ファールス州;ザグロス山脈
これまで数回に渡り、イラン南部のファールス州を旅し、この州の自然の魅力、バモーとバフテガーンの国立公園についてお話ししました。
今回のシリーズでは、ザグロス山脈の美しい景観と、この山脈の南側に広がるアルジャン・パリーシャーン自然保護区をご紹介しましょう。
アルジャン・パリーシャーン自然保護区は、ファールス州の州都シーラーズから西に60キロ、シーラーズから、その南にあるフーゼスターン州とブーシェフル州を結ぶ街道沿いにあります。1971年にイラン北部のラームサルで開催された、「湿地及び水鳥の保全のための国際会議」を受け、イランの湿地がいかに好ましい状況にあるかを知っていた世界の専門家グループやイラン環境保護局の専門家が、鳥類の多様性や景観の美しさについて、イランの複数の湿地を調査しました。その結果、アルジャン・パリーシャーンが、世界の湿地研究場所として、国際的な特別管理の下に置かれることになりました。
それにより、19万1000ヘクタールの土地が国際公園に指定され、その中央にアルジャンとパリーシャーンの2つの湖が位置していました。このプロジェクトは非常に規模が大きかったため、実際、多くの環境問題や社会問題に直面しました。中でも最大の問題は、公園の敷地内にあった数多くの農村の住民や遊牧民の移住でした。そのため、面積が、9万1000ヘクタール、その後、6万5000ヘクタールに縮小され、地区の名称も、「アルジャン・パリーシャーン国立公園」に変更されました。1974年には、ユネスコから、生物圏保護区に指定されました。
アルジャン・パリーシャーン自然保護区で最も標高が高い場所は、2900メートルの山の頂上です。この山にはサビナビャクシンという針葉樹で覆われています。この頂上の数百メートル下から、カシの森が始まり、地域の大部分を覆っています。アルジャン・パリーシャーンで最も標高が低い場所は、パリーシャーン湖の周辺にある平原で、海抜800メートル、かつてはナツメの森林が広がっていましたが、現在、ナツメの木は、限られた範囲で見られるのみです。
パリーシャーン湖周辺にある平原は、夏は非常に暑く、気温は45度を超えます。冬の夜でも、凍結することはありません。一方で、この地域の北側にあり、標高2000メートルの場所に位置するアルジャン湖の周辺は、冬になると非常に寒くなります。アルジャンの年間の降雨量はほとんどが雪であり、長期に渡って凍結するため、雪の一部は春になるまでずっと残ります。概して、アルジャン湖は、パリーシャーン湖から直線距離で15キロしか離れていないにも拘わらず、一年を通して、およそ15度ほど気温が低くなっています。
パリーシャーン湖は、イランで最も美しい湖の一つです。この湖は淡水で、面積はおよそ4000ヘクタール、その傍らに、緑の生い茂った山や広大な葦原が存在するため、驚異的な美しさを有しています。シベリアやイラン北部から、様々な種類の渡り鳥がこの湖にやって来ますが、数千羽の渡り鳥の存在が、この湖の美しさを倍増させています。
アルジャン湖は、パリーシャーン湖よりも面積は小さいですが、美しさでは劣っていません。湖の面積は、その年の降雨量によって、大きくなったり小さくなったりします。降雨量が多ければ、アルジャン湖の面積は20平方キロメートル以上になり、湖の底や、湖の東に位置する山すそには数多くの穴があり、そこから湧き出る水が湖に流れ込んでいます。降雨量が少ない年には、湖の面積は、数平方キロメートルの湿原のみになります。
アルジャン・パリーシャーン湖の周辺、さらに、この2つの湖の間にある森林で覆われた山々は、昔からファールス州で最も優れた狩猟場として知られていました。この地域は、森林と牧草地の点で優れた地位にあり、その牧草地は、家畜のえさの種類と生産量の点で他に類を見ません。昔の地理書やイランについて書かれた旅行記の多くで、この2つの湖について言及されており、常に、この地域はライオンの生息地だったとされています。およそ70年前まで、この地域には数頭のライオンが生息していましたが、その後、生息地の破壊と乱獲を理由に、この種は絶滅してしまいました。イランで見られるライオンは、アフリカライオンとは大きく異なっており、この種のライオンは現在、インドで見られます。
今日、この地域の状況は、旅行記で語られている、かつての状態とは大きくかけ離れています。とはいえ、アルジャン・パリーシャーン湖は、依然として、この自然保護区の貴重な場所とされています。どちらの湖も、ペリカンやカモなど、絶滅の危機に瀕した多くの鳥たちの繁殖や越冬のために、多くの重要性を有しています。この2つの湖は、絶滅の危機に瀕した鳥類の他、つるなどの多くの鳥が冬を越すのに適した場所となっています。また、どちらも世界レベルで知られており、国際的な研究所の注目を集めています。国連は、数年前、この地域を「鳥類にとって重要な地域」に指定しました。
パリーシャーン湖の傍らの葦原は、ペリカンなどの鳥類の安全な繁殖地となっています。この一帯にいる数百種類を超える鳥類が生きたまま捕らえられ、専門家によって印がつけられています。パリーシャーン湖に常に渡ってくる鳥の中には、アオガンなどの希少価値の高い鳥がいます。地域の湿地の周辺では、各種のワシなど、猛禽類が見られます。概して、気候や植物の多様性により、この地域には多くの種類の鳥が生息しています。これまでに、少なくとも263種類の鳥がこの保護区で確認されています。
この地域の哺乳動物も非常に種類が多くなっています。これまでに50種類を超える哺乳動物が確認されており、より正確な調査により、その数は増えるだろうと考えられます。現在、オオカミ、キツネ、ウサギ、ヒツジ、ハイエナ、ジャッカルといった哺乳動物がアルジャン・パリーシャーン自然保護区で常に見られます。この他、限られた数のヤマネコ、クマ、ヒョウ、ヤギも存在します。近年、イラン環境保護区は、イランに生息しているペルシャダマジカを絶滅の危機から救うために多くの努力を払ってきました。
アルジャン・パリーシャーン自然保護区には、非常に多くの種類の植物も生育しています。この地区は、高い山がたくさんあること、様々な標高の場所に様々な気候を持つ平原が数多く存在すること、カシやナツメの森林があること、淡水や塩水の沼が見られることにより、多種多様な植物が生育しています。そのため、ザグロス山脈では絶滅の危機に瀕している多くの種類の植物が、この地域では見られ、イランにとって、類まれなる種類である点で貴重なものとなっています。