったのです。キツネは必死で逃れようとしましたが、できませんでした。

 

翌朝、農夫はキツネが罠にかかっていることを期待半分で畑にやって来ました。すると驚いたことに、本当にキツネが罠にかかっているではありませんか。農夫はたいそう喜びました。ゆっくりとキツネに近づき、村につれて行くために手足を縛りました。縛りながら、農夫は考えました。

「どうしてキツネの口や頭ではなく、尻尾が罠にかかっているのだろう?」

そのわけに思い至ったとき、農夫はキツネに言いました。

「君は本当に賢いキツネだ。頭ではなくて、尻尾を、罠に近づけたんだね。でも、賢さもそこまでだった。キツネの尻尾が、罠にかかるとは知らなかったわけだ」

 

その後、すべてのことを計算に入れた上で、それでも問題に巻き込まれてしまう人のことを、このように言うようになりました。 

 

「賢さから、キツネの尻尾が罠にかかった」

 

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