8月 12, 2019 21:29 Asia/Tokyo
  • バルーチ族
    バルーチ族

今回はイランのバルーチ族の口承文学についてお話することにいたしましょう。

バルーチ族の方言は、ペルシャ語の方言の中でも、最も豊かなものの一つで、貴重な口承文学を含んでいます。この地域の文学は、遊牧民族の文化と近く、自然が融合していることから、シンプルであると同時に豊かな内容となっています。バルーチ族の口承文学の比較的多くは格言で占められています。格言はバルーチ族の日常生活、社会的な経験、経済的、心理的なニーズに結びついています。格言の内容を分析することで、バルーチ族の生活の一端をうかがうことができます。

格言は、日常生活におけるバルーチ族の口承文学の表れであり、短い言い回しの中で、価値のある内容が語られ、すべての人が理解できるものとなっています。その一方で格言の存在は、バルーチ族の言語の幅広さを増しています。

格言に関して、基本的に、「書物が存在しない、あるいは制限されている社会では、格言はより幅広く利用されている」という事実を考慮すべきでしょう。バルーチの言語における格言に関しても、こうした状況が認識されています。世代から世代への経験の移転は、このような社会において、口頭で行われています。言葉が短くなればなるほど、内容がさらに濃くなり、その移転も容易になります。このことは格言を語り継がせ、過去の世代は、プラスやマイナスの経験をこうした方法によって移転してきました。

バルーチ族の格言を検討してみると、バルーチの格言の基本的な枠組みや内容が、二つの原則、つまり道徳的にプラスの性質の強化と、道徳的にマイナスの性質の否定に基づいていることがわかります。一方で、格言により詳細に注目すれば、より幅広い下地を認識することができるでしょう。格言の最も重要なテーマは、経済、抵抗、忍耐、連帯、勇気、友愛、努力、約束への忠実さ、祖国愛、寛大さ、そして嘘や自慢、盗み、嫉妬への否定となっています。ここでバルーチ族の幾つかの格言をご紹介しましょう。

 

風は孤独な男のむしろを吹き飛ばす

死んでも約束は破られることはない

死を受け入れるのは困難だが、祖国のためならできる

嘘を言うのは男にとっての恥

飢餓は男を獅子との戦いに向かわせる

 

子守唄もバルーチ族の文学の一つであり、昔から継承されており、バルーチェスターンの一部において今も昔のままの形をとっています。子守唄は、バルーチ語の芸術の趣向を示すものです。バルーチ族の母親はどのような階層であれ、小さな子どものために子守歌を歌います。部族社会の女性たちの気楽な接触は、あらゆる社会的な事柄における経験の移転を可能とし、このことは、子守唄の原型の維持において効果的なものでした。

バルーチ族の母親は、揺りかごを揺らしながら、子どもたちの将来に向けた内なる気持ちや希望をシンプルな詩の中に込めて美しい声で歌います。子守唄の詩は、短い対句の形で韻を踏んでおり、母親は揺りかごのゆれに合わせてそれを歌います。バルーチ族の子守唄は各地域において、それぞれ注目に値する多様性を有しています。とはいえ最終的にそれは、はっきりとした詩の形に従い、多かれ少なかれ、特別な一致を見せています。

 

私の坊やに子守唄を歌いましょう

私の坊や、私の赤ちゃん

私の心の希望剣をつきたて、名を挙げよ

お前の父は善人として名を馳せるだろう

お前の祖父の墓は光をまとうだろう

 

ザヒールクはバルーチ族の口承文学の一つで、女性がその継続に主な役割を担っています。バルーチ語のザヒールクの口調は、思い出、記憶、あるいは愛する人から離れたときの寂しさを思い起こさせます。ザヒールクは、心の底から湧き上がる感情を歌ったものであり、もの悲しく感傷的な歌です。通常、女性が誰かと別れる際に、この歌を歌い、心の中に抱いていることを短い詩の形で歌います。実際、ザヒールクは一種の精神の浄化です。女性は最も危機的な状況の中で精神をそれに寄り添わせ、一つの対句を歌うことで、自らの気落ちを軽くします。たとえば次のようなものがあります。

 

緑の鳩よ

緑の鳩よ、彼に祝福を送っておくれ

ああもうどのくらい経ったのか、1年が過ぎた

来る来ない、あなたがどこにいるかはわからない

あなたを見た、暗い場所で一人でいるあなたを

緑の鳩よ、彼に祝福を送っておくれ

 

スパト、あるいはヴァズバトもバルーチの文学です。スパトはバルーチ族が敬意を示す世界の神、預言者、一部の偉大な神秘主義者を賛美するものです。バルーチ族の宗教的な考え方の重要性に注目すると、神や預言者を賛美する性質を持った詩の一部をスパトとして見出すことができます。

家庭で子供の誕生の際にスパトが用いられます。バルーチ族の女性はこのとき、詩の形で、神が彼らに授けた恩恵について語ります。この種の短い詩は、内容の点からは完全にシンプルなものです。それは、もっとも偉大な恩恵である子が授けられ、喜びであふれる中、崇拝の対象を前にした一人の人間の純粋な気持ちを表したものです。スパトの例を聞いてみましょう。

 

誰が寝ていて、誰が起きているのか

僕は眠り、神は目覚めている

賞賛は神に値するもの

神と預言者に値するもの

 

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