遠藤周作の記録が残されていなかった短編小説 見つかる
「沈黙」などの作品で知られる作家、遠藤周作が、デビュー後まもない時期に発表したものの記録が残されていなかった短編小説が、遠藤周作文学館などの調査で見つかりました。
NHKによりますと、専門家は「後の作品に影響を与えた貴重な作品だ」と話しています。
見つかった作品は「稔と仔犬」というタイトルで、著作目録などには記録がなく、これまで研究者の間でも存在が知られていませんでした。長崎市にある遠藤周作文学館に親族から寄託された3万点以上の資料の中に切り抜き11枚が残されているのが去年見つかり、文学館や研究者、それに出版社の河出書房新社などのチームが詳しい調査を進めていました。その結果、この作品は遠藤周作が初めての小説を発表した次の年となる1955年からおよそ1年間、キリスト教系の団体の機関紙に連載されたものと分かり、切り抜きが残っていなかった2回分も含めて、13回分すべてを見つけ出すことができたということです。作品は、父親を戦争で亡くし、母親と貧しい生活を送る少年「稔」が、子犬を拾ったことをきっかけに、教会の神父や友人たちとのつながりを深めていく姿を描いたものです。明るさを取り戻し始めた稔でしたが、ある日、妬ましく思ったいじめっ子が、稔に空気銃で教会のマリア像を撃たないと代わりに子犬を撃つと迫る場面で、終わっています。作品はこのあと休載となり、再開されないまま連載が終わっていました。遠藤周作はこのおよそ10年後に発表した代表作の「沈黙」で、キリシタンが弾圧された江戸時代に踏み絵を踏むことを強要された宣教師の葛藤を描いていて、調査にあたった文芸評論家の今井真理さんは「遠藤周作が子どもを主人公にした小説を書くことは非常に珍しい。幼い子どもの悲しみやつらさを的確に描いており『沈黙』など後の多くの作品に大きな影響を与えたといえる貴重な作品だ」と指摘しています。この「稔と仔犬」は、来年2月に出版されるということです。
ことしは遠藤周作が亡くなって25年にあたり「日本人にとってのキリスト教」を生涯のテーマに、宗教や倫理観の在り方について問い続けた作品は、今も国内外で高い評価を受けています。
長崎市遠藤周作文学館の川崎友理子学芸員は「遠藤先生の伝えたいテーマというのがすごく詰まっていて、読みやすいけれども深い作品だなと思う。作家として初期の段階で、すでに人間の悲しみや苦しみを理解してくれるまなざしを描いていて、それがどのように深められていったのか、今後、研究していきたい」と話していました。
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