8月 26, 2018 20:56 Asia/Tokyo
  • 嫉妬すること
    嫉妬すること

昔々のこと、将校を父に持つ、とても賢い若者がおりました。

昔々のこと、将校を父に持つ、とても賢い若者がおりました。

この若者は豊かな教養に加え芸術的な才能も併せ持っていました。彼の有能さを高く評価した王様は、彼に父親と同様、将校としての重要なポストを任せていました。若者は、何をやっても成功し、王様と側近たちは彼の明るい将来に期待を寄せていました。若者もまた、誰に対しても奢ることなく、礼を尽くし、誠意をもって接していたため、皆から愛され、尊敬されていました。しかし中には、そのような若者の成功を妬み、嫉妬の炎を燃やす人々もいたのです。

 

妬み深い同僚たちは、王の前で彼に恥をかかせ、ついでに皆の前でも屈辱を味わわせてやろうと策略をめぐらせていました。嫉妬に囚われた人々は、ありもしない罪をねつ造しては若者が裏切り行為を働いている、と重臣や王様に吹き込んでいたのです。彼らは若者の失脚を心から望んでいたのでした。

 

この醜い人々は、こうした中傷が成果をあげることはなく、反対に彼ら自身の不名誉になっていることに気づいていませんでした。その賢い若者は、王様から全幅の信頼を受けていたため、彼への誹謗中傷も王様の心を動かすことはありませんでした。しかし、妬み深い人々は、懲りもせず、足しげく王様の許に赴いては、若者に対する悪口を並べ立てていたのです。                          

 

賢い若者に対する、敵対者たちの讒言(ざんげん)は止むことがないと悟った王様は、若者を呼び出しました。そして、妬み深い人々がなぜこれほどまでに若者を敵対視して陥れようとまでするのか、そうした行為について、若者本人の意見を聞いてみることにしたのです。

                       

こうして王様は、その若者を自分の許に呼び出し、同僚たちの一部の執拗なふるまいについて、何か思い当たるふしはないか、と尋ねました。若者はしばらくの間言い淀んでいましたが、少しずつ自分の思う所を話しはじめました。

 

「私は周囲の人々、全ての同僚たちと接するとき、彼らを不愉快にさせないよう、常に穏やかであるよう努め、彼らの満足を得られるように心を砕いております。少しでも公平に物事を見ることのできる人なら、これまでの中傷が私には当てはまらないことがわかるはずです。ただし、私に妬みを抱く人たちは別です。彼らは私の失脚だけを望んでいます。私が日々、階段を駆け上がるように、より高い地位に達するのを見て、それを阻もうとするのです。そうした人の中には、私が今の地位や恩恵を失うのを望んでいるだけの人もいますが、それ以上に、強い敵意に囚われている人たちもいるのです。彼らは私の失脚のみならず、死や破滅さえも望んでおります。私は彼らにどのように対処したらよいのか分かりません。私は、大抵のことなら乗り越えられる、克服することができると自負してまいりました。しかし、私を妬む人々の心をどのように導けばよいのか、どうしたら彼らの心から、嫉妬という感情を取り除くことができるのか、分からずにおります」

 

王は若者の言葉に大きくうなずいて、こう言葉を掛けました。

「そう、妬み深い人のために、できることは何もないのだ。賢者のこのような言葉を聞いたことはないか。

『嫉妬は、他人を苦しめる以上に、おのれ自身を苦しめる』

この言葉は、イランの大詩人サアディーの作品の中にも詠まれている」