冬至の夜
多くの社会や文化では、新しい年の始まりと、時に季節の始まりを祝います。
各国、各国国民の様々な暦により、新年の開始や祝祭日は同じ日ではありません。イランでは古代から現代まで、一年が春、夏、秋、冬といった4つの季節に基づいて3ヶ月ごとに区切られてきました。今日のイランの暦もまた、これに基づいています。
イラン人の間で、それぞれの季節にはその特徴に沿った慣習や伝統が広まっています。イランの新しい年の始まりである春には多くの祝祭行事が執り行われます。冬もまた、夜が長く、農作業が休みになることから、昔から特別な祝祭が行われてきましたが、その多くが忘れ去られつつあります。この中で、今も1年で最も長い夜を迎える日、イラン暦デイ月1日を迎える夜には、シャベヤルダーと呼ばれる行事が多くのイラン人の間で行われています。
シャベヤルダーの夜は夜通し起きていて、スイカやドライフルーツ、ナッツで客人をもてなします。実際ヤルダーは、家族が集まって語らう行事です。この慣習では、この夜、それぞれの家族は祖父母に会いに行き、シャベヤルダーの楽しい行事を催し、祖父母に何か思い出話や助言を語ってくれるよう頼みます。もし一家に年長者がいなければ、近所の人や親戚、近い友人などを招き、こうして何家族かが集まり、和やかな雰囲気の中で、シャベヤルダーの行事が行われます。この夜にはたいてい、楽しい話が交わされたり、ハーフェズやサアディといったイランの有名な詩人の詩が読まれます。
シャベヤルダーはその特徴から、友愛の夜とされています。憎しみから離れて和解する夜です。昔から、もし家庭の中に不和があれば、家族の長が双方を家に呼び和解させてきたものでした。
シャベヤルダーの行事は、イラン各地で少しずつ異なった形で行われています。イラン北部のギーラーン州の都市や村では、レモン、オレンジ、ザクロ、スイカ、ピスタチオなどのドライナッツを用意します。この夜、多くの家族が集まって喜びの雰囲気に包まれます。
ギーラーンの町のひとつ、ルードサルではシャベヤルダーの慣習とその行事の催しに加えて、子どもや若者たちが地区ごとに何人かのグループに分けられ、一人がカモシカの皮をかぶって、家々を回り、詩を読み上げます。家の主人は彼らに感謝を示し、贈り物を渡します。ラーヒージャーンでも、ギーラーンの他の町や村と同じようにシャベヤルダーの慣習が広まっています、この夜、婚約者がいる若者たちは未来の配偶者に果物やお菓子、布といった贈り物をします。
カスピ海沿岸のマーザーンダラーン州でも同様の慣習があります。この夜に際して、この地域の若者たちの間にさまざまな遊び・ゲームが広まっています。マーザーンダラーンの多くの村では、シャベヤルダーの夜にハーブ入りのご飯と魚が用意されます。
イラン中部のマルキャズィー州のシャベヤルダーも独自の慣習で行われています。アラークの村では、他家に嫁いだ娘を持つ人は、毎年シャベヤルダーになると娘に贈り物を届けます。
ロレスターンでは、とくに昔、シャベヤルダーになると、部族の親族同士が集まり、明け方まで物語を語り合ったものでした。この他、ロレスターンのシャベヤルダーや冬の夜の慣習として、イランの偉大な叙事詩人フェルドウスィーのシャーナーメ「王書」の語りも行われたものです。しかし現在、通信手段が発達・拡大したことにより、この地域でこうした行事が行われることは稀になってしまいました。この他、ホッラムアーバードで今も行われている行事の一つに次のようなものがあります。若者たちがこの夜、集まって、籠を縄でしばって、家の屋根からそれを隣人の家の前にぶら下げ、地元の詩を朗誦します。そして家主はその労をねぎらい、籠の中にナッツや果物、お菓子を入れてあげるのです。
首都テヘランでも、イランの多くの町と同じように、家族はこの日の長い夜を、年長者のもとで楽しい雰囲気の中、果物やナッツ、お菓子を食べるなどして過ごします。この夜に食べる果物はスイカやザクロが一般的です。このためシャベヤルダーの数日前には果物の値段が上がります。多くの人が、シャベヤルダーを迎えるにあたり、お菓子や果物、ナッツを買って家路に着くのです。